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江戸幕府再興会  作者: 零月隼人
13/14

第12章「将軍の苦悩」

「来たか。」

将軍は短くそう言った。

そして、となりにいた老中の方へ目をやる。

「すまないが、外してくれ。」

「上さまのお心のままに。」

老中が、一礼し退出した。

部屋には、私と将軍の二人が残された。

将軍は立ち上がる。

「改めて、私の命を救っていただいて、感謝している。私はあの場を、帝との決着の地と位置づけ、警戒を怠っていないつもりだった。しかし、まさか罠に掛けられていたとは・・・・・・

帝を囮に使うなど、さすがに予想外だった。」

将軍は、再び頭を下げた。

ふむ。将軍は本当に感謝しているようだ。

それなら、先ほどの進級は取り消してほしいのだが・・・・・・どうにも言い出せる空気じゃない。

私はフォローに回る。

「致し方ないことです。相手の方が一枚上手だった。それでも、なんとか勝利を収められた。今はそのことを喜びましょう。」

「・・・・・・そう言ってもらえるだけで、救われる。全ては私の失策が原因だというのに・・・・・・」

おいおい、思いの他ナーバスだぞ。将軍らしくない。

私はどう声をかければいいか迷う。

そして・・・・・・何を血迷ったか、将軍は刀を取り出した。

しかもそれは、いつも腰に携えている自刀ではない。

「妙純傳持━ソハヤノツルギウツスナリ━」

いやいやガチすぎる。

「近藤、悪いが今から、打ち合いに付き合ってもらえないか?

当然真剣による、真剣勝負だ。」

は⁉

コイツ、どれだけ恩を仇で返したら気が済むんだよ‼

でも・・・・・・目がガチだ。

断れる雰囲気じゃない。

やむを、得まい・・・・・・

()(てつ)

