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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
第二章

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第一王子

「貴方が私を守ったからでしょうね、多分」

「どういうことですか!」

「だから、あなたのお父様は最初から私を殺す。もしくは誘拐することが目的だったのよ。だからあなたにメッセージを残した。ホテルのロビーで、渡されたでしょ?」

「あれには、あの場所に行けというメッセージが」

「行くな、とは書けないじゃない。もしかしたら、係員のミスで私はそのまま当たり前のようにスイートルームに通されていたかもしれない。襲撃を受けた場所も、スイートルームも。そのどちらともに、王国騎士ロアーの部下が向かっていたとしたら、貴方が父親ならどうする?」

「娘が、危険な場所に行かないように、何かメッセージを残します」


 ほら、ごらんなさい、とアイネは肩を竦めた。

 ロアーは娘を守りたかったのだ。そのためにメッセージを残したのに、馬鹿正直なエリーゼはそれを見抜けなかった。


「ついでに言うと貴方が来るのが早すぎたのでしょうね」

「確かに最短のルートを辿りました」

「それは予想外だったんだと思う。あと二、三分遅ければ、私はいまごろ、あの浮浪者に扮したロアーの部下の手によって、部屋のどこかに引きずり込まれていたはず」

「そんな、そんな……裏があったなんて」


 がくっ、とエリーゼは肩を落とした。

 あからさますぎるほどの落胆ぶりだった。それまで築き上げてきた親子の信頼というものが、一気に崩されたのだから、仕方がない。


 父親のロアーもまさか娘が、予定より早く駆けつけるなんて、思っていなかっただろう。

 おまけに隠れていたホテルの部屋から飛び出してきた彼女を追いかけると同時に、隠れていた部屋の中も確認したはずだ。


 しかしどこにも、アイネはいなかった。

 娘が腰につけていた空間魔法のかかったポシェットのことは、多分知っていたのだろう。その中にアイネが隠れていることも、想像するのは簡単だったはず。


 実の娘に抵抗され、部下を数人に殺されるなんて最悪の事態に発展するとは、思ってなかっただろうけれど。

 彼の予想ではエリーゼはさっさと捕まり、アイネを無事に? 捕獲できたのだろう。


「ごめんなさい。あなたを再び悲しみのどん底に突き落とす気はなかったの」

「いいえ、アイネ。大丈夫……もう、涙はさっき流し尽くしたから」

「でも困ったわね」

「何をですか。もう何もかもがめちゃくちゃです」

「貴方の婚約者に助けを求めることができるかと思ったけど、それも無理みたいだし」

 

 うっ、とエリーゼは胸を抑えて呻いた。

 指摘されたくなかった事実を無理やり指摘されて、見たくなかった現実を、無理やり見さされて、信じたくなかった状況を、無理やりこじ開けられて、もうエリーゼの心はさんざんに冷え切っていた。


「止めて! 止めてください! レオンはそんな人じゃない」

「彼の所に行くと迷惑がかかるわよって言ってるの」

「ああ、そういう……。まさか、私。めんどくさい女になってます?」

「今の現状を踏まえて、貴方に親しい男性は誰も関わりたいと思う」

「うううっ……酷い。自分が殿下に振られたからって、大公閣下と望まない結婚をさされるからって、あんまりです。そんなにいじめなくてもいいじゃないですか! 騎士はアイネの心の処方箋じゃないんですよ!」

「うまいこと言うわね。そんなつもりもなかったけど。じゃあここにも長くはいられない。そういうことかしら?」


 エリーゼはしょぼんと落ち込んだのは片手あげて周りを見ろ、とグルグル指先を回した。

 寝ることはできるだろう。しばらくの間、避難することもできるはず。肝心の食料はどこにある?


「……ここは殺伐とした任務の間に心を癒す為の場所として、利用していたんです。ちょっとしたお菓子程度しか置いておりません」

「レオンとのデートには使わなかったの?」

「彼は海外勤務なので。もう三年ほど会っていません」

「気づいたら、他の国の女と結婚するから別れてほしい、なんて手紙が来ないといいわね」

「だからもう! そういう話題はやめてくださいってば!」


 そろそろサンドバッグにするのはやめておこう。

 これ以上にいじめたら、今度は剣を引き抜きそうだ。


「じゃあどうするの。着替えてここから逃げる? あの扉の向こうには何があるの?」


 と、アイネが指差したそれは、王都の地図の隣にある、謎の鉄の扉だった。

 魔導列車中央駅の二階にあるデパートに通じています、と蚊の鳴くような細い声で、エリーゼは応える。


 彼女の心がまともに回復するには、もうしばらく時間が必要なようだ。

 これじゃあ本当のことはまだ言えないなー……、とアイネは本当の犯人探しをこれ以上、するのを止めた。


 エリーゼの父親は王国騎士だという。騎士長だったか? 騎士長といえば、騎士団長、副団長の次に偉い役職で、部下は最低でも百人はいる。


 殿下の護衛に当たっていた顔なじみの近衛騎士から、騎士団の構成について訊いたことがあったアイネは、この襲撃のおかしさに気づいていた。


 王都を守る騎士団なら、裏で多くの騎士を動かせる。

 でもロアーは遠く離れた辺境方面軍の騎士長だ。この王都リベラであれほど大人数を動かせるとは、考えにくい。

 

 そうなると、裏で誰が糸を引いているのかしら? 

 もっともわかりやすい仮想敵はブラックを嫌っている人物だ。


「第一王子リーデウス様」

「は? おじさまが何か?」

「おじさま? 貴方、王族なの?」

「いいえ、とんでもない! 父の旧友がリーデウス殿下だという話で……」


 あーあ。見えないよじれた糸がつながってしまった。

 しかも、こんなに明確な形で。まだ仮の想定でしかないけれど、裏に居るのは多分……第一王子だ。


 さて、私はどちらにつくべきかしら。旦那様? それとも、旦那様と敵対する第一王子様?

 この判断はブラックがどれほどの愛情を自分に注いでくれるかによって、変わるだろう。

 

「何でもないわ。それよりも、貴方の服を貸して下さらない? ここから移動しないと、いつ見つかるか分からない」

「あ、はい。では……」


 エリーゼが頼まれた服を取りにカーテンの向こうに消えた後、アイネはたった一人の部下をどうやって守るのか、そのことに頭を切り替えて、打開策を考え始めていた。

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