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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
第一章

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収納魔法と侍女の願い

 思い返すも新しい記憶は、今朝のこと。

 実家の伯爵家でアイネお付きの侍女として長く勤めてくれていたセーラは、自分も主人の嫁ぎ先へと付いていくいくつもりだったらしい。


 しかし、どこでどんな力が働いたのかは分からないが、セーラの同行は伯爵に認められなかった。

 それどころか、義妹であるエルメスの二人目の侍女として、配置換えするという。


 伯爵の意向を受けセーラは週末をアイネと共に、これからどうするかと悩んで過ごした。

 結果として、アイネはブラックが用意した新しいメイドを手に入れ、セーラは伯爵家で働くことやめ、実家の商店に戻ることになった。


 これまでさんざん、主人が義妹の手によって嫌がらせを受けてみてきたセーラは、この屋敷でアイネという主人がいなくなった後、自分がどうなるかをよくよく考えたらしい。


「あの母娘といれば、自分もいつかお嬢様と同じ目に遭いそうだと考えたら、恐ろしくなりました」


 と、いなくなる理由を短く語り、今朝、アイネとセーラは同じタイミングで伯爵家を出た。


「自腹を切ってでも、セーラを雇うべきだったわ……」

「大公閣下がお許しになるかどうか分かりませんね。早計は損をします」


 エリーゼにそう窘められ、自分の意見を頭のうえから抑えつけらえたような気がして、アイネはむっと眉根を寄せた。

 短剣などはすでにエリーゼによって元のポーチへと仕舞いこまれていく。

 それをどのようにして扱うのか分からないまま見ていると、残りの荷物もポーチの中に順番に吸い込まれていき、室内は元々あったホテル側の家具や調度品と、アイネにエリーゼだけとなった。


「それって本当に便利よね。私もその中に吸い込んで、運んでくれないかしら」


 どこかしら悪戯めいた表情で、アイネがそう言うと、エリーゼは意外そうな顔をしてそれもいいですね、と肯いた。

 ついでに、一つだけ我慢しないとだめだ、と言ってくる。


「この蓋を閉じると、中では空気が循環しませんので。どの程度、息をできるかが分からないのです。最悪、窒息になるということはないと思いますが」

「まだ死にたくないわ!」


 悪い冗談だ。

 侍女が真面目にそう言うものだから、アイネは本気に取ってしまい、顔を青くした。

 

「冗談です。騎士団では行軍の際、怪我人や病人が多数出たときには、簡易的なこのような収納結界を作り、そこに寝かせて運ぶことがありました」

「行軍? あなた、エリーゼ。騎士団に参加したことがあるの?」


 普通は知らない知識を語る侍女は、途端に顔を曇らせる。

 どうもそこには触れられたくない過去があるようだった。


「過去に父の騎士団に参加をしたことがありまして」

「ふうん、そうなのね。それにしても、貴方の用意したここで待ちわせるという手合は、何時になったらやってくるのかしら」

「……遅いですね。荷物は収納が終わりましたし、後はお嬢様を安全に大公家のあるエルバスへとご案内するだけなのですが」

「私は軍人でもないし、騎士でもないけれど。ここに長居するのは賢くないと思うわ」


 先程の悪人たちの件もある。何せ、彼らは薄板を数枚隔てたすぐ向こう側にいるのだ。

 このままではいつ、室内に扉を破られて押し込まれても、おかしくはなかった。


 入り口は狭く、襲いかかってくるなら一対一で戦えるだろうからしばらくはもつだろうけれど、どちらにしても武器もない状況ではこちらが不利だ。

 アイネはそう思った。

 

 エリーゼはもう一度、扉を静かに開きながら外を観察するが、やはり人影は見えない。

 もしかしたらこの扉のすぐ向こうに誰かが立っていて、剣先でも突き立ててられたら、この薄い扉では防ぎようがないだろう。

 事は急を要する……。


「お嬢様、是非、お願いが」

「ん?」


 扉を閉め、施錠するとエリーゼはベッドに腰かけるアイネに向かい、膝を折って願い出た。

 ここから脱出するための方法に協力してもらうために――。






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