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7月4日 成績表

 今日は、4時間目に、6月に行われた実力テストの結果が返却された。私は、志望校の欄に、横浜、神戸、東北などの大学を書いていた。横浜は、A判定で、神戸と東北の大学は、どちらもB判定だった。

 実力テストの結果が返却され、いつもより賑やかだった。クラス内でのベスト3も公表されていた。クラストップは、佐々木、クラス2位は、寺崎。そして、クラスの3位に私が入る結果となった。

 同時に、学校内順位もベスト10まで張り出されていた。そこには、昨年度まで一緒のクラスだった2名の名前もあった。

 

〈実力テスト校内順位〉

 1位 矢田颯希

 2位 佐々木佳奈

 3位 篠木七海

 4位 森海斗

 5位 寺崎祐奈

 6位 柴咲陸

 7位 高井徹也

 8位 郷田城

 9位 高田真波

 10位 沢田大樹


 颯希は、昨年言っていた医学部合格に向けて、確実に階段を登っているようだった。七海も3位だったが、志望校合格は余裕だろう。

 それにしても、颯希のテストの結果はダントツであった。2位の佐々木に5教科総合得点で30点の差をつけていたのだから。

 思い返せば、颯希の名前は、中学生の時から知っていた。当時、私が通っていた塾にいた陽菜乃の口から、矢田颯希という名前を何度も聞いていたからだ。

 陽菜乃は、颯希と友だちではないらしいが、成績優秀で顔も可愛いということをよく言っていたことを覚えている。当時は、そんな子がいるんだということぐらいしか考えていなかったが、高校に入ると男子から矢田颯希という名前を聞かない日はないくらい、毎日聞いた。

 そして、私が高校1年生の4月。教室を探していた時に、後ろから声をかけてくれたのが颯希だった。会話は、すぐに終わったが私にとっては、印象深い出来事だった。

 颯希は、ショートヘアで可愛らしい顔をしていた。入学当初から、中学時代と同様に人気だった。淮南高校に彼氏がいるという噂もあった。高校でも、テニス部に入っており、中学時代は県大会で優勝もしているそうだ。本当にスターという感じだった。

 しかし、話してみると本人は、自分が特別であることを全く意識していない様子だった。それどころか、自分にあるものではなく、人にあるものに憧れを抱いていたのだった。


 ー1年前ー


 昼休みに集まった体育館で、再びシュート練習が始まった。さっきまでは、七海もいたが、しびれを切らして先に帰ってしまった。そんな七海とは、対照的に矢田さんは、バスケに夢中であった。


 矢田「高田さん、シュート狙う位置ってどのあたりがいいの?」

 私 「そうやね。人にもよるけど、ボードの内側の角かな」

 矢田「ボードの内側の角かー」


 また、矢田がシュートを打ちはじめた。

 

 そろそろ授業の10分前になった。私は、矢田さんに声をかけた。


 私 「矢田さん、そろそろ帰ろう」

 矢田「えっー、もうちょっとさせて」

 私 「だって、チャイム鳴るよ」

 矢田「いいじゃん、ちょっとぐらい」

 私 「そうなの?」

 矢田「そうだよ。なんでも、大人に決められて枠に縛られても仕方ないじゃん」


 そう言って再びシュートを打ち始めた。少しずつ、話すうちに、矢田さんのイメージが変わってきた。


 私 「どう?ちょっとは、コツつかんだ?」

 矢田「どうやろ?でも、シュート入ったら嬉しいね」

 私 「矢田さんって、いