第2話
#5 寛永寺 番所。
粗末な建物に到着する2人。
左門「さあ、こちらですよ。どうぞ」
すすめられる形で中に入る清史郎。
後から入った左門が引き戸を閉める。
中には、小柄で袴を脚絆でまいた姿の御家人都築甲子郎。
大柄で作務衣姿でとても武士には見えない八瀬伝兵衛の2人が出迎える。
甲子郎「どうも。都築甲子郎です」
伝兵衛「………」
甲子郎「あ、こっちは八瀬伝兵衛。無口なんで気にしないで」
あまりにもフランクな雰囲気に少し拍子抜けした感じの清史郎
清史郎「はじめまして。美馬清史郎です」
奥にもう1人いることに気づく。
奥の板間には着流し姿に総髪を後ろで一つ結びにした男が
こちらに背を向けて座っている。
甲子郎「ああ、奥に座ってるのが…」
机之介「待ってたぜ。清史郎ちゃん」
男が立ち上がり振り返る。
清史郎の表情が驚きに変わる。
その後ろで別人のように目を光らせる箕輪。
男は黒頭巾の男だ。飄々とした感じで近づいてくる。
清史郎「其方はッ」
思わず柄に手をかける清史郎。
左門が元の表情で間に入り
左門「まあまあ美馬殿」
机之介「なんでえ番頭ッ 道中なんも話してねえのかよ」
甲子郎「ええ、ええ。お二人顔見知りだったんですよね?」
清史郎「顔見知りというか…」
甲子郎「久世机之介。でも言いづらいからみんな
キノさんって呼んでるけどね」
左門「騙したみたいで相済みません。とりあえず話だけでも聞いて
いただけませんか?」
まったく緊張感のない感じで微笑さえ浮かべている机之介いがいの3人。
机之介だけが不服そう。
気勢をそがれる清史郎。
時間経過。
清史郎が奥の板間の中央に正座している。
左門が対座するように正座している。
ほかの3人はてんでバラバラの場所にいるが顔だけは清史郎の方に
向けている。
清史郎「裏の夫役ですか?」
左門「左様。ご存知の通り、一昨年大御所様(秀忠)がみまかられて
現上様 家光公の治世となりました。上様は弟君の忠長公、
肥後51万石の加藤忠弘公など果断といえる御処置で次々と
大名家を改易しております。結果江戸市中には浪人があふれ
治安は悪くなる一方なのは、江戸に住む者なら肌で感じて
おられるでしょう?」
清史郎「………それが裏の夫役とやらにどうつながるのです?」
机之介「こないだお前が見た連中は忠長公の付家老で連座して改易
された鳥居淡路守の家臣で、大名小路を火の海にする計画を
立ててやがったんだよ」
甲子郎「計画っていうか実行するところだったんだけどね」
清史郎「そ、そんな…それならなぜ御公儀や奉行所が
動かないのですか?」
にわかに信じられない表情の清史郎。
左門「全てを表沙汰にして、いまの徳川家はいろいろ恨みを買ってます
とでも吹聴してまわるのですか? 御政道が間違ってましたと。
そんな事をしたら徳川の屋台骨自体が揺るぎ、再び戦国の世にも
戻りかねませんよッ!」
左門が厳しい(裏の)表情になっている。
清史郎「………」
甲子郎「そういう表沙汰にできない、とはいえ捨ておいては徳川のため
ひいては民のためにならない連中を、俺たち小普請の中から
腕に覚えのある者を選んで闇から闇に屠る(ほふる)のが
「裏の夫役」ってわけ」
伝兵衛「………」
清史郎「……。その「裏の夫役」を私にも。ということですか?」
左門、自分を落ち着かせるようにため息をひとつ吐く。
元の柔和な左門に戻っている。
左門「そちらの机之介さんの頭巾を斬ったことを聞きましてね。
是非にと思いまして」
机之介を見る清史郎。机之介はすでに背を向けている。そのまま
机之介「俺ぁ反対したんだぜ。人斬ったことも無え奴なんざ足手まとい
だってな」
清史郎「……断ったり、この事を誰かに漏らしたりすれば私も殺される
のですか?」
左門「まさか! 表沙汰にできない以上死んだら「死に損」ですからね。
無理強いはできませんよ。それにもし、この事を他言したところで
誰も信じやしませんよ。我々の掃除方が証拠ひとつ残さないのは
美馬殿も見たでしょう?」
清史郎「………」
甲子郎「清さん、一緒にやろうよ」
左門「影扶持としてですがもちろん報酬も出ますよ。いかがですか?」
甲子郎はすでに「清さん」呼ばわりしている。
伝兵衛が焼いていた餅を皿にのせて清史郎に渡す。
机之介だけが背中を向けている。
苦笑いの清史郎。
さっぱりした表情で左門へ向き直り。
清史郎「お話しは信じます。しかしお断りします」
ぺこりと頭を下げる。
甲子郎「え~ そんな~」
清史郎「生来争い事が嫌いな質のようでして。それに「死に損」
なんて、まっぴらですから」
左門「……。そうですか。仕方ありませんね…」
来た道を戻っていく清史郎の後姿インサート。
#6 商家
日本橋 南伝馬町
夜。大店の商家。左右に小間物と御用の看板。上には伊勢屋の看板。
居木井たちが押し込んでいる。一味はそれぞれ金を一か所に集めたり
家人たちを殺したり、女を犯したりしている。
居木井「遠慮するな、幕府に尻尾を振るような奴らは、1人残らず
犯して殺してしまえっ!」
言いながら奥の間に入る。
居木井が隠されていた伊勢谷の娘を見つける。
居木井「この店の娘か、なかなかの器量だの」
引きずりよせて犯しはじめる。
娘「イヤッ離してッ 父上ッ、母上ッ」
居木井、腰を使いながら娘の髪をつかみ広間に顔を向けさせ無造作に
転がったいくつもの死体を見せ
居木井「あそこに転がってるどれが父上と母上だ?」
娘「イヤーッ」
居木井「安心していいぞ。用を足したらお前もすぐ並べてやるからな
ハハハッ」
犯しながら高笑いする居木井を誰かが木刀で殴りつける。
居木井「グッ!?」
鬼の形相で見ると、そこには泣きながら震える手で木刀を構える宗助。
宗助「ね、姉ちゃんを離せッ」
娘「宗助ッ、来ちゃダメッ、逃げ……」
言い終わる前に居木井に刀で喉を刺され絶命する娘。
宗助「ね…姉ちゃんッ」
居木井「小僧よくも~ッ」
下半身を丸出しで居木井が立ち上がる。モノは屹立したまま。
宗助「ウワアアアーッ」
木刀で殴りかかる宗助。簡単に刀で木刀をはじき跳ばす居木井。
怯えて後ずさる宗助を捕まえ、片手で両手首をつかみ持ち上げる
そのまま壁に押し付け手のひらを刀で串刺しにする。
宗助「ギャッ」
壁に宙吊りのような体勢になる宗助。居木井、木刀を拾い。
居木井「小僧…簡単には殺さんぞ」
宗助を殴りはじめる……
つづく