第10章 「暗躍者~後編~」
坂本さんとの熾烈な攻防戦が続く。
私の攻撃を、右手刀で制し、銃弾を撃ち込んでくる。
私はなんとか避けつつ、さらに追撃する。
しかしそれも届かない・・・・・・
「オラッ!」
才蔵も挟撃する。だが、それも難なく交わされる。
「ふむ、おんしらじゃーあしにゃ届かぇいようだぞ。」
私と才蔵は、それぞれ対になる方向へ吹き飛ばされた。
強い、さすがに強すぎる。
私と才蔵の目が合う。
才蔵が語りかけてくる。
(俺が囮になる。その隙に、必殺を打ち込め!)
(⁉ できないよ、才蔵が囮なんて、危険すぎる!)
すでに才蔵は、西郷さんとの戦闘で満身創痍だ。
動かぬ体を、なんとか動かしているのだ。
にもかかわらず才蔵は、私の忠告を聞かず、突っ走った。
「うぉ━━━!」
坂本さんがやや目を見開き、呆れたように呟く。
「愚かぇ、敵わないと知って、まだ抗うかぇ。」
坂本さんは、銃弾二発を才蔵に撃ち込んだ上、剣撃を正面に食らわせる。
しかし才蔵は、相打ち覚悟で必殺を放つ!
「秘拳・燕返‼」
坂本さんの胴体に、力の限り全力の一発を、打ち込んだ。
「チッ」
残念なことに、致命傷には至らなかった。
才蔵の特攻もここまでで、無念にも地に突っ伏した。
しかし!
今現在、坂本さんは、私に背を向けている。
地に伏す直前、才蔵がふっと微笑んだように見えた。
・・・・・・今しかない!
私は、駆け出した。
「天然理心流━━━龍尾剣‼」
私の奥義が、坂本さんを襲う。
……だが。
カキンッ
「ッ⁉」
坂本さんは、銃で私の攻撃を防いだ。
銃の装甲は耐えられず、真っ二つに割れた。
しかし、私の奥義を受け止めるのには、十分だった。
坂本さんの目が光る。
「風雅」
ッ⁉
まさかの、反撃である。
私は裏打ちを狙ったのに、相手の必殺技を叩き込まれてしまったのである。
私もまた、倒れこむ。
坂本さんは、両手で刀を持っている。
「いやいや甘え、小娘共。」
すでに才蔵は意識を失っている。
私も、これまでの傷の累積で、立ち上がるのがやっとだ。
・・・・・・・それでも。
私は起き上がるのに悲鳴をあげる体で、なんとか立つ。
「ほう、ほきも立ち上がるか。」
・・・
才蔵が、やられた。
よくも、よくも・・・・・・
「よくも才蔵をッ‼」
私は体にガタつく前に駆け出す。
坂本さんは、驚愕したように目を見開く。
「スピードが、上がった・・・・・・?」
「よくも、よくも!」
私は狂ったように、ただひたすら斬撃を加える。
もう天然理心流だろうがなかろうが、関係ない。
力の限り、刀を振るだけだ。
坂本さんに、若干の焦りが見える。
「なぜだ、なぜここまで斬っても倒れん!」
私の身体には、無数の傷が切り刻まれていた。
それでもなぜか、痛くない。
「うぉぉぉ━━━━━━ッ‼」
私は雄叫びをあげ、力の限り坂本さんに一撃を加えた。
「ぐはぁッ!」
坂本さんが吐血する。
この時、私の無意識下で、天然理心流の神髄が覚醒した。
記憶にはない、しかし身体が勝手に動く。
それは、奥義を超える━━━
「天然理心流最高奥義、神殺剣!」
直後、坂本さんの、首が飛んだ。
いつの間にか終わっていた、それが私の感じた感覚だ。
見えぬ斬撃、全てを絶つ一撃。
神殺剣はその名の通り、神をも滅ぼす代物なのだ。
戦は終わった。
火の手が迫っている。すぐにでもここを去らねばならない。
だが、膝をついてしまう。
立ち上がる気力は、もうなかった。
「い、勇美・・・・・・」
誰かの声が聞こえる。
その声が僅かに脳裏に響きながら、私の意識はそこで途絶えた。
━━━この時の私は知らなかった。この戦いを、木の陰に隠れて見ていた、第三者がいたことを。
それは、齢12歳の少年。
彼は、坂本さんの首が刎ねられたを見て叫んだ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」