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失顔症のスナイパー。の相棒で花屋の俺様!と 、ゆうしゃのわたし。  作者: 大石猪口 oishi choco
俺様が花屋になるまで
12/14

A-side 5

 ルィーさんが、わたしの作った賄いの総評を述べたことはない。ただ毎日一言だけ、何かしらの御指導を頂ける。

「蒸し器の蓋は何度も開けるな。確認は一回きりで済ませて、仕上げまでの時間を把握しろ」

「はい!ありがとうございます」

「よし、食っちまおう」

「頂きます」

 その指導は、ルィーさんが賄いを食する前に行われる。これはきっと、失格、ということなんだと思っている。修行二日目から始まったこの流れは、今日も変わらず同じだった。残念。

 早速わたしが口にした蒸し鶏からは、臭みがわずかに匂う。火の通りは十分でも、蒸気を何度も逃がした分だけ調理時間が長くなった。そこが、ルィーさんの作ったものとの違いを生んだのかもしれない。うぅん。精進あるのみ。

「あのーぅ、師匠から聞いたんですが」

 反省を済ませると、すぐに気持ちを切り替えた。この食事の時間に頭を休めることも仕事の内。それに今日は、ルィーさんに確認したいことがあった。

「明日は、このお店もお休みなんですか?」

「あっ。そうだ、休みだ。まだ言ってなかったな、すまねぇ」

 この辺りの工房では、十日は灯火、二十日は発火、どちらも火、即ち火事に繋がるとして、仕事を休みにする所が多いらしい。三十日も休みなのは、どこかでお休みが欲しいからだろう。

「客が来ねえのに、店を開けても仕方ねえからな。お前も店に来なくていい」

「そうですか。それなら明日は、師匠と一緒に、牛狩りに行ってみようと思います」

 これは、今朝に師匠から提案されたものだった。スープをすすっていたルィーさんは、それを聞くなり小さくむせた。

「っ牛狩りぃ!?」

 この国では、害獣である野性の牛狩りに報奨金が出る。お肉や皮の売値は驚くほどに安くても、そこで危険との釣り合いが取れる仕組みだ。師匠の主な収入源は、道場経営ではなく牛狩りにあった。

「お前のその細腕が、牛狩りの役に立つのかよ?」

 お箸を握る右手に力が入る。気を付けなきゃ、滑って落としちゃいそう。

「あはは…度胸試しみたいなもの、と受け取ってます」

 わたしは姿勢を正す振りをして、作務衣に手汗を吸わせた。

「まぁ、あんな道場に通うぐらいだ。お前にも、何か隠し玉があるんだろうが、怪我だけはすんなよ?」

「はい!こっちの修行が第一ですから」

 隠し玉は、ある。師匠にも話せていないそれは、攻撃魔法というスキルだ。この正体不明のスキルは、魔法について書かれた専門書にすら関連する記述は一切出てこなかった。

 魔法は基本的に、土水雷火生の五種類とされている。石や火を生み出し、飛ばす。それだけ。生の魔法は、言わゆる治癒の奇跡だから何かが飛び出ることはない。空は飛べないし、時間を操ったり、何かを喚び出すこともできない。魔法師一人では、巨大な牛を倒すことすら難しい。ただし、複合魔法という希少なスキルを用いれば、同種の魔法を束ねて威力の高い魔法を放つことができる、らしい。

