B-side 7
失敗とは何か。目的に未到達の状態であることか?なら、確かに俺は失敗したんだろう。それも、一度じゃ済まねえ。都合、七度の失敗を繰り返してる。たった一度、成功か失敗かの判断がつかねえ物もあったが、そん時のことは後回しだ。
七度の失敗。数にしては中々だ。だが俺は知っている。世の技術ってもんは、数々の失敗の先に存在した、たったひとつの成功例であるってことをな。試行は、それを続ける限りにおいて、全てが成功への一歩となり得る。
七度の失敗は、たった七度の失敗であり、全てが成功の一部分であるとも言えちまう。失敗は成功の母。昔のやつは、良いことを言うよな?
だからよぉ、お母ちゃん。そろそろ産んでくんねぇかな?成功ってやつをよお。
B-side bullet
なんと綺麗なお花畑。ここはどこだ?ここは俺達の秘密基地だ。正確には、その裏にある荒れ地だった所だ。今朝、そこは完全にお花畑になった。
「心が洗われるようだな?」
(きれ~い)「うん。軍曹が、お腹を痛めた甲斐があった」
まるで俺が産み落としたように言いやがるな?だが、シリルの言う通りでもある。あんなに痛えのは二度と御免だ。
俺のスキルには、ペナルティが存在した。不適切とされる弾を生み出し、そいつを使用すると発動するらしい。
「2回までは、腹が痛いだけで済むんだよな?」
(うん。3、4回目は死んだ方がマシってぐらい痛いのに加えて、色んな所から血が出ちゃう。5回目はー、どうなるんだろうね?)
別種の不適切な弾であれば、それぞれ1回目としてカウントされる。タマちゃんいわく、1、2回目のペナルティは、ただの警告に当たるらしい。
「人を撃つための弾はセーフで、花の種がアウトとはな。神サマの倫理観にはビックリだぜ」
四日前の朝、俺は花の種の詰まった弾を撃った。
というのも、連日の失敗により、俺の脳ミソはピーナッツバターになっていた。綺麗なお花が見たい、などとトロトロの寝ぼけ頭で思考する内に、手の平には一発の銃弾が生み出されていた。これは夢だと勘違いした俺様は、手製の不細工な単発式拳銃を手にして荒れ地に立ち、格好良く天を撃ち抜いた。
直後、耐え難い腹痛に頭をノックされ、俺はやっと夢から目を覚ました。夢じゃなかった証拠が、このお花畑だ。
「それにしても、凄い成長速度だ」
「まったくだ。周りが空き家ばっかで助かったぜ。せっかくだしよ?裏庭ってことにしちまおう」
「ははは。花を愛でるヒーローか。いいね」
この裏庭に生えた花が、どうしてここまで早く成長したかについては、謎だ。元々あった雑草すら、花の成長に飲み込まれるようにして枯れちまってる。
「しかしまぁ、花咲かじいさんになるつもりはねえ…早いとこ、まともな弾を生み出さねえとな」
花についての考察は、使える弾を生み出した後でいい。
仕事で使っていたような弾の組成は、昨日までに試してある。結果は初日と似たり寄ったりだ。それらの失敗から、問題は発射薬にありそうだってとこまでは分かってる。
だから、今回の発射薬は、混ぜ物は一切ナシだ。
「今日は、単純な黒色火薬のみでテストを行う」
これは、とある懸念を払拭するための、大事なテストだ。弾も既に用意してある。俺がそいつを放り投げると、シリルは左手で見事にキャッチした。
「なるほど!どうなるだろうね。結果が待ち遠しいな」
シリルの右手には、とっくの昔にライフルがある。ゆっくりと、ひとつひとつ確認するように銃弾を装填する所作は、慇懃にすら見えやがる。
「それじゃあ、花火を上げよう」
「へっ。花火師ってよりは、ギタリストみたいな格好になってるぜ?」
シリルも結果に察しがついてるらしい。ギターソロの後は、感動のフィナーレまで一直線だ。シリルは、ギターを掲げたままの姿勢でこちらに視線を投げると、半分だけスマイルマンを披露してみせた。そして恐らく、引き金を引いた。
「やっぱりか」
ふざけやがって。俺の予想通り、シリルのライフルから弾が発射されることはなかった。下手くそな舌打ちみたいな音がしただけだ。
「ははは!良かった。昨日までだって、軍曹は一度も失敗なんかしてなかったんだ!」
「良くあるかよ!こいつはかなり、参ったぜ」(どういうこと?)
あぁ、そうだ。七度の失敗は、失敗じゃあなかった。全て成功で、俺様が間抜けだっただけだ。
「向こうの世界でいう火薬ってやつが、こっちではただの燃えやすい粉だってことが分かった…俺達の知る化学反応と違う、発生する熱量が小さ過ぎる、爆発しやがらねえ!」
(へ~?)
「まさか、悪党をやっつける前に、異世界版の火薬の発明から始めることになるとはな?」
そんな大発明、できるのかよ?
世界が変われば、物理法則だって変わるってか?しかし、魔法なんてものが存在する世界だ。向こうの世界の科学技術が、そっくりそのまま使える方がおかしいのかもしれねえ。
「大丈夫。今度は、きっと上手くいくよ」
「他人事だと思って、軽く言いやがって」
俺が調査した限り、この辺りで火薬らしき物は見つからなかった。だが、シリルはのんびりと構えていやがる。お前は何か、俺の知らねえ情報でも掴んでんのか?
「他人事だなんて思ってないさ。どうすればいいか、分かった気がしただけだ」
「なにぃ?!お前、ヒーローじゃなく、エジソンだったのかよ?」
「エジソンって何?エジプトの歌?」
そんなものは、我が祖国、ぐらいしかご存知ねえな。
「国歌の話はどうだっていい。まさかお前は、火薬の組成に検討がついてんのか?」
「いいや?なんなら僕は、昨日までの火薬の組成だって、教えてもらってもさっぱりだったぐらいだし」
「あん?じゃあ、分かったってぇのは、何が分かったんだよ?」
俺が素直に教えを乞うても、シリルのやつは、勿体つけるように足元の花を撫でやがる。
「軍曹は今まで通りに、科学的な思考を進めておいてよ。僕の勘が外れだった場合、今日一日が無駄になる。明日の朝、僕の提案を聞いてみて、どうするか決めればいい」
「勿論そのつもりだけどよ?気になるじゃねえか」
「こんなに美しい花畑まであるんだ。きっと、昨日までとは違ったアプローチができるさ」
どうやらマジで、シリルに教える気はねえらしい。誰に似たんだか、ひねくれた野郎だ。
「今日までは、プランCで頑張ろう」
(二人とも、頼んだよ。少しでも、子ども達の力になってあげて)
「…おうよ。魔法やら、スキル持ちのやつには気をつけねえとな」
こういう時は、気分の切り替えが大事だ。靴紐が解けねえようにキツく結び直すと、コチニールレッド=フラワーを一輪、失敬した。どこにでも生えていそうな素朴な花も、俺様の胸元に挿してやりゃ、映えるってもんだ。花弁は7枚。花占いなら、好き、で終わる素晴らしい数だな?
「お?お前は青か」
準備を整えて立ち上がると、俺は思わず笑っちまった。シリルの胸元にも同じような花があったからだ。
「気が合うね?あべこべだけど、向こうで付けてたマスクの色にそっくりだ」
「へっ。スマイルマンの時は、見えねえようにしろよ?」
プランCでは、二人ともが悪党の前に姿を曝すことになる。可能な限り、正体に繋がる特徴は隠さねえとな。




