B-side 1
空には太陽と月がある。昔っから変わらず、この真ん丸なふたつが、地上を明るく照らしてきたわけだ。日食?月の満ち欠け?黙ってろ。どちらかひとつじゃあ、駄目だ。ふたつあるからいいんだ。
太陽の有り難さぐらいは、説明しなくても分かるよな?太陽と同じぐらいに大事なものが月だ。夜道を照らすだけじゃねえ、地球に生まれた生命を守る傘。それが月だ。月はな、隕石から俺達を守ってくれている。この有り難ぁい存在は、どちらも真ん丸だな?は?なんだって?おかげで月の裏側はデコボコだ?へっ。実際に見たこともねえくせに、よく言うぜ。
それなら、太陽と月はヤメだ。球体で文句をぬかしやがるなら、少しレベルを下げてやる。車輪があるだろう。輪っかに注目しろよ?ほら、丸だ。
丸がひとつの一輪車に乗れるヤツは、サーカスに出てるヤツらだけだ。あんなもんに乗れるのは、ビックリ人間だけだ。一般人が乗れるもんじゃねえ。そうだろう?あん?!ジャイロ効果?馬鹿め。そいつは確かに働いちゃいるが、一輪車の安定走行にはほとんど影響してねえ。物理の話はどうでもいい。俺はだな、実理の話をしてんだよ。
俺はな?無謀にも、アレに乗ろうとしたことがあるんだよ。悪いことは言わねえ。お前等はやめとけ。な?で、まぁ、俺様ってやつは、ガキの頃から勇敢だったんだな。そんでだよ!俺様は、とんでもねえ苦しみを味わったわけだ。幾度となく転び、最後には股間を強打した。
この経験から教訓を得た俺様はどうしたと思う?おう、そうだ!なんだ、分かってきたじゃねえか!そう、二輪車に乗ったんだよ。二輪車はいいだろ?丸がふたつだ。三輪車は駄目だよな。ありゃあ赤ん坊が乗るもんだ。四輪?あんなもんに、免許証は要らねえな。
真ん丸なやつは、ふたつだ。ひとつでも、みっつでも駄目だ。ふたつであることが大事なんだ。分かったな?よし。ようやくお前等の理解が進んだってことで、話を進めよう。
「タ、タマが、みっつもあるじゃねえか!!」
真ん丸なやつは、ふたつじゃなきゃあ困るんだよ。
ん?ちょっと待った!これじゃあ俺が、ふたつの丸、に異常なまでにこだわる変質的な野郎みたいじゃねえか?そいつは違う。早とちりってのは良くねえよな。俺は、至ってまともだ。仕切り直しだ。ちょいとばかし遡って、俺が悲劇の主人公になる、ほんの少し前から始めた方が良さそうだ。
先に言うがよ、少しばかり前、俺は死んだ。これは悲劇じゃねえよ。誰にでも訪れる、普通のことだ。狙撃手の相棒と、観測手の俺が、お仕事の途中で命を落としただけだ。普通じゃねえのはここからだ。俺達が死んだ後に辿り着いた場所は、地獄じゃあなかった。天国でもない、異世界ってやつらしい。主人公ってのは、こうじゃねえとな。
まぁ、そこらへんから始めるとしよう。
B-side bullet
訳の分からん状況。これ以上のピンチはねえ。乗っていた小型機が撃墜されたかと思えば、次の瞬間には、どでかい山の頂上に立ってるなんてな。俺達はさっき、間違いなく死んだはずだ。となれば、ここは地獄に違いねえ。天国にお招き頂けるような行いなんざ、した覚えがねえ。
「おい、シリル!お前も丸腰か?!」
相棒のシリルは、反対側の斜面を警戒中のはずだ。俺の方は、護身用のリボルバーどころか、ナイフも消え失せた。地獄の門ってやつには、どうやら所持品検査があるらしい。丸腰で悪魔共との戦いをおっ始めるなんてのは、中々楽しそうだ。ヒーローみたいじゃねえか。だが俺様は、こう見えて頭脳派な訳で。のっけから素手でぶん殴るってのはナシだ。
「いいや、軍曹。ナイフは消え失せたけど、今、ライフルを見つけた。僕のだ。ざっと見たところ、動きに問題も無い」
シリルのエム117が健在となれば、状況は最悪って訳じゃあなさそうだ。高所は俺様達がキープしてる。
「あー、でも残念。弾が無い。見て、これ」
シリルが投げて寄越した弾倉は、ご丁寧にカラの薬莢だけが詰めてある、ふざけた代物だった。
「なんだこりゃ!?おもちゃの銃でも、弾ぐらい詰まってるもんだぜ?」
状況は、やはり最悪だ。腹立ち紛れに弾倉をぶん投げてやってもよかったんだが、地獄とはいえ、山を無闇に汚すのは俺様の信条に反する。自然は大切にしねえとな。
「弾がなきゃ、僕は役立ちそうにない」
警戒するのもアホらしくなったのか、現れたシリルは俺の右耳を確認すると、ライフルまで俺に預けて寝そべりやがった。
「バットの代わりぐらいにはなるだろ?後は任せた」
相棒愛用のライフルをバット代わりにするぐらいなら、まだ素手でぶん殴る方がマシってやつだ。右耳に手をやると、ピアスは許されてることが分かった。これについては、神サマに感謝してやってもいい。シリルにとっちゃ、こいつが俺様である証だもんな。
「地獄でお昼寝たぁ、悪くねえな。ヒーローの中でも、とりわけ大物って感じがするぜ」
二人して青いお空を見上げると、そこには虹がかかっていた。地獄に虹。大層有難い、格言めいた響きがあるな?
