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江戸幕府再興会  作者: 零月隼人
12/14

第11章「回帰した日常」

鹿児島県・造士館高校。

後に俗に言われることになる、第二次禁門の変に敗れた薩長の生徒達は、9割の死者を出しつつも、この造士館へと落ち延びた。

西郷高森と桂孝允を喪失した薩長は、明倫館側は1年弐組の伊藤広踏、造士館側は1年い組の大久保敏路を代表者とし、この場の最高権力者に事の顛末を報告した。

その者こそ・・・・・・

「フン、兄上がご逝去されたか。計画通りとはいえ、心底情けない。」

帝こと天野孝明の妹である、天野カズノミーヤである。

兄がやられたにも関わらず、随分なご機嫌である。

これには、伊藤も大久保もドン引きだ。

最も、カズノミーヤは天野家の養子であり、孝明との血のつながりはないのだが・・・・・・

「これでわっちの時代でありんすね。わっちは迂闊な兄上とは違う。必ずや、江戸幕府再興会の寝首を掻くでありんす。」

これを聞き、伊藤と大久保は思う。

((ああ、江戸幕府再興会と敵対するのは同じなのね・・・・・・))


どのくらいの時間が経ったのだろうか。

坂本さんとの戦闘が終わり、意識を失った覚えはあるのだが・・・・・・

私の目には、真っ白な天井が目に入る。

「あら、目が覚めたのね。」

ハリのある女性の声が聞こえた。

この声━━名前は覚えてないけど、たしか養護教員の先生だ、昌平坂の━━

「おぉ、目が覚めたか!心配したんだぜ、ったくよう・・・・・・」

横には、才蔵の顔が見える。

良かった、無事で。

「勇美、一週間以上目ぇ覚まさなかったんだぜ。まったく、マジでもう無理かと思ったぜ。」

一週間・・・・・・

私はそんなに眠っていたのか。

見ると、私のことを心配してくれていた才蔵も、全身包帯の大怪我だ。

本当に、コイツはいつも、他人のことばかり・・・・・・


傷も少し癒え、なんとか心身共に回復した私は。

保健室を出て、まず最初に江戸幕府再興会の部室へ向った。

いつぞやは早く抜けたいと言ってた同好会である。

その気持ちは今でも変わっていないはずなのだが、なぜかそこへ向う足が止まらない。

後ろに才蔵も着いてくる。

「こうして校内を勇美と歩くのも久しぶりだな。ここんとこ、外征続きだったもんで。」

「・・・・・・そうね。」

私はわずかばかり首肯する。

そうこうしてる内に、部室前に着いた。

私は、ふうっと息を吐く。

そして━━ドアを開けた。


まず、真っ先に将軍に目がいく。隣に老中。

その周囲に、旗本の、鳥居さん、遠山さん、小栗さん、矢部さん、室さん。

隅には、明智さんと掃除君もいる・・・・・・コイツらいつの間に仲良くなったんだろう。

島津先生は不在か。

いつものメンバーだ。

そして、将軍はというと。

面食らったように、目を見開いていた。

・・・・・・どういう表情だよ。

私は丁重に、しかし無機質に言った。

「近藤勇美、ただいま戻りました。」

将軍は無言で、ただひたすら私を見つめていた。


しばらくの後、将軍が口を開いた。

「近藤と土方も揃ったところで、改めて此度の総括を行う。

まずは、容永、秀光、近藤、土方、沖田、此度の戦、ご苦労であった。

皆の協力によって、試衛館を薩長の部隊から守り抜き、忌むべき怨敵、帝の討伐に成功した。これは、言葉では言い表せない程の多大なる功績である。」

ここで将軍は、一息いれ、私の方を見る。

「特に近藤には、感謝を尽くしても及ばない程だ。貴殿は、将軍たるこの私の命を救ってくれた。これは、私個人としても、江戸幕府再興会全体としても、これ以上なき御事だ。

ここに改めて、感謝申し上げる。」

ここは・・・・・・このくだらない芝居に乗っておくべきかな。

「当然のことをしたまでです。」

すると将軍は、ハッとした顔をした。

「今回の功労に敬意を表し、近藤勇美、貴殿を大名に昇格させる。」

・・・・・・その称号、何か意味あるのか?

どうせ、名前だけのものだろう。

そう思っていたのだが。

「ついては、学年も三年に進級させる‼」

「はあ⁉」

大人しく聞いてたら、コイツとんでもないことを言い出したぞ!

恩を仇で返しやがった!

何で急に、受験生にさせられるんだよ!ついこないだ高校受験終わったばかりなのに。どういう処罰だよ‼

学業はどうすんだよ⁉数学とか、理科系科目とか。習ってないのに、受験は無理ぞ。

ていうか、学校生活は?行事は?

