第1話
時代劇が好きなんです。好きすぎて自分なりの「必殺仕事人」や「影の軍団」を考えてみようと思って書いたのがこの作品になります。
漫画原作用のシナリオ形式で書いています。
感想、レビューなどをいただけると幸いです。
#0 イメージ
商家に押し込み、奪い、犯し、殺す居木井たち。
「葵怨候」の書付
「寛永11年 幕府御用達の商家ばかりを
狙い、奪い、犯し、家人は皆殺しという外道働きをする押し込みの
一団が横行した。
現場には「葵怨候」の書付が何枚も貼られ
ていたという。
しかし町奉行は、なぜかその書付の存在を揉み消し、それどころか
お調べさえも人知れずに沙汰止みとなっていた…」
#1 三浦道場
日本橋 室町
夜。三浦道場の前。
送り出される形で清史郎。送り出す形で立花辰之進・許嫁・三浦志乃。
それに弟子たちが数名。
清史郎「ここまでで」
志乃「やはりお父上も起こしましょうか?」
清史郎「大丈夫です。先生にもよろしくお伝えください」
弟子たちの中の1人の少年・宗助が泣きながら
宗助「清史郎さん、やっぱり辞めちゃやだよ…」
清史郎「宗助、その話はもう…」
苦笑いの清史郎。辰之進が口を挟むように
辰之進「そうだぞ宗助。(清史郎に)とはいえ、いつでも
稽古をつけに来てくれて構わないのだぞ」
清史郎「ああ。わかった」
微笑み合う2人。その様子を見て微笑む志乃。
「この青年・美馬清史郎は無役の御家人である。
日本橋室町の三浦道場の高弟であったが、跡目を同輩である
旗本の次男・立花辰之進が継ぐこととなり、後難を避ける為に、
自ら道場を辞すことにしたのであった」
#2 夜道
日本橋 本町
夜道を歩く清史郎。酒のほてりを冷ますかのように
清史郎(少し飲みすぎたか…)
一町先で男たちの怒声を聞き、そちらの方へと向かう清史郎。
辻の手前から覗き見ると、刀を抜いた浪人6~7人が
キョロキョロと辺りを見渡しながら
浪人A「やっと撒いたか?」
浪人B「そのようだの」
浪人C「いったい彼奴ら…う、上だ…」
見上げる浪人たち。つられるように同じ方を見る清史郎。驚いた表情に。
清史郎は一瞬 夜空から長い弓が降ってきたのかと思った
月を背に、シルエットで長身の男が刀を弓なりになるほど振りかぶり
跳び降りてくる。そのまま一人の浪人を真っ二つに斬り伏せる。
降ってきた男は真っ黒な着流しに黒頭巾。
狼狽したように男を囲む浪人たち。
黒男「ちっ外れた、こっちの方が数が多いじゃねえか」
斬り掛かる浪人たち。ブツブツ言いながらもあっという間に斬り伏せる男。
その様子をあっけにとられ見ている清史郎。
すでに半数以上が斬られて倒れている。
清史郎、我に返り
清史郎(自身番に届けなくては…)
辻に背を向け静かに歩き出す清史郎。しかしわずかな足音。
少し進んだところでさきほどの黒装束の男が前に立つ。
清史郎「そ、其方、何奴だ?」
男、答えない代わりに刀を構える。
斬り合いを覚悟して清史郎も柄に手をかける。
空気が変わる。
黒男「へぇ…アンタぁ名は?」
言いながら刃を返して峰打ちの姿勢を取る。
清史郎「直参 美馬清史郎」
清史郎が名乗ると同時に男が斬り掛かる。
素早く刀を抜き応戦する清史郎。
斬り合いになる男と清史郎。逆袈裟に斬り上げる。
男は後ろにわずかにそれてかわすが、頭巾が切られ、顔が露わになる。
清史郎、男の顔を見る。
黒男「ヒュー。やるねぇ」
男、悪びれた様子もなく
黒男「ま、時間稼ぎにゃ十分だろう…楽しかったぜ」
逃げ去る男。
清史郎「あっ………」
一瞬追おうとするが、男の言葉が気になり、あわてて現場の辻へと駆け戻る。
清史郎「!?」
斬り伏せられたはずの浪人たちの死体がすべてなくなっている。
信じられない表情の清史郎。
清史郎「・・・・・・」
#3 美馬邸
数日後 神田 三河町
狭い位の庭でもろ肌を脱いで木刀を振っている清史郎。
それを縁側に座ってニコニコと見ている母・おつる。
父・景忠が不満面で家内から出てくる。清史郎気づき
清史郎「父上、おはようございます」
景忠「そんなに剣が好きなら、なにも道場を辞めることは
なかったのではないのか?」
清史郎、汗を拭きながら
清史郎「またその話ですか…いいのですよ。代替わりしたのに
同期の人間が師範代だと辰之進もなにかとやりづらい
でしょうし、それに所詮馬じゃ竜には勝てませんよ」
景忠「お前はすぐにそうやって…」
おつる「そうですよ。清史郎の決めたことなんですから。
それにこうして息子の凛々しい姿を毎日見れるのだから
いい事じゃないですか」
奥(玄関)から「ごめんくださ~い」の声
おつる「あら、誰かしら。はーい」
玄関へと向かうおつる。
景忠「しかしのう…せっかくの安定した収入源を…」
清史郎「(苦笑い)今日にでも小普請入りの願いを出してきますよ」
景忠「小普請組に入ったところで、御番入りなど叶うものかッ。
いったい儂が何十年無役でいたと…」
おつるが入ってきて話をさえぎる。
おつる「清史郎…小普請組頭の方が…」
キョトンとしている清史郎と景忠。
#4 和室
上野
緩やかな上り坂を歩く。見渡すような野原に寺や武家屋敷がまばらに
点在している。清史郎と武家姿の小普請組頭・箕輪左門が歩いている。
「無役の御家人の事を小普請といった。小普請組とはこのような
御家人たちをまとめ禄に合った城や寺などの修繕や土木事業を手伝わせ
その一方で幕府の役職に欠員が出た場合に、見合った人材を幕府に推挙
する幕府内の一部署である」
左門は袴姿ではあるが、その物腰はまるで商人のように柔らかい。
にこやかな表情で
左門「左手に見えてきたのが不忍池ですよ。あの池の真ん中に
見える弁天堂は天海大僧正様がこの池を琵琶湖に見立てて
中之島を築いて…」
清史郎「(さえぎるように)…あの箕輪様、このような事はよくある
ことなのですか?」
左門「このような?」
清史郎「その…組頭様が直々に無役の者を自分の小普請組に勧誘したり
など……そもそもなぜ私の事を御存じだったのですか?」
左門「有能な人材を推挙すれば、上役の顔覚えがめでたいですからね。
先日跡目を継がれた立花辰之進殿と美馬清史郎殿といえば三浦道場の
竜と駿馬と呼ばれて室町あたりじゃ有名みたいじゃないですか」
清史郎「(照れくさそうに)それほどの事は…」
左門「さあ着きましたよ。これが上野のお山、東叡山寛永寺です」
小高い山に石階段が敷かれている。山は森と切り開かれた地が点在している。
左門「10年位前から普請を始めたんですがね、いまだお山のあちこちに
堂を建てたり道を整備したりといろんな普請があるんです。
ここに私のお預かりしてる番所があります」
石階段を登る2人。気を引き締めるような顔の清史郎。
つづく