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江戸幕府再興会  作者: 零月隼人
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第9章 「暗躍者~前編~」

桂さん達との戦闘が終了した直後。

私と才蔵は、とにもかくにも、例の逃げ出した九条直只さんを追いかけることにした。

直只さんは駆け足で、今出川通りを東に進行、鴨川を渡り、東山方面へと進んだ。

才蔵が呟く。

「あいつ、どこに向っているんだ?」

私にも、分からない。ただ、彼を取り逃がしてはならないのはたしかだ。

何か・・・・・・嫌な予感がする。


九条さんは、そのまま東山の山道を登り、私達を撒くように、忍者のように山岳地帯を登下する。

やはり、尾行に気づかれていたのだ。

一歩油断すれば、見失いそうだ。

このままの状況は、あまりよろしくない。相手は私達を振り切ろうとしているのだ。私達を帝の元へ連れて行くわけにはいかないので、どうせ目的地までへは迂回して進んでいることだろう。つまり、これは消耗戦、互いにとって無意味な時間となる。

ならば。

私は才蔵に合図を出す。

「才蔵はこのまま、九条さんの追跡を続行して。私は一旦離脱するように見せかけて、迂回して相手の前に行き、挟み撃ちにする!」

「⁉でもよ、たとえ捕まえても、アイツは死んでも帝の居場所を言わないんじゃ・・・・・・」

「大丈夫、私に考えがある‼」

それだけ言うと、私は、明後日の方角へと走り去った。

遠目に、変わらず九条さんを追いかける、才蔵の姿が見える。

それを尻目に、私はかなり迂回して回り込み、九条さんの前へと出る。

「ッ⁉」

九条さんが驚愕する。

私は大きく刀を振りかぶる。

━━しかし。

「このッ!」

私に生じた僅かな隙をつき、九条さんは隠し持っていた小太刀で、私の腹に切りつけた。

「ウッ」

私はその場に踞る。

「勇美‼」

才蔵が私に駆け寄る。それはすなわち、私達二人ともの足を止める結果となった。

しめたと思った九条さんは、そのまま全力で走り去った。

「おい、大丈夫か⁉」

相も変わらず、才蔵は私を心配してくれる。

だが・・・・・・

「ええ。今のはわざと斬られたの。追っ手を振り切ったと確信した彼は、おそらく最短距離で目的地━━つまりは帝の元へと向う。

私達は今度こそ、次は気づかれないように、再び尾行する‼」

「⁉」

スクッと立ち上がった私に、思わずギョッとした才蔵であったが、その後、やれやれと肩を竦めた。

「ッたく、相変わらず無茶するなあ。」

そう言いながら、才蔵もまた、追跡準備に移った。


勇美達を振り切ったと確信した九条は、そのまま孝明のおかくれの場所━━━稲荷山へと直行した。東山からやや麓へ降り、東福寺の付近より稲荷山へ入る。

すでにそこには火の手が上がっていたが、構いやしない。

帝をお助けするためならば、自らの命をも惜しくない、そう考え、まっすぐ山頂へ急いだ。

そしてついに、孝明と義信の戦場が目視で確認できた。

この位置からなら、将軍に不意打ちができる!

そう考えた九条は、先ほど勇美を傷つけた小太刀を片手に、二人の決闘へと乱入する━━━

・・・・・・しかしながら、それは叶わなかった。

すんでのところで、容永が二人と九条の間に入ったのである。

「これは、帝と上さまによる、神聖なる一騎打ちである。乱入者は断じて許さん。」

「チッ」

容永が刀を抜く。九条もまた、小太刀を構え直す。

「ならば、貴殿を御し、将軍を討たせてもらおう。」

ここにて、容永と九条の一騎打ちが始まった。


私達は、九条さんに気づかれぬよう、慎重に尾行する。

彼が向かった先は稲荷山・・・・・・なかなかに意外な場所である。

才蔵が訝しむように言う。

「おいおい、また撒かれてんじゃねーのか?」

「いや、相手に気づいた様子はない。そして彼は、帝の救出に、一刻を争っているはず。追ってきている確証もないのに、わざわざ遠回りするとは考えられない。」

彼は一直線に山頂へ向う。

そして、ついに━━━

「あれは・・・・・・老中⁉」

老中こと、我ら江戸幕府再興会の副会長、松平容永先輩が、九条さんの前に立ち塞がった。

ということは・・・・・・あの奥に、帝と将軍がいる‼

九条さんは、老中が止めてくれているから安心だ。

そのため、私は迂回して、将軍達のいる山頂を目指す!!

