第3話
短くてすいません…本当は今回で終わる予定だったのですが、最後のクライマックスを以前に書いた元稿から加筆、修正したくてここまでになってしまいました。
読んでやってください。よろしくお願いします。
#7 寺
八丁堀 参千院
墓所。一つの墓の前に若者たちが集まっている。
辰之進と志乃、他にも三浦道場の門弟たちだ。
その中に清史郎もいる。
辰之進、悲しそうな表情を浮かべ、墓を見ながら清史郎に
辰之進「皆殺しだったからな…せめて宗助の家族だけにでも墓をと
亡骸を引き取ったら…宗助だけ殴り殺されたらしくてそりゃ
惨い(むごい)ものだったよ…」
思い出したように泣き始める門弟たち。
清史郎も言葉にならない表情。
弟子の中の一人の青年が
門弟A「両の手のひらには穴が穿って、顔も身体も紫色でぶよぶよに
膨れ上がって…おそらく自分の木刀で死ぬまで殴り続けられ
たんだろうって……」
沈痛な表情でうなだれる辰之進。
袴姿で侍の子らしきの門弟が泣きながら
門弟B「しかも、あんなひどい事件なのにお調べが沙汰止みだなんて…」
清史郎「なんだって? まことかッ?」
門弟「父上が言ってたもん。町方じゃ取扱えないって…もっと偉い人が
調べてくれるって言ってたけど、そんなの出鱈目に決まってら…」
愕然とする清史郎。裏の夫役が脳裏をよぎる。
清史郎「…………」
フラフラと歩きはじめる清史郎。
志乃が涙を拭きながら
志乃「清史郎様どちらへ…」
まるで聞こえてないように歩き続ける清史郎。
見ている志乃の顔に雨粒。
志乃「雨……」
#8 番所
日も暮れ、雨が降り続けている。
番所の中には机之介、甲子郎、伝兵衛の3人。
重苦しい雰囲気。誰も口をきかない。
傘を閉じながら左門が入ってくる。裏の顔になっている。
左門「小普請です」
キリッとした表情の3人。
時間経過。
土間の中央には血で汚れた「葵怨候」の書付と見取り図とが
広げられている。
左門「的は旧肥後加藤藩重臣・居木井又左衛門と
旧藩士12名。小塚原近くの廃寺を根城にしているようです」
甲子郎「カーッ 上からのお達しがもう少し早ければ、例の伊勢屋
の件だって防げたかもしれないってえのに…聞いただろ、
伊勢屋の倅の殺され…」
ガラッと引き戸が開く。
そちらを見る一座。口を押える甲子郎。
清史郎が濡れそぼった姿で立っている。
左門が引き入れながら
左門「美馬殿、一体どうされたのです傘もささずに…」
清史郎「(ポソリと)……ください…」
左門「エ?」
清史郎「(左門をまっすぐ見て)私にも裏の夫役をやらせて
ください!」
左門「しかし…」
チラと机之介を見る左門。机之介が近づき
机之介「まっぴらな死に損になるかもしれねえんだぜ?
それに例え上手くいっても仇討成りとは誰にも
言えねえんだぞ」
清史郎「構いません!」
強い意志で机之介を見る清史郎。
見返す机之介。ふいと背を向け
机之介「一人頭三人。意外と楽な仕事かもしれねえな」
清史郎「ありがとうございます!」
嬉しそうな清史郎。
左門、甲子郎、伝兵衛も口の端に笑みを浮かべている。
つづく