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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
エピローグ

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暗殺か事故か

「それはいつのことですか?」

「二ヵ月と少し前のことですよ。奥様」

「そんなに最近……」


 じゃあ、あれからすぐ?

 ふと、夫が刺客を差し向けたのかと勘違いしたが、ブラックは目を大きく見開いて否定する。


 ならば、誰がそうしたのだろう。この嬉しいような悲しいような報告をどう受け止めたものかしら。仮にもオリビエートは次期国王だ。そうそう簡単に殺されるような警護は敷いていないはず。


 可能性があるとすれば、伯爵家かな。それとも、聖女様のおわす神殿かな。

 聖なる女性が男と遊ぶとか、品格にも欠ける話だ。義妹はどうしているだろうか。強気なあの子だ、せいぜい自分ベッドで泣き腫らした後は、平然ぶって学院に通っているだろう。


「……学院」

「おや、もうお知りでしたか」

「え?」

「殿下が殺害されたのは学院です。奥様も御存知だったのですね、これは意地が悪い」

「いえ、それは」


 そこでブラックが片手を挙げ、この話はこれでお終いになった。

 使者を大公城の一角にある来賓室に見送った後、アイネは「どういうことかしら?」と不満気にして見せた。

 

 ブラックとその部下がいる前で彼女がこんなに感情を露わにしたのは久しぶりだったので、フォビオは「おや」と呟き驚いた顔を主人に向けた。


 自分は関わりませんよ、そういう執事なりの逃げ。大公家で生き抜くための処世術だった。

 ブラックはしまったという顔をして見せる。アイネは後に侍るエリーゼをじっと睨みつけた。彼女は世情とついつい離れてしまうアイネを繋ぐ、パイプの一つだ。情報が届くに遅い。遅すぎる。


「知っていたの?」

「いえ、その。先輩が」

「セーラ? 口止めした?」

「あ、いえ。私はその」


 チラリと視線は一巡してブラックに戻る。

「ああ……。向こうで話そうか」気まずそうにブラックは執務室の方角を指差した。

「ええ、是非。二ヵ月も隠していた理由をちゃんと考えてくださいね」


 腰に手を当て、眉根を寄せて頬を膨らませるアイネは、戦う時のブラックほどに怖かった。



 河岸を変え、ブラックの執務室。

 精霊に命じて部屋の内外を遮断したブラックは、アイネと二人きりになったことを確認してから、デスクの椅子にゆっくりと腰かけた。


 茶色の牛革が張られた高級感あふれるそれは、いつもより重たい主人に向かいギシギシ、と悲鳴を上げる。

 重たいのは当然だった。彼の膝上にはアイネが腰かけていたのだから。

 

 夫婦の秘密を語る時はかならず間近で。

 これは二人の交わした約束の距離感だった。


「それで何がどうなっているのかを簡単に教えていただけますか!」

「そう怒るな、まだ話すには時期が早いと思っていた。お前の心に傷を負わせたくなかった」

「話の続きを」

「はあ……。どうしてこんなにも頑固になったのだ」

「旦那様からいろいろと学びましたから、この二ヵ月。ええ、いろいろと。それよりも、話しを! してくれないなら、今夜は寝室は別ね」

「待て待て、分かった。それは許せ、お前がいないと安眠できなくなる」


 酒や睡眠薬よりも、彼女が側にいた方が、これまでで一番深くよく眠れた。

 それを奪われるのは、ギャンブルを禁止されるくらい辛いことだ。ブラックは根負けして話始めた。


「これは暗殺ですか。それとも事故ですか?」

「暗殺に近い。王族に正しい血を求める者たちの、正義が行われた」

「……正しい血?」


 ん? どういうことかしら? 

 オリビエートは現在の国王陛下の血筋だ。その意味では正当な後継者となる資格は十分にある。そこに正しい血筋? 話の筋が通らない。


「あれはわしや兄上の子供ではない」

「えっ! えええっ?」

「正確に言うなら、前々国王。つまりお前の義父にあたる我らの父上の系譜の孫だ」

「どういうこと? 義祖父様にお子様が多かったのは知っていますけれど。どうして、甥にあたる子供を実子に?」

「それが亡くなった義姉の遺言だったからだ。兄上を国王に推挙する代わりに自分の息子を、実の子供として取り立てろ、と。ちょうど義姉の夫。つまりわしの義兄が死に、胎のなかに義兄の子供がいるのを知っているのは義姉と兄上、そしてわしだけだった」

「ちょっと待って、旦那様。どっちにしてもオリビエートは王族だし、正当な王位継承権を持つ者ではないの? どうして正しい血筋なんて」


 ブラックは言い出したくないように、頭を片手で頭を抱えていた。

 どうやら、もう一段深い内情がありそうだ。


「義姉は、祖父の第五夫人の連れ子だ。わしと現国王の兄上は第六夫人。つまり、義理の姉になる」

「えっ……っていうことは、もしかして」

「そう。オリビエートには王家の血筋すら入っていない。義兄は王家とは無関係の伯爵家から婿入りしてきたからな。そして姉は生まれつき身体が弱かった」

「ああ、それで」

「なにがそれで、なんだ」

「義姉様の親心ですよ。出産して自分が死んだ後に、オリビエートが王室と無関係の血筋だとみんなが知っていたら、追い出される。ですから、国王陛下の実子にしてくれ、と願ったのですよ」


 でも、まだ問題がありそうだ。

 次は何が飛び出て来るのかな?

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