「地獄ってのは、どこまでもふざけてやがる」
小鳥まで飛んでるじゃねえか。地獄にしては間抜け過ぎる。
「煉獄ってやつかもな。それなら俺達は、今に火炙りだ」
「嫌だなあ。軍曹は、焼いても美味しくなさそうだ」
テメエの方は、焼けば美味いとでも言わんばかりだな?火炙りは御免だが、その後に行けるって話の天国には興味がある。
「まあ、お前まで、地獄に道連れって訳じゃなくて良かったぜ」
これまでシリルに命令し、撃たせたのは、全て俺だ。そんな俺が地獄に行くのは道理でも、こいつは違うよな。
「本当に、軍曹は僕に甘い」
「甘いわけがあるかっ。俺が甘いのは、無邪気なガキ共に対してだけだ。お前はもう、そうじゃねえ」
昔はそんなこともあっただろうが、今は相棒だ。だが、それももう終わりだ。シリルだけは、もっと別の形で解放してやれれば良かった。すまん、シリル。
「…随分、焦らしやがるじゃねえか」
俺は最期までできなかったんだ。早くこいつを、解放してやってくれ!
「煮るんじゃねえなら、ささっと焼きやがれ!」
この呼び掛けが通じたか、俺達二人の上に影が落ちた。
「よく来たな!待ちかねたぜえ!!」
そいつは俺達が降り立ったのと同じ、山の天辺に顕現しやがった。やけに声が甲高いのは、そいつが女神サマか、それとも天使ちゃんだからか?
「俺様が現れる前から!ひれ伏しているとはな!!感心な奴らだ!」
ひれ伏してるつもりは微塵もねえ。だが、頭が愉快なやつの勘違いをその場で指摘するのは、マナーがなってねえ。
「俺様なんて宣うヤツは、初めてお目にかかるな?」
「そう?僕は日常的に耳にするけど」
「俺のとアレを、一緒にしねえでくれよ。俺のは、特っ別にカッコいい時だけだ」
俺達は仰向けにのんびりとひれ伏しながら、浄化の炎とやらを待った。
「感心な奴らには!プレゼントをやらねえとな!」
なるほど。そうやって、有り難ぁい炎をプレゼントって流れだろう?こういう時は、お目々をキッチリ閉じて、厳かにしてやるのがマナーってもんだ。
「あっ!?…おいおーい!なんだよー。もうそれ、見つけちゃってたの?今のセリフが台無しじゃん」
「え、もしかして、これ?僕のライフルが、神様からのプレゼント?」
目を閉じていたのは、俺だけだったらしい。シリルはいつもの無表情で、ライフルを掲げていやがる。
「ごほん!…そうだ!お前はそれさえあれば!悪い奴らをやっつけられるみてーだからな!」
「神様の言う悪い奴らって、それは悪魔より悪い奴ら?」
悪い奴らをやっつける?シリルがか?女神だか、天使ちゃんだか知らねえが、そいつは聞き捨てならねえな。
「待て待て。まさか、まだシリルに人を撃たせるつもりか?」
「ああ!得意なんだろ?それで悪人をやっつけるだけでいい!あとは何をしようと、お前達の自由だ!」
「…得意だあ!?」「ははっ。履歴書に書いていいなら、確かにそれは、僕の一番の特技だろうな」
得意ときやがったか。ひれ伏すのはヤメだ。
「そんなもん、俺様が破り捨ててやる!」
「冗談だ。人を撃つなんて、良くない」
そうだ。俺の相棒は、よく分かってる。高い所で偉そうにしてるヤツには、こっちが見下ろしてやる必要があるよな?俺様は斜面を駆け登り、ヤツと同じ頂上に並び立つ。おチビちゃんを相手に、何も俺様が凄む必要は、ねえ。
「おい!テメエは、神か天使か、どっちだ?どっちでも関係ねえな!よおっく聞け!!」
俺様はお行儀よく、お手々をポケットに突っ込んで、格好つけてやるだけでいい。
