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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
第二章

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干渉者

「連絡が取れないとはどういうことだ」


 ブラックは長く繊細な指先で、葉巻を取り出すと、眉を動かした。

 風の精霊がその意図を察し、葉巻の尖端を切り落とす。


 続いて炎の精霊が、彼の指先に点り、青白い炎を生み出した。

 口に葉巻を咥え、幾度かそれを吹かし、不機嫌に顔をしかめた。


 週明けまでホテルで彼女に過ごしてもらい、ブラック自らが飛行船を用意させて、花嫁を迎えに行く予定だった。それが全て無駄になってしまった。


 何より、妻となるアイネの安否がしれない。

 消息が掴めないまま、エルバスを出る予定の月曜日が来ようとしていた。


「申し訳ございません、旦那様」

「手抜かりだな、フィビオ。どこかに消えてしまったのか」

「奥様とホテル・キャザリックのスイートルームにて落ち合う予定だったのですが、ホテルにチェックインしたところから、どこに行かれたかの確認が取れてございません」

「ふうむ」


 執事長が手にした薄いファイルを手渡すと、ブラックはそれを開けることなく、さっと手をかざしただけですぐにフォビオにそれを戻してしまう。


 主人がすこしだけ開いたファイルの合間から風と炎の精霊が潜り込み、そこに記されている紋様や文字、記号などをすべて読み取って、あたかもその目で見たかのように、彼の脳裏に画像を届けたのだった。


 書類の内容は、アイネが王都で消息を絶った日に、ホテルに宿泊していた人間のリストだ。

 そこに不審な人物の名前は無かった。


 フィビオが事前に調べ、これは、と思った怪しい人物については印なり、補足の説明が記してある。

 しかし、それは見当たらず、高級ホテルの平和な一日を連想させるにとどまった。


「あれの名があるな。しかし、それだけだ」

「名前、職業、年齢まで記入されたものと王国の貴族名鑑とを照合致しまして――」

「どうでもいい、そんなもの。普段から身分を偽り、王国と帝国や魔族との国境を往来する、怪しい輩は山ほどいる。あれの娘の名もないが、きちんと接触は果たしたのか?」

「ホテルへの到着まで、の確認は取れております」


 あれ、とはこの大公家の地下で行われた違法カジノで大負けし、大公の犬としてパシりに使われている王国騎士団の騎士長ロアーの娘、エリーゼのことだ。


 父親似の容姿端麗な少女騎士。

 その職を無理に辞めさせて新婦となるアイネの警護兼侍女として与える命令を下したものの、そのロアーからも娘と連絡が取れないと報告が上がっている、と執事長は言った。


 端的に報告を受け、ブラックは吹かしていた葉巻の火を、苛立たし気にガラス製の灰皿に押し付けて消した。


「だったらどこかに漏れがあったに違いない。安全に王都からこの辺境へと来させるはずだったのが、これで台無しだ」

「案内した客室係と荷物の運搬係がそれぞれ、行方不明になっております」

「そのようだな」


 報告書にはその一文が記載されていた。


「更なる調査を致しましたところ、お耳に入れたいことが」

「聞かせろ」


 フォビオはブラックの顔に口を寄せた。

 他の誰にも悟られないよう、口元を手で隠すまでの用心ぶりに、ブラックはくすりとおかしさを感じる。


 彼が契約する精霊たちの守護を幾重にも受けたこの大公の城で彼に対するどんな反意が潜んでいるというのか。

 危機管理を徹底しすぎだと、心で呟き、報告を受ける。


 それを命じた身でありながら、誰かこの厄介な性分を変えてくれないかと願ってみたりもした。


「偶然とは考えられん。可能性があるとすれば、あの王国騎士とその周りだ」

「ロアーめが、裏切りましたでしょうか」

「どうかな。しかし、こちらの計画に穴があったことは間違いない。まさか伯爵がアイネを単身でホテルに向かせたなどと、信じがたい」

「伯爵家からの馬車を迎えたドアマンがそのように証言しております。こちらの調べで、奥様がご実家を出られたその日に、侍女が一人、伯爵家の仕事を止めております」

「だったらその侍女に問題があるか、誰かがそうなるように仕組んだとしか考えれんだろう。仮にもこれから娘が大公家に嫁ごうというのに、馬車一台で送り出すバカな親がどこにいるものか」


 伯爵を出てからホテルに向かうまでの間で、彼の新妻になるアイネは攫われたに違いなかった。

 そして、替え玉になった誰かがエリーゼと合流し、彼女もまた、事件に巻き込まれたのだろう。


 ブラックは自分がそう考えた理由を、フィビオに説明していなかった。

 この数年の間、彼はこの腹心の部下にも、自分の考えを全て伝えたことがない。


 自分の人生に必要以上に干渉してくる者以外を除いて。

 それは時として子供たちであったり、今だったら敵と見なしている兄の息子、第一王子だった。

 


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