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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
第二章

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レターニアへ

 階段を駆け下りた先にもう一つの扉があり、施錠されているそれをセーラは槍の柄をドアノブに叩きつけることで、解錠した。


 メイドのあまりの乱暴ぶりに、主人のアイネまで口が空いて塞がらない。

 普段のお淑やかで理知的なあのセーラはどこにいったの、と目を大きくして驚いていた。


「急いでください。もたもたしていると追いつかれる」

「分かっています! あんなものぶつけなくてもいいじゃないですか!」

「何のことかしら?」

「さっき謝ってたのに!」


 身に覚えがないわ、とセーラは肩を竦めた。

 まだグチグチと文句をこぼす後輩を引き連れて、建物の裏側にある道路へと脱出することに成功する。


 エリーゼのことをまだ信用した訳ではなかったけれど、ここまでくればもう一心同体だ。

 もし裏切るそぶりを見せたらアイネを護りつつ、エリーゼを切るだけだ。

 

 でもそのためにはいくつか足りないものがある。

 腕時計を確認したセーラは自分が持っている切符の時間まで、あと三十分を切ったことを知る。


 足早に歩き、人通りが多い大通りまで出ると、そこから駅舎の入り口へ。

 その途中、先にエリーゼ、次にアイネ、最後にセーラの順で三人は魔導列車の搭乗口へと向かった。


「私の持っている切符の列車が出発する時間は、もうすぐです」

「ここでわかれるってこと、セーラ?」


 途端、アイネの顔にかげりが差す。

 セーラはいいえ、と首を振ってそれを否定した。


「大公様の領地エルバスと私の故郷の州は隣同士です。敵もまさか解雇したメイドがお嬢様と共に居るとは思わないでしょう」

「ああ、そういう意味ね。びっくりしたわ。急に何を言い出すのかと思った」

「私もです。逃げ出すのかと」

「お尻がまだ痛い? もっと痛くしましょうか?」

 

 半眼になり怒りを潜めせると、エリーゼはさっとお尻を隠した。

 セーラは後輩に軽口を許すような気さくな先輩になる気はまったくなかった。


 ここで礼儀作法を叩き直してもいいかもしれないと、本気で考えていた。

 元とはいえ、王太子妃補。アイネの価値は、そんなに低いものではなかった。


「旦那様から頂いた退職金が、手つかずでまだございます。これを使わない手はありません」

「助かります。私は騎士団を解雇されたばかりで、財産の多くを父親に預けていますから……」


 そして、アイネは伯爵令嬢だ。

 常日頃から自分で財布を開いて物を買うという習慣がない。当たり前のように、小銭すらも持ち合わせていない。


「少女騎士団に所属していたのならそれなりに裕福なはずですが」

「手持ちがないと申し上げております。昨日の今日で雇われたのですから、使用人が主人以上の金銭を持ち歩いているわけがないじゃないですか」

「まあそれはそうね。あなたの父親は裏切り者だし」

「責めないでください。私だってこうだと知っていれば、父親に従ったりしなかった」

「それはどうかしら?」

「どういう意味ですか!」


 思わず反論の声が大きくなってしまった。

 周囲の耳目を集めるなんて、愚か者のすることだ。三人は歩きながら会話を進める。


「あなたを責めているのではないの。お嬢様ならお分かりになられると思います」

「女は家のために存在しているから……特に貴族の女はそう」

「そうですね。家長の命令に背くことは、エリーゼ。あなたに出来ましたか?」


 少女騎士にもなれるほどの人材だ。

 エリーゼの名誉と忠誠心、プライドの高さは指折りだろう。


 問われて、元少女騎士の彼女は、唇を噛みながらゆっくりと顔を左右に振った。

 じゃあこれから裏切れと命じられたら、彼女はどうするのか。


 答えは聞かなくても分かっている。

 だけど待って、とアイネがセーラを制した。


「エリーゼは私のために死にそうなほど怪我を負ったの」

「……どう見ても満身創痍には見えませんが?」

「魔法で! 回復魔法などを封じ込めた、魔石で回復したからよ。私はこの目で見届けたの。間違いない」

「つまり信じても問題がないと」

「それでいいと思う。私がそうしてほしいって頼んでも、駄目?」


 どうしたものか。

 それすらも折り込み済みで、命を失う覚悟で、必死の演技を行った可能性も捨てきれなかった。


 思わず「リテラ」という単語が、頭の中に再現される。

 王族同士の政争では、必ず死人が出るし、それは闇から闇へと葬られる。伯爵家に長年勤めてきたセーラには、今回もそうした争いに主人が巻き込まれたのだと、想像するに難くない。


「お嬢様がそう、おっしゃるのでしたら」

「ありがとうセーラ! あなたなら分かってくれると思ってた!」

「結論が出たということでよろしいでしょうか?」


 三者三様。それぞれの思惑が絡み合った中で、本当に主人を無事に目的地まで連れて行くことができるのか、セーラには甚だ疑問だった。


 駅のカウンターでセーラの故郷であるレターニアまでの切符を購入した三人は、午後二時発の魔導列車に乗り込んで、四日間、車上の人となった。

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