ていうか、生徒会長ごときが、なんで他生徒の学年いじれるんだよ。

こんなの、断固辞退だよ‼

頭がパニックになっている私を、老中が宥める。

「落ち着け、近藤には、三年間、高三をやってもらう。」

それ留年じゃねーか!二留だよそれは。

そして三年間、受験生だよ!地獄かよそこはッ‼

慌てる私を、将軍はニコニコと見つめている。

まったくコイツは・・・・・・人のことをなんだと思ってるんだ。

しかししばらくすると、将軍は急に真顔になった。

「それと近藤、お前には個人的に話がある。

部活動時間終了後、生徒会室まで来てくれ。」

そう言うと、将軍と老中は、部室を出て行った。


二人がいなくなると、部室は気の抜けた空気になる。

「それにしても、近藤ちゃんは大変だねー いつも、上様に振り回されて。

━━あ、もう近藤殿と呼ばなきゃだめか~、言葉も敬語で。」

旗本の矢部さんがいじってくる。

「ほんと、勘弁してもらいたいですよー

あと、言葉は今まで通りタメでいいんで。先輩に敬語を使われちゃ、むず痒いですから。」

まあ、旗本の先輩に関しては、この部活はかなり良きよな。

私は、才蔵の方を振り返る。

才蔵は、やれやれと首を振っていた。

今度は、明智さんと掃除君の方を見る。

あれ、そういえば、二人の方って、戦果どうだったんだろう?全然聞いてないや。

私は、二人の方に近づく。

「そういえば、掃除君達の方ってどうだったの?あんな大軍相手してたのに、何事もなかったかのようだけど・・・・・・」

「気安く話かけるな。空気が汚れる。」

それだけ言うと、掃除君はそっぽを向いてしまった。

彼の毒舌は相変わらずだね。

すると代わりに、明智さんが説明してくれた。

「島津殿の車から下車した後、私と沖田殿は、薩長の大軍を前に正面から進みました。そして━━━━」


━━時は第二次禁門の変、試衛館前に戻って・・・・・・

「皆の者、かかれーーー‼」

全兵が、二人に向って迫る。

それを見た明智が━━ニヤリと笑った。

【時は今 雨が下しる 五月哉】


次の瞬間、前方半径5mにいた人間全員の、首が飛んだ。

「「なんだ、コイツ⁉」」

薩長の兵達は、そのあまりにも強大な実力に、一同ドン引いた。

すでに明智の能力を知っていた沖田は・・・・・・トラウマを思い出したように、一人身震いしていた。

明智が沖田に告げる。

「それじゃ、みんなまとめて狩り上げていきますから、撃ち漏らしを頼みますよ!」

「は、はい!」

明智はそれだけ言うと、途端に掛け出し、次々に薩長の兵の首を刎ねていった。撃ち漏らした敵は、沖田の三連突きにより、確実に絶命に至らしめる。

まさに、旧知の仲だったような連携だ。

そこには、情愛も何もないが。

こうして、軍勢の大半が、ほぼ明智一人の快挙により葬られていった。

だが。

「ムッ」

掃除は、背後に殺気を感じ、咄嗟に防御した。

「チッ、不意打ちが通用しなかったか。」

明智の取り逃がした兵の一人が、掃除に牙を向いたのだ。

すでに明智は、遠くの敵の始末に奔走している。

ここは掃除が相手する他ない。

「思いの他手負いのようだ。貴様の名前を聞こうか。」

すると、その薩長の兵が答える。

「明倫館高校1年弐組 伊藤広踏、一騎打ちを申しこみたい。」

「それはこちらも望むところ。

試衛館高校環境美化委員会委員長 二年一組沖田掃除、その申し出受けて立つ!」

こうして、伊藤と沖田の決闘が始まった。

まず、沖田が仕掛ける。

「必殺、三連突き‼」

初手から必殺だ。もっとも、沖田はこの技しかできないため、初手も必殺もないが。

「フッ」

伊藤はひらりと交わす。

この動きを見、沖田は相手がただの雑兵ではないことを改めて悟る。これまでの一般兵であれば、この一撃で終わっていたからだ。

沖田は再び刀を構え直す。

・・・・・・といっても、やることは先ほどと変わらない。

「三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!」

ただひたすら三連突きを撃ちまくった。

「クッ」

伊藤の顔から、余裕がなくなった。

三連突きの攻撃自体は単調だ。

しかし、連続で出された場合、裁ききるのは困難となる。

さらに。

「三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!三連突き!」

「ウッ」

ついに、伊藤は脇腹に一突き、食らってしまった。

伊藤は引き際を誤るほど、単純な人間ではない。

「全軍、引き上げるぞ!」

軍勢を連れて、そのまま引き下がった。

「チッ、逃がしたか。」

沖田は、撤退した伊藤らを毒付く。

そこへ、明智が戻る。

「まあ、良いではありませんか。

━━それでは、始めましょう。」

この言葉を聞き、沖田は咄嗟に青ざめ、ガクガク震えた。


・・・・・・え?これで終わり?

なんか、中途半端な終わり方したけど、明智さんはニコニコと笑ったまま沈黙した。

掃除君の方を見るも、何か説明を補足する気もないようだ。仏頂面で押し黙っている。

・・・・・・本当に、何があったのだろう?

ちなみに、試衛館に攻め込んだ薩長の兵の遺体は、見つかってないという。

一体、どこに行ったのだろうか?


終始ニコニコ笑っていた明智さんだったが、やがてポンポンと手を叩き、部員達の視線を集めた。

「さてさて皆様方、まもなく最終下校時刻でございます。外も暗くなってきておりますので、お気をつけてお帰りください。」

「・・・・・・おいおい、俺の仕事取るなよ。」

あれ、島津先生いたんだ。

明智さんは続ける。

「それと、近藤殿は上様よりお召しがかかっておられるのですよね?私が生徒会室までお送り致しましょう。」

そうだ、将軍に呼ばれてるんだった。

何だろう、めっちゃ怖いんだけど・・・・・・

私は才蔵の方を見る。

才蔵は頷く。

まあ、怖がっていても仕方がない。行くとするか。

私は、明智さんへ付いていった。


生徒会室の前に着いた。

「近藤殿。私の御供はここまでとなります。どうぞ中へお入りください。」

私は、ドアをノックし、中に入る。

「来たか。」

将軍は、私を見て、ポツリと呟いた。

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