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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
第一章

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負けた男

 夏が秋への階段を足早に駆け下りていく、そんな季節。

 王国の西にそびえる山脈の一部、その斜面を利用して建てられた古びた洋館があった。

 白樺や楓の木をふんだんに使い、外壁にはモルタルとセメントで白を基調とした統一感が醸し出されている。


 この屋敷を建築したのは三百年ほど昔に富豪として名を成したある貴族で、いまは途絶えてしまったその家の代わりに、地方の領主であるブラック大公が城主として知られるようになった。


 外観からは壮麗ともいえるべきその館内に、今夜は多くの貴族たちが昼と夜の境目を求めて集ってくる。

 今夜は、月に数度開かれる、大公家主催の違法賭博が行われる夜だった。

 

「次が勝負だ」

「待ってくれ待ってくれ」

「そろそろゲームの最終局面だ。しっかりと楽しませてくれよ」


 ブラックは精一杯のイヤミを聞かせてそう言う。

 彼は少しばかり後退を始めた銀髪を後ろに撫でつけた、渋い雰囲気を醸し出す細身の中年男性だった。


 礼装として着ているタキシードと胸元の蝶ネクタイがこの場の熱気に、不思議とマッチしていて不気味ささえ漂よわせている。

 相手はまだ若い。

 四十代はいかないほどにたくましく無骨な印象を与える武人だった。


 こんな欲望がうごめくような夜にふさわしくない。

 彼は人生で一度か二度しかないようなそんな大勝負をしている最中で。


 しかし、決着はもうそろそろつこうとしていた。

 勝者は――もちろん、胴元の大公だ。

  

「待ってくれ。まだ決まってないんだ」

「急げとは言わない。まだまだ夜は明けないからな。だが、時間には限りがあるぞ。ロアー騎士長」

「……その名前で呼ぶな、大公閣下」

「お互い様だな」


 ブラック大公は王国でもカードゲームの名人として知られている。

 彼と賭け事をやって負けた人間の話はよく耳にするが、勝ったという人間の噂を聞くことはあまりない。


 それもこれも全て自分の屋敷の地下に主催する賭博場だからこそ、成し得る技だった。

 しかし、ロアー騎士長はそのことを知らない。

 

「騎士長。あなたがこちらの地方の騎士団へと派遣されてから、二年が経過しようとしている。この土地のやり方にも、そろそろ慣れていただきたい」

「どういう意味かな。こんな違法賭博を定期的に開催していて、土地のやり方もあったもんじゃない。ここは王国の中で治外法権が適用されている……まるで、外国に迷い込んだ気分だ」

「なに、そんなに難しいことは言わんよ。ただ、騎士団が巡回するその日程を、この賭場を開く時期と少しばかりずらしてくれたらいい。それだけで十分だ。みんな、無事に戻れる」

「我々に、違法賭博を摘発されるのが怖いのか」

 

 状況だまだ自分に有利だと言い聞かせるようにしてロアーは鼻で笑った。

 自分がその賭博にはまり、多額の借金を抱えている身だというのに。

 彼自身がここの規則には縛られない、そんな振る舞いを見せていた。



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