・・・あれ、なんで私、こんな必死なんだろう・・・江戸幕府再興会なんか、何の思い入れもないはずなのに・・・


そして、私達はついに、山頂へたどり着く。

そこには、将軍が帝の首をなで斬りした光景が広がっていた。

・・・あちゃあ、ついにコイツ、人を殺って(やって)しまったか・・・


刑法 第二十六章 殺人の罪

第百九十九章(殺人) 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する


同様に。正面から目を逸らし脇目すると、そこには当然のことのような態度で、九条さんの首を斬った老中が見えた。

コイツもかよ。

さすがに九条さんの方は、老中に抗うことは叶わず、瞬殺されたようだ・・・

・・・・・・

・・・

よし、通報するか。

私が即座にスマホを取り出し、110番しようとした、その時。

首筋に殺気を感じた。

━ッ!これは、ヤバイ‼

私は即座に、将軍の身体を庇った。

(どこかからか、狙われてる⁉)

直後、私の右肩に、銃弾が貫通した。

━━痛ィッッ‼

私は思わず、将軍の胸元へ倒れ込んだ。

「⁉近藤‼」

「勇美‼」

真っ先に、将軍が私を心配してくれる。

続いて才蔵も。

そこへ。

「やれやれ、おらの完璧な奇襲が、よもや失敗(しく)るとは。」

“ソイツ”は現れた。

将軍が刀を構え、私を護るように立ち塞がる。

才蔵も、拳を構える。

「何者だ。」

「テメェ、俺の勇美によくも‼」

その人物は、飄々と肩を竦める。

「こうなっては、正体を隠す意味もなき。

まずは自己紹介から。おらは、元致道館高校1年ろ組、坂本竜魔ぜよ。もっとも、すでに退学の身じゃーあるが。

将軍のお命、いただき申し上げる。」

口上を聞き、将軍が反応した。

「坂本竜魔・・・・・・まさか、あの伝説の“暗殺者”か⁉」

「暗殺者?」

才蔵が聞き返す。

「ああ。又の名を、調停者とも聞く。そのカリスマ的な腕で、幾多もの戦の裏で暗躍し、干渉してきた大物だ。

有名なもので言えば、第二次薩長同盟。幕末期に西郷隆盛と木戸孝允の間で結ばれ、明治以後も藩閥として固く結束し、近年まで継続してきた薩長同盟であるが、数年前、造士館と明倫館の間で紛争が勃発、関係は再び悪化した。

その間を取り持ち、再び関係修復に尽力・奔走したのが、元致道館生を名乗る、坂本竜魔だ。その天才的な手腕と行動力により、わずか数ヶ月で第二次薩長同盟を締結させ、帝へと服属させた。

その伝説の男が・・・・・・」

まさか、そんな大物が・・・・・・将軍の命を狙って⁉

私は気力を振り絞り、立ち上がる。

「将軍、行ってください。ここは私がッ━━!」

「勇美⁉」

「馬鹿言うな、そんな身体で・・・・・・」

止めようとする才蔵と将軍だが、私は叫ぶ。

「標的は将軍なんでしょ‼なら、さっさとこの場から撤退しなさい。相手方の狙いは分からないけれど、あなたがここで死んではならないことだけはたしかよ‼」

将軍は、悔しそうに歯ぎしりする。

「すまない・・・・・・感謝する‼

━━容永、車を回せ‼私を護り、ここを離脱せよ‼」

そう言うと、将軍は刀を収め、足早にこの場を去った。


稲荷山を高速で駆け下りる将軍は、ポツリと呟く。

「近藤・・・なぜお前が・・・」

そこには、哀愁のある驚きが含まれていた。


将軍が離れたことを確認し、私は立ち上がる。

うっわ、肩の痛みのことですっかり忘れてたけど、さっきわざと脇腹斬られたんだった。その痛みも相まって、正直、全力にはほど遠い。

まったく間抜けすぎる。

「おい、勇美は無理すんな!ここは俺がッ‼」

才蔵が気遣ってくれるが・・・・・・

「分かってるでしょ、相手は桂さんや西郷さんに匹敵する大物よ。才蔵も、西郷さんとの戦闘で、ほぼ力を消耗してるでしょ。

━━二人力合わせないで、勝てる相手じゃない。」

才蔵はしばらく黙っていたが、やがて呆れたように呟く。

「・・・・・・フッ、まったくお前はどこまでも。」

私は刀を抜く。

才蔵も拳を構える。

一方の坂本さんは、銃を左手に持ち替え、右手で刀を抜いた。

そして、肩をすくめる。

「やれやれ。正面からの戦闘は苦手なきすけどね。」

よく言うよ。

坂本さんからは、隠しきれてない並々ならぬ闘気が感じられる。

間違いない、コイツは実力者だ。

「才蔵、私は正面から行く。援護は任せた!」

「ああ‼」

一方の、坂本さんも、尊大に言い放つ。

「さあ、気力を振り絞り、おらに抵抗せーよ。」



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