B-side 2
古今東西、ヒーローは数多いるわけだが、その多くは、残念ながら物語の中の生き物だ。しかしだ。フィクションだろうとノンフィクションだろうと、ヒーローが俺達に与える感動の大きさや質ってもんは変わらねえだろ?媒体も関係ねえ。歌劇、映画、漫画、小説、アニメに絵本。ゲームなんてものもあるな。色々だ。
ヒーローは、ヒーローであるだけでいい。要はただひとつ、見る者を惹き付ける魅力ってもんが、ヒーローの肝になる。
ヒーローの魅力。ヒーローの設定、とも言える。設定ってのは大事だ。物凄い超能力や何かで悪者をぱぱっとやっつけるだけじゃあ、このヒーロー戦国時代では生き残れねえ。惚れ惚れするような人格者。どこか嫌いになれねえ戦闘バカ。仲間を大事にするリーダー。どいつもいいな。だが、これだけじゃあ足りねえよな?
ヒーローの魅力を高めるもの。それが何か俺様が教えてやる。それはヒーローの背景だ。何故、ヒーローになったのか。どんな気持ちでヒーローをやってんのか。そのヒーローの悲願は何か。そういった背景が、ヒーローの背中が、俺達をアツくするんだ。な?そうだろう?!
全てを語るのも、ちょこっと語って残りはヒミツにしちまうってのも、想像が膨らんでワクワクするもんだ。最終回で、そういう背景が生きるってえのは、もう最っ高だ!最高だよな?
ヒーローなら!思わず幻想を抱いちまうような、とんでもねえ背景を持ってるぐらいで丁度いい!丁度いいに決まってる。
俺様は今、良いことを言った。
ヒーローの背景。よく覚えとけよ?ヒーローの背景だ。いいな?
ヒーローならよ。背景を大切にしねえとな?
B-side bullet
情報収集は済ませた。泣いてばかりのおチビちゃんを宥めるのは大変だったが、まあ、そういう役回りだ。子供が泣くのを責めるなんてのは、悪者の所業だ。
「よし。そんじゃ、状況を整理しよう」
俺様も少々取り乱しちまったかもしれねえが、大事なのはこれからだ。
「タマちゃんの懸命な働きによって、俺様はスキルを得られた。あの高さから落ちながらだぜ?タマちゃんは、よくやった!そうだな?シリル」
「凄いよ。タマちゃん。軍曹が弾を生み出せるなんて、凄く助かる」
タマちゃんの反応は見られねえが、これはマジで凄いことだ。俺の得たスキルとやらは、手の平に銃弾を生み出せるものだ。大きさに多少の制限はあるが、弾丸も炸薬も思いのままだぜ?正に魔法ってやつだ。一日一発だけだが、ストックは可能らしいし、文句はねえ。
「シリルのスキルは、整備されたライフルを生み出せる。そうだな?」
「二人が内緒話してる間に試してみたけど、スキルを使えば、元あったライフルは消えて、手元に完璧に復元するって感じだ。あと、使えるのは僕だけ。多分、僕の方も一日一回限りだろう」
このふたつのスキルがありゃあ、悪者をぶち抜くのは不可能じゃなさそうだ。ま、本当にぶち抜くかどうかは、また別の話だ。
「どちらも検証は必要だろうが、大きな問題はなさそうだ。タマちゃんは、マジですげえ!完璧に!神サマとしての仕事をこなした!」
「それに、僕らを転生させてくれた」
それよ、それ!元々の願いに目を瞑れば、俺は土下座したって構わねえ。
「そうだ!そいつも忘れちゃならねえ!タマちゃん。ありがとよ!」
俺達に。俺に、チャンスをもう一度くれたことは、マジで感謝してるんだ。俺は一生恩に着るぜ。どうやってこの恩を返してやるか。ヒーローとして、こいつは真面目に、じっくりと考えなけりゃならねえ。だがよ?そいつを考えるのは、今じゃねえ。
「で、だ。このみっつを成し遂げるために、タマちゃんは限界まで力を使い果たしちまった」
今は、そのタマちゃんを元気にしてやるのが、俺様のお仕事だ。
「更に言えば、最後の仕上げに焦って、ちょっとした手違いを起こした。天上に帰るだけの力も無く、俺の身体に引っ付いちまったんだとよ」
「本当は軍曹が抱きついて、邪魔しちゃったんじゃ?」
なんのことだか分からねえな。分からねえが、タマちゃんの魂とでも言うべき塊が、あんな所に引っ付いちまったのには、深~~い理由がある。
「勝手に言ってな!タマちゃんはな、一心同体の俺にだけはよ?全っ部、偽らずに打ち明けてくれたんだぜ?」
その理由は大きく、みっつあるんだ。よっつとも言えるがな。その全部をぶちまけるつもりはねえ。
「タマちゃんにだってよ?生存本能ってやつと、ちょっとした悪戯心が存在するらしい。大事なモノに擬態すりゃ、ふざけてプチっと潰しちまうこともねえもんな」
実際効果的だろ?俺様にだって、そんな度胸はねえよ。想像しただけでヒュンとしやがる。
「ははは。面白い神様だ」
他人事ってのはいいよな?他人に起こったことならよ、俺も爆笑してたんだろうな。
「タマちゃんの名誉のために言っとくが!俺にとって大事なモノってのを、タマちゃんはな、具体的には認識できていなかったんだよ!だからこそ悲劇は起きた。これは、とんでもなく不幸な事故だ」
「本当、同情する。確認してるような暇は無かっただろうから」
そうだ。仕事ってのは、時間をかけてじっくりやらねえとな?