「さっきの得意だなんだってのは、聞かなかったことにしてやる!テメエの依頼を受ける理由は、これっぽっちもねえ!シリルにも、俺様にもな!悪い奴らをやっつけるってえんなら、テメエがやれ!シリルに撃たせるんじゃねえ!」
勢い任せに中指を立ててやってもよかった。でもよ?ガキんちょにそんなもん見せたって、格好つかねえもんな。
「そんな力が残ってれば良かったんだけど。でも…あはっ!見込んだ通りだね!嬉しいなあ」
ガキんちょにお似合いの笑みを張り付けて、おチビちゃんは拍手をしやがる。この態度の変化は、一体どういうつもりだ?俺様が格好つけてる時に、茶化すのは良くねえ。
「そういうキミだからこそ、お願いしたいんだ!そっちのキミも、ね?キミ達で駄目なら、アタシはお手上げかな」
お願いだと?まだ気に食わねえのに、こいつの見てくれが邪魔をしやがる。
「テメ…お前さんは、願いを聞き届ける側じゃねえのか?」
「そうだよ?こっちの世界の人達の願いのカタチが、キミ達ってことだね。でもさ、無理強いはしたくないんだぁ」
こっちの世界?願いのカタチが俺達?ますます意味が分からねえ。俺様の脳みそのサイズは大丈夫だろ?それなら、天上の奴らのとは規格が合わねえってだけの話だ。
「ライフルで悪人をぶち抜けってのが、そいつらの願いなのかよ?」
世界なんて言葉では、よく分からねえが、国と言い換えれば理解はできる。できちまうんだよ!嫌になるぜ。
「うん。ごめんね?そこは否定できない、かなぁ。もう、なりふり構ってられない状況みたいなんだ」
「けっ。向こうの世界でだって、神サマ経由で依頼されたことなんて無かったはずだぜ?まったく、ろくなもんじゃねえ」
悪態ばかりついてると、どうしたって俺様の方が悪者みたいになっちまう。そうでなくても、対するおチビちゃんは今にも泣き出しちまいそうだ。これはマズイ。俺様達は、ヒーローでなくちゃならねえんだ。
「依頼を断りゃ、俺達はそのまま地獄行きなのかよ?」
ヒーローは、ヒーローのまま、死ななくちゃな。こいつが悪者なら、俺達を脅してでも、願いとやらを強要するもんだ。悪者の要求を突っぱねて、死ぬ。これはヒーローとしちゃあ、悪くない死に様だよな?
「そんなことないよ?こっちの世界で、ご自由に生きればいいんじゃないかな?」
「はあ?」「太っ腹ー」
それが本当だとしてもよ?普通そういうカードは、最後まで伏せておくもんだろ?駄目だ。こいつは神サマ業だけじゃなく、交渉も素人だ。ついでに悪者としても、だ。
「軍曹、この神様ってヒーロー側なんじゃない?」
「…まだ分かんねえよ」
おチビちゃんは、ヒーロー側っぽくはある。でもよ?ヒーローっぽいっ奴が実は悪の親玉、黒幕だったってのはよくある話だ。知らねえけどな。しかし困った。シリルの手前、簡単に突っぱねることもできなくなっちまった。
「悪人ってのは、どんな奴らなんだ?」
仕方ねえ。話によっちゃあ、俺様一人で相手をしてやってもいい。
「聞いてくれる?!簡単に言えばねぇ、彼等は子供達の敵さ!」
「ははっ、いいね。それはすなわち、軍曹の敵だ」
それが本当なら、確かにそいつは俺様の敵だ。ヒーローの敵だ。
「子供達の生きる糧を奪う悪人…ううん。厳密に言えば、子供達の生きる糧を得る手段を奪う悪人。それが、キミ達の敵さ!」
「…やってやろうじゃねえか!」
駄目だ。駄目なんだ。そう言われちゃあ、俺様は黙っていられねえ。持ち前の正義感ってものも、確かにある。だけどよぉ、そんなチンケなものより何より、シリルの前だもんな?