 この世界の魔法は、魔法という言葉が持つ性能を実現できていない、とわたしは思う。わたしの、この攻撃魔法を除いて。

 あ。ごめんねヴァレン。もうひとつありました。

「分かってるなら好きにしろ。牛狩りなら、解体の勉強にもなるしよ?」

「あ。やっぱり、自分達で解体するんですよね…」

「当ったり前ぇだろ。あんなデカイ牛、馬車でもなけりゃあ、丸々一頭は持って帰れねえよ。それに何より、早く解体しなけりゃ、肉がどんどん不味くなっちまう」

 あぁ、フルン。あなたがいれば。馬のフルンとケルンは、ヴァレンと一緒に旅に出ている。本来わたしが乗るはずの、可愛いフルンの背中には、今。

「お前は度胸試しのつもりかもしれねえが、ただの荷物持ちなんじゃねえか?」

 ひとり、胸を悪くするわたしに向かって、ルィーさんは歯を12本ばかり覗かせた。解体に加えて、その後の荷物運び。巨体な牛が相手となれば、その労力も相当なもののはず。

「…そうかもしれません。もし、そうだったら、きちんと分け前を頂くことにします」

「おう。危ねえとこは師匠に全部任せて、取り分は半々にしちまえ」

「ふふ。4割って言ってみますね」


 夜眠る前には大事な日課がある。攻撃魔法の訓練だ。これは、熟睡のおまじないでもある。

 攻撃魔法は、見た目には何も生み出さない。この魔法が生み出すものは、ただの破壊。毎夜の試行で、わたしはそれを痛感した。怖い。攻撃魔法を使うのは怖い。でも、この魔法を制御できないのは、もっと怖い。わたしは、大事な何かを守るためなら、この破壊を誰かにぶつけてしまえるのだから。

「どこかで石を拾ってこなきゃなぁ…」

 この二週間、魔法の練習で小石を使い過ぎたせいで、お庭のどこを探しても手頃な石はなかった。射出の練習は、しばらくお預けだ。

 攻撃魔法の運用方法は、わたしの調べた限りで、みっつ存在する。それぞれを、風、射出、破壊、と名付けた。根本は全て同じかもしれないけれど、実際に起こる現象としては、このみっつがあった。

 発動手順はどれも同じ。以前は、右手を前に掲げ、明確な欲求を唱えなければ攻撃魔法は発動しなかった。でも、今は違う。右手を握り締めて覚悟を決める。その後、心に勇気を宿す。

「あぁ、ぴりぴりするー」

 この感覚も嫌いだ。わたしの意志によって、魔力が右手に収束すると、右腕が痺れたようになった。あとは最後の確認だけだ。今回なら、薪が砕けることを願えばいい。破壊は、対象に触れていた場合に起こる。

「砕けろ!」

 そうするだけで、右の拳に当てていた薪は、ばらばらと細かく砕けて塀にぶつかった。狙い通りだ。この木片は、火起こしに丁度良さそう。全部きちんと集めて、竈の脇へと片付けて?ん?この木片で、射出の練習ができるじゃないですか。

 破壊と違って、射出の練習はちょっぴり難しい。攻撃魔法を発動した時に、触れていたり、指の関節ひとつ分以内の距離にある物には、破壊の力が作用する。それより先にある物には、射出する力として作用する。何も無ければ風が起こる。射出は、近過ぎても遠過ぎても駄目だ。

「もっと良い方法を見つけないとなぁ」

 薪割り台の上に薪を一本立てると、その上に手頃な木片を乗せる。右手に小さな魔力を集めて、薪に触れないぐらいに拳を木片に近付ける。

「飛んでけー」

 わたしが念じた瞬間、木片は視界から消え失せて、塀を強く打つ。木片を乗せていた薪は、こてんと倒れて転がった。射出の場合、土台とする物にも力が伝わることがある。だからわたしは、絶対に手の平を土台にしようだなんて思わない。もしも、破壊の力が作用したりしたら?それは想像するのも恐ろしい。

 わたしは、この射出をどうにかして使いこなせないかと、毎晩訓練してきた。あまり良い方法は思い浮かばないものの、威力の制御はめきめきと上達し、身長はこれっぽっちも伸びないくせに、魔力の数値は成長を見せた。

 全力の破壊は、未だ試したことがない。風と射出でなら、何度かある。風なら、全力で発動すれば相手を転倒させるぐらいは簡単にできるだろう。射出なら、小さな魔力で小石を飛ばせば、土撃魔法の代わりになるだろう。

 それじゃあ、破壊なら?わたしは小さな魔力すら、生き物にぶつけたことは無かった。護身なら射出や風で十分なはずだ。それ以上が必要になったら。その時は。

 わたしは、その時初めて、破壊をぶつけることになるんだろう。

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