「そして今だ。タマちゃんの意識は、俺の右目にある!意識じゃなく、視点と言ってもいいな。魂だか本体だかの場所、については二度と口にするな。意識もするな!タマちゃんのタマは、目玉のタマだ!」
これはマジの話だ。建前じゃねえ。
「そうなの?下の方にいるより、ずっといい」
だろ?だからよお、そろそろ返事ぐらい欲しいよな。
「タマちゃんはな、真ん丸なもの、になら意識を移せるらしい。俺の身体の中なら無制限だ。身体の外へだって、短時間、短距離なら可能だそうだ。これも今後、検証するがよ?こいつは凄いよな?」
「いまいちピンとこないけど?」
「凄えんだよ!」
まだタマちゃんは、めそめそしていやがる。俺には分かるんだ。シリルは付き合ってくれちゃあいるが、そろそろ飽きてきたってところだな?
「よし、タマちゃん!今から、お前さんが元気になる、大事な話をしよう」
「その呼び方、なに?馬鹿にしてるだけじゃん」
「あはは、僕もそう思う。軍曹、やっぱりこの名前はひどくない?」
この呼び方がひどい?俺様は何も、悪ふざけでタマちゃんなんて呼び方をしてるわけじゃねえ。
「ふんっ。物の道理を知らねえやつらだな。それも含めて、今から俺が説明してやる」
啓蒙ってやつだな。特に、タマちゃんはヒーローってもんの認識が甘い。
「悪者をやっつける俺達は、ヒーローらしい行動を心掛けなくちゃならねえ!ヒーローが嘘をつき続けるってのは頂けねえよな?だが、隠すのはアリだ。大アリだ!隠し事なら、そこに一緒にロマンが詰まってる。そうだろ?」
「うん。その通りだ」「そうなの?で?」
「いいか?よく聞けよ?」
理解ってのは、一歩ずつ進めてやらなきゃなんねえ。算数だって、まずは数を理解することから始まるんだぜ?
「俺達は、今、これから、ヒーローになるんだ。その俺達が、ヒーローになる上で、だ。タマちゃんの名前の由来や、魂の所在については、今後一切言及しねえ。しかし、だ。タマちゃんの意志が、俺の右目に宿ってる。この事実については、積極的に開示していく。これがどういうことだか分かるか?タマちゃん」
「え?」
俺様が、タマちゃんタマちゃんと執拗に言い続けるのにも理由がある。その呼び名で呼ばれた時の抵抗感を、早いとこ軽減させちまおうって狙いだ。
「軍曹さんが、物凄ーく気の毒な感じの人になるってこと?」
「…そういう疑いがかかることは、あるだろうな」
そういうことじゃあねえが、頭ごなしに否定するのは御法度だ。理解の妨げになっちまう。
「ここで大事なのはよ?嘘を語ることなく、真実を隠せるってところだ。俺の右目には、神サマであるタマちゃんの意志が宿ってる。この事実を聞いたやつが、それを信じようが信じまいが、そいつが真実に辿り着けるはずもねえ。俺の右目に神サマが宿ってる、と少々の勘違いをしてくれりゃあ、上出来だな。そのための策もある」
「ふふ。とんでもない隠し事だ」
神の意志を右目に宿す男。これは、キャッチコピーとしちゃあ悪くないんでねえの?
「真実は明かさねえ。誰がなんと言おうと、タマちゃんは俺の右目にいる!これは、俺達がヒーローをやる上での、大事な大事な設定だ!あとは!タマちゃんの意志次第だ!」
神の意志を右目に宿す男、か。へへ。おいおい、ちょっと格好つけたくなるじゃねえか。
「おい、タマちゃん!お前さんは今、俺様のどこにいる?!」
おい、シリル?分かってんだろうな?
「ここだよ!右目にいるよ!」
「なんだ、そんな所にいたのかあ」「俺様の右目に!神サマがいるなんて、ビックリだぜ!!」
よし。俺様達は、たった今。ヒーローになったよな?
ヒーローの悲願。俺様とタマちゃんの悲願について、俺はまだ語っちゃいねえ。シリルも知らねえことだ。シリルを仲間外れにするつもりはねえが、これは俺様とタマちゃんとの問題だからな?タマちゃんは、右目にいるってことだしよ。
俺達二人の悲願。いつか話してやるから、よおく覚えとけよ?