「やった!ほんとにありがとう!」
「だがよ、やるのは俺様一人で十分だろ?」
ただ銃をぶっ放つってんなら、俺様だけで十分だ。シリルのように精密射撃なんて芸当はできなくとも、悪者をやっつけるぐらいなら朝飯前だ。
「…それは無理だと思うなぁ」
「そりゃないよ、軍曹。僕を甘やかし過ぎだ」
シリルが頂上付近に立つと、目線は真っ直ぐに、ぴたりと合った。まだ大丈夫だ。見下ろす以外にも、俺様が格好つける方法はいくらでもある。
「甘やかしてねえよ。銃を捨てて、一人立ちする良い機会じゃねえか。ま、巣立ちが怖いってんなら、パパが面倒見てやってもいいぜ?」
「僕のパパって程、軍曹が年上じゃないのは知ってる」
兄弟ってぐらいだよな?勿論分かってるぜ。
「じゃあ、弟さんよ!兄弟喧嘩でどうするか決めようぜ!派手にやろう」
軍隊格闘なら、まだシリルには負けねえ。訓練通り、右手はナイフを持つ前提の構えだ。
「人…じゃなくて、神前で殴り合いの喧嘩なんて。大人げないよ、軍曹」
そうは言っても、同じ構えを取るのがシリルだよな。付き合いのいいやつだ。でもな。お前のいつも通りの無表情がよ、俺には今、嬉しそうに見えるんだよな。
「知らねえのか?兄弟喧嘩に、大人も子供もねえんだよ」
いや、待てよ?これは俺が勝って、兄貴としての言い分に従わせりゃいいのか?それとも俺が無様に負けりゃ、自然とシリルは愛想を尽かすのか?
「うん。初めてだから」
あぁ、俺も一人っ子だよ。だから分かんねえんだよ。どっちが正解だ?
「そうかよ」
頼むよ。教えてくれよ、ヒーロー。
「盛り上がってるところ悪いんだけど」
そんな俺達の間に、おチビちゃんが舞い降りた。翼なんかは見えねえが、神サマらしく、ふわっとな。
「それ。シリル君にしか使えないんだよね」
そういうことは早く言いやがれ。
「…そういうことは早く言え!」
「せっかくだし、試してみたら?」
構えを解いたシリルが、背中のライフルを差し出した。照れ臭いが仕方ねえ。手にしたライフルは、セーフティがかかってる訳でもねえのに、引き金はガチガチに固定されちまってた。銃身の分解どころか、弾倉の出し入れも不可能だ。
「あぁ、酷いぜ、こいつはよ。おもちゃの銃以下だな」
何故、シリルにしか使えないようにしやがったんだ?おチビちゃんは悪者じゃあなく、悪魔の類いか?全然ピンとこねえが、小悪魔って面は、していやがる。じゃあ、シリルの面はどうだ?
「軍曹がヒーローなのは知ってる。聞きたいんだけどさ」
あぁ、シリル。ありがとうよ。お前の面は変わらねえけど、俺様には分かったぜ。お前はもう、やる気なんだな?子供が苦しんでるなら、放っとけねけよな。
「軍曹にとって、僕はヒーローじゃない?」
「お前はヒーローに決まってんだろうが!」
なら俺も、ついててやらねえとな。
「良かった。じゃあさ、向こうでも二人で、子供達のヒーローみたいになろう?ルールは、今まで通りに守るからさ」
「当ったり前だ!…仕方ねえなぁ」
やると決めたからには、やる。これも俺達のルールだ。
「これからも頼むよ、軍曹」
「おう、相棒」
シリルがヒーローをやると決めたんなら、俺様も今、ひとつ決めたぜ。今度こそ、お前の意志で銃を置かせて、別の人生を歩ませてやるってなあ!
「聞いての通りだ。だが、例え神サマが相手でも、言いなりになる気はねえ。自由に、ヒーローをやらせてもらうぜ!」
「うんうん!それで結構!そして時間切れー!!」
おチビちゃんが叫ぶのと同時に、地面の底が抜けた。地面が無くなりゃどうなるか。勿論落ちるだけだ。まさか今更、地獄へ直行って訳じゃねえよな?
