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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
エピローグ

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家格

 飛行船の操舵室にブラックが戻ると、そこでアイネが画面の向こうに居る人物と言い争いをしているのが、目に入る。

 さっきはロアーとエリーゼ。今度はアイネとかつての婚約者オリビエートだった。


「どうして大公閣下の元にいる? この裏切り者、男と見れば誰にでもすり寄るって、利用するのがお前の得意技か? この売女が!」

「売女? すり寄る? 失礼な! 貴方こそ、婚約者の妹に手を出しておきながら、なにをぬけぬけと調子よく……他人をそこまで辱めることができるなんて、王位継承権を持つ者として、品位に欠ける発言をしないで、王国の恥だわ!」

「なんだと! 王族侮辱罪を適用して死罪にしてやろうか、中古品の分際で! 閣下にどうやって取り入ったんだよ? あの夜にしなだれかかってきたお前の得意な寝技か! 汚らわしい!」

「なんですってっ!」


 と、そこまでで両者の決着はついた。

 画面のあちら側。

 

 魔導通信具のカメラの位置がぐるんっと変わり、壁に向いたかと思うと、いきなり「ほげっ!」という情けない声とともに適度な打撃音が聞こえてきたからだ。


 画面がまともに戻ると、そこにいたのはオリビエートによく似た黒髪で、瞳のみ色違いで緑色の精悍な貴公子がいたからだ。


「大変失礼をしました。シュバルト伯令嬢アイネ様。弟が不躾なことを申しました。伏してお詫びいたします」

「リーデウス……王子」

「殿下をつけていただきたいところだな、アイネ嬢」

「俺の妻になる女性になにか文句でもあるのか、侵入者ども」


 向こうのカメラがあり、画面に映っている場所は、配色も赤と黒、派手派手しい観葉植物の緑や、金色の照明が目に居たい、ギラギラとした大広間の一角だった。


 世事に疎いアイネでも、そこがどこかよく分かる。

 王都で社会体験としてオリビエートに着いて行った、カジノにそっくりの内装だった。


 もっとも、こちらの方がより高級感があったし、ざわつきはまったくなく、その場所に映るのは器材だけで、大公の部下たちはどこにもいない。大公城の地下カジノだというのに、不思議な事だ。


 リーデウスが侵入者と言われて不快そうな顔をする。

 彼は部下の騎士に持たせていた王国旗を、高く掲揚させた。


「王室の認めた軍隊が入れない場所など、この国にはない」

「近衛兵団……よく兄上が動かすことを許されたな?」

「許可? 国王陛下は何もお知りにないよ。すべては王位継承権を持つオリビエート殿下の采配によるもの。俺は騎士団長として、王国騎士を率いているだけに過ぎない」


 フッ、とブラックはそれを見て鼻で笑った。

 旗にはそれぞれ、格というものがある。

 

 画面の奥の方にブラックが掲げる王国の旗は、正当なる王家の血筋を証明する、王室旗。それも、特別な場所のみに掲げることを許されているものだ。例えば、王宮。例えば軍司令部。例えば、異国にある大使館。例えば、大公城……。


 対して、リーデウスが掲げたそれは、単なる王室旗だった。

 近衛兵団に与えられているものだが、ブラックが掲げるものよりも格は劣る。さらに、近衛兵団とそこに所属する近衛騎士は王族を守ることを任務としていて、オリビエートやリーデウスがいるからそこにいて守っているだけなのだ。

 

 別にこの国内のどこにでも入れるわけでもなく、王族がいるからいる、だけなのである。

 間抜けな回答を欲しいのか、こいつらは。そう思うと、甥たちの不出来さが可哀想になる。こんな未来の王位継承権を持つ者しかいない時点で、国の前途には暗雲が垂れ込めていた。


 ブラックは売女呼ばわりされてまだ怒りが収まらないらしい、アイネを抱き寄せると「あまり怒るな。その顔も美しいが、いまはそんな時じゃない。安売りをするな」と慰めてやる。


 たしなめられてアイネは眉根を寄せて見えなくなったオリビエートを睨んでいたが、次第に落ち着いて行った。

「馬鹿を追い出すから、見ていろ。爽快だぞ」と自信満々に教えられ、どういうこと? と顔をかしげる。


「近衛に命じる。その場に掲げている旗を見て行動しろ。その城の主は俺だ。出て行け、その場にそぐわない王国騎士と殿下二人も引き連れてな。その場は、王族には相応しくない」

「はっ? 叔父上、もうボケられたか? ここにいるオリビエートは叔父上よりも爵位が上……おいおいおい、お前ら、勝手に行動するな! おい、俺に触れるな! こら、貴様! 断罪されたいのか、聞いているのか、おい、やめろ――!」


 号令一下。

 近衛騎士の指揮者は、ブラックの命じたとおりに行動した。


 それは旗の格による問題だけではなく、彼らもまた、本来ならば王城から離れてはいけない近衛の身でありながら、国王の命もなくこんな辺境にやってきたことへの、不満もあったのだろう。


 顔を腫らして鼻血を噴き出しているオリビエートは、哀れにも近衛のマントに巻かれて抱え上げられ、抵抗するリーデウスとともに、退場させられていった。


「……え、嘘。こんなに簡単に?」

「さすが大公様。その家柄は伊達ではありませんね……」

「あれだけいた騎士たちが、あっという間に……凄い」


 アイネたちが驚嘆のため息を漏らす。

 彼女だけは、顔面を血まみれにしたオリビエートを見て笑いを堪えきれないらしく、ざまあみろ、と貴族令嬢らしからぬ発言をしていたが――その気持ちがよく分かる一同は、見て見ぬふりをした。


「あはは……すいません、あの間抜けな殿下……。どういう仕掛けですか、旦那様?」

 

 ひとしきり笑い終えると、アイネはすっきりとした顔をして、訊ねてきた。

 ブラックは戻ったら話す、と言い飛行船が大公城の発着場に接舷するのを待ち、自らの精霊達を城内に放って危険がないかと確認した後、アイネたちに下船命令を下した。


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