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透明令嬢は、カジノ王の不器用な溺愛に、気づかない。  作者: 秋津冴
プロローグ 

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11/51

アイネの決断

「酷い義理の父親だと思うかもしれん。しかしそれもある意味、親の愛だ。お前にとっては不条理なものかもしれないが、私はそれが一番だと思いそうしてきた。財産を処分した件もそうだ」

「申し訳ありません。私にはその意図が理解できません」

「お前が伯爵家の娘であるということ。そこに誇りを持っていたならこうはしなかった。お前には、この家の人間に相応しくないと自戒している節があった。それは私の望むところではない」


 つまるところ、アイネにはここしか居場所がない。

 かつての両親のことを忘れいまの家族に馴染もうとしないその原因は、彼女へと亡き兄夫婦が遺した遺産にあると伯爵は考えた。

 だからー‥‥‥。


「それで私の財産処分したと?」

「その通りだ。お前にはお前の道がある」

「ですが、それはあんまりじゃないですか‥‥‥」


 アイネの声が悲しみに揺れた。

 心のどこかに伯爵に良いようにされた屈辱感が生れた。


 自分の思いが正確に伝わらないことを感じたのかもしれない。

 伯爵はもっと言わなければわからないのかと、寂しそうに視線を落とした。


「いいか、アイネ。結婚すれば、お前の財産はお前のものだ。しかし、土地屋敷があればそれは夫のものになる可能性がある。現金や債券に変えておけば、それはそのままお前のものだ。大公閣下も手出しは出来ない。夫婦の財布がそれぞれ別々になるからな。それが王国の法律だ」

「え? だって、私を疎んで追い出そうとして――」

「そうじゃない。家に残ればお前はエルメスにいつもまでも、いつまでも良いようにされるだろう。あれはこの家で最も、権力を持つことになる。私が年老いた時、誰がお前の独立を許すと思う? そのうち、あの不出来な娘はお前の財産も家も土地も処分して、自分のものにしてしまうだろう」

「そうなる前に、売ってしまった、と? そんな都合のいいことを、今更、言わないで下さい!」

「恨みに思うかもしれん。だが大公閣下からの申し出の期限は短かった。こうするのは時間的にも最善だったのだ。来週には出て行く前にあまり話をしてやることができん。最後に誤解されたままでは嫌だった」

「どうしてそんなことを、今。私に告白しようと考えたの、お父様」

「さて、な。ここまで話した今でも、お父様と呼んでくれるなら。それだけで私は満足かもしれん」


 そこまで言うと、長居をすることができないのか、それともエルメスに勘付かれることを恐れたのか。

 伯爵は室内の椅子に降ろしていた腰を上げると、早々に退出しようとする。

 その背中にどこか哀愁じみたものを感じて、アイネは咄嗟に叫んでいた。


「お父様!」

「なんだ?」


 伯爵はその声にびくんっと肩を震わせると、ゆっくりと首だけを後ろに向ける。

 座ったまま、アイネは彼から視線を外さずに挨拶をした。


「早く去ることにしてもよろしいでしょうか?」

「早く? それはどういう意味だ」

「来週ではなく本日は水曜日ですから。週末にでも家を出て行きたいです」

「……お前がそうしたければそうすればいい。ホテルを用意しておこう。それから閣下の元に行きなさい」

「感謝いたします」

「ああ」


 最後にありがとうの一言を耳にしたかったのかもしれない。

 思っていた言葉が返って来なかったことに伯爵は残念そうに肩をすくめて静かにドアを開け去っていった。

 



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