「もう限界!こっちの世界でも、頑張ってね!」
「お、お、落ちてるけど、大丈夫なんだろうなっ?!」
遥か下に地面が見える。ふざけやがって!頭脳派の俺様は、高い所が苦手なんだよ!
「軍曹?結局、弾が無いままだけど、どこかで売ってるかな?」
知るか!こっちは今、精一杯だ。
「タマ?なにそれ?」
「え?弾が無いとこんなの、ただの筒だよ?」
見送りのつもりか知らねえが、おチビちゃんも一緒になって落ちていやがる。
「なにそれ?!マズーイ!どうしよう?!そんなの知らないってば!」
パラシュートもなく、自由落下してる状況以上に、マズイものがあんのか?ねえよ!
「そのタマって、大きさはどれぐらい?!」
「あはは!軍曹、神様が聞いてるよ?いつものやつ、言ってあげれば?」
いつものやつ?まさかあれか?あれはただのジョークだ。シリルはこんな時に、何を言っていやがるんだ。
「あの表現、僕は好きなんだ」
「うるせぇ!自分で言え!」
あれは真実ではあるが、ガキに聞かせるもんじゃねえ。
「えー。僕の口からは…自分で言うには、ちょっと、ねぇ?」
「焦らさないでいいから早くーゥ!」
シリル、後でぶん殴る。生きてたらな!
「俺の×××よりデカい弾は!この世に存在しねえんだよォッ!」
酒場限定の戯れ言だ!こんなもん。
「やーだーっ!お下品ー!!」
「ほんと、最高だよね」
いかん。地面が近い。おい、マジで大丈夫なんだろうな?
「もう!!でも、何とかしてみるからっ。アタシがどうなっちゃうか、ちょっと分かんないけど」
近い近い近い!見てられるか!
「下らねえことはいいから!落ちるのを何とかしやがれ!!」
「わっ?!ちょっと、邪魔しないでぇ!」
どこも痛くはねえ。どこからか、ガキの泣き声がする。耳障りだ。どこにいやがる?
「すごい。ちゃんと生きてる」
シリルは生きてるようだな。俺も恐る恐る薄目を開く。シリルをぶん殴るより先に、まずは状況把握だ。やたらと暗いが、祭壇のようなものが目の前にある。ここは教会か何かの一室か?
「地表に落ちた時は、流石に漏らしちゃうかと思ったよ。命もパンツも、大丈夫だったけど。軍曹のは大丈夫?」
命とパンツを同列にすんじゃねえ。
「大丈夫に決まってんだろ!」
いや、嘘だ。大丈夫じゃないかもしれねえ。チビっちまったことなんて記憶にねえ。だがよ?この股間の違和感は、まさか、そういうことなのかよ?
「そっか。で。なんかさ、女の子の泣き声がしない?」
泣きたいのは俺の方だ。ん?セーフだ!濡れちゃいねえ!俺様は別にチビっちゃいなかった。ヒーローはチビったりしねえよな。そりゃそうだ。
「お、おう。姿が見えねえな。よその部屋か?」
「かもね」
しかし違和感は本物だ。ここにはシリルしかいねえな?ちょいと失礼。女には分かんねえだろうが、男ってやつはよ、ポジションにうるさいもんなんだ。
そんな軽い気持ちで手を伸ばしたことを、俺は後悔した。
「ど、どうなってんだ?!」
「えーん」
二十年以上も仲良くしてきたんだ。いつもと違うことぐらい、すぐに分かるよな?だが分かんねえ。
俺様の真ん丸なやつは、ふたつのはずだよな?
「タ、タマが、みっつもあるじゃねえか!!」
真ん丸なやつは、ふたつじゃなきゃあ困るんだよ。
いや、マジで。
性に合わん下ネタなんかを連呼しちまったせいで気分が悪い。金輪際お断りだ。この後の一悶着も、全てを語る気はねえ!だから、これだけ先に言っとくわ。
この悲劇を代償にして、弾の方の問題はどうにか解決した。駄洒落混じりの疑問が頭に浮かんだか?そいつは絶対に口にするな!ぶん殴るぞ?そっちの問題についちゃあ、あとでお前達の認識を書き換えてみせるぜ?楽しみにしてな。
俺様の冴え渡る頭脳に、度肝を抜きやがれ!!