私も、愛刀を抜いた。


生徒会室の窓上部より、壁に張り付いて中の様子を窺っていた才蔵は、何やら剣呑な雰囲気を感じ取り、突入を決意する。

「何をしてるんだい、土方君?」

しかし、その行動には待ったが掛かる。

屋上より、容永が呼びかけたのだ。

やむを得ず、才蔵は屋上までよじ登る。

「松平さん、あんたは今、生徒会室内で何が起こってるのか知ってんのか?」

「老中だ。沙汰は知らん。私は上様の命に従うだけよ。」

この返答に才蔵は憤慨した。

「勇美に危害が及ぶかもしれねーんだぞ!勇美はまだ本調子じゃねえ。今すぐ止めさせろ‼」

しかし、容永は冷静のまま言う。

「言っただろ。全ては上さまのご高察の通りだ。生徒会室へ行きたいのなら、私を倒してからにしろ。」

そして容永は、刀を構えた。

才蔵は歯軋りする。

「ちっ、しゃーねえなあ。手早く終わらすぞ!」

そして才蔵も、拳を構えた。


私と将軍の刀が交わる。

「将軍、どうしてこんなことを・・・・・・」

「・・・・・・分からない、私の今の心情。なぜ配下に、命の恩人に、刃を向けているのか・・・・・・

それでも、抜かずにはいられない。まるでそれが宿命かのように・・・・・・」

将軍の顔は苦しそうだ。

かく言う私も、しぶしぶだったはずが、闘争心を抑えられない。

これは一体なんなのだろうか。

刀と刀が無数に交差し、電撃が走る。

「クッ」

「ウゥッ」

将軍の技量は素晴らしいものだ。

これまで戦った如何なる者よりも、上回っている。

私は、やや後退し、体勢を立て直す。

クソ、これは遊びではない。私も本気を出さねば、命を取られかねない。

私は両手で刀を構え直す。

「将軍、悪いですが、全力でいかせていただきますよ。

つばぜり合いに付き合うつもりはない、一気に片を付ける‼」

「よかろう、私も必殺を使う‼」

将軍も、構え直したようだ。

互いの間に、静寂が訪れる。

勝負は一瞬だ。

私と将軍は、同時に駆けだした━━━

「竜尾剣‼」

「公方剣斬‼」

虎徹と妙純傳持が激突した。


才蔵の拳と、容永の刀が交わる。

「なるほど、さすがは土方歳三の末裔、見事な拳技だ。

━━しかし解せぬな。なぜ貴様は刀を使わない?」

これに対し、才蔵は肩を竦める。

「お前ら、銃刀法って知っている?まあそれについちゃ、うちの勇美だって人のことは言えねーが。

俺は昔から、剣より拳の方が秀でていた。なら、わざわざ刀剣を使う必要もねーだろうが。」

「ふ、たしかに一理あるな。」

会話の間にも、二人の拳と刀は無数に行き交っている。

今度は才蔵が尋ねる。

「松平さん、どうしてあんたは、こんなにも将軍へ執着してんだ?」

「老中だ。我々臣下が、上さまに忠節を尽くすのは当然のこと。特に松平家は、徳川将軍家をお支えするのが一門の役目。なれば私も、その習わしに従うのみ‼」

才蔵はため息をつく。

「そうかよ・・・・・・まあ、お前らが将軍をどう敬おうが構わねー 俺達をどう扱うかもな。

・・・・・・だがこれだけは言っておく。俺はお前達に忠義を尽くすわけじゃねー 勇美のためにここにいる。

愛する者のために、俺は戦う。

俺の主君は━━近藤勇美だ‼」

そして、必殺を放つ。

「秘拳・燕返‼」

才蔵の拳が、容永の正面に直撃した。

「ぐはァ」

容永は、膝から崩れ落ちた。

才蔵が容永の横を通りすぎる傍ら、発言する。

「わりーな。俺にとっては、勇美が全てだ。」

それを聞き、容永は満足したように返す。

「・・・・・・フッ、いい覚悟だ。」


地に伏したのは、将軍の方であった。

私は思わず、そのまま立ちすくんだ。

「・・・・・・」

将軍は、しばらく無言だった。

・・・・・・あの、大丈夫だよな?

息があるのは確認しているが・・・・・・私、殺ってないよね?

・・・・・・

やがて将軍が、口を開いた。

「お前と打ち合って、ようやく私は、自分の気持ちに気がついた。」

将軍が起き上がり、私の前で跪く。

「お前が好きだ、勇美。」

・・・・・・

・・・

え?

今コイツ、なんつった?

私のことが好きって言わなかった⁉私の聞き違いだよねえ!!?

困惑する私だが、将軍は構わず続ける。

「お前を見ていると、いつも絡みたくなる。からかいたくなる。かなり奇怪なことを言っても、お前は嫌々ながらも、それを受け入れ、付き合ってくれる。

お前が入学してからの私は、何かに取り付かれているようだった。先来、命を救われていてからは特にそうだ。私は、その正体が何か分からなかった。だから戦った。打ち合った。

そして分かった。

これは愛だ。

当然、江戸幕府を再興するという指針に嘘偽りはない。

だがそれとは別に、私は将軍としてではなく、一人の男として、お前が好きだ。

━━愛している‼

・・・・・・勇美はどうだ?将軍でない私個人を、どう思っている。」

・・・・・・

・・・

マジで言ってる?

そんなこと急に言われてもなあ・・・・・・

返答に困るとはこのことであった。

だが最近の私も、たしかにおかしかった。

嫌だと言いながらも、なんだかんだいつも、江戸幕府再興会に足を運んだ。どんな不利な外征でも、全力で戦った。挙げ句の果てには、自身の命を危険に晒してまで、将軍を庇った。

・・・・・・

だから私は、こう言う。

「しばらく・・・・・・考えさせてください。」

そして、相手の顔も見ず、私は生徒会室を、去って行った━━━━━━


容永との戦いを終え、生徒会室に急行した才蔵であったが、将軍と勇美の一部始終の会話がドア前で聞こえてしまい、言葉を失い固まった。

「しばらく・・・・・・考えさせてください。」

この言葉が聞こえると、思わず身を隠す。

直後、勇美がドアから飛び出し、周りにも目をくれず、走り去っていった・・・・・・

才蔵は呆然と立ちすくむ。

「勇美・・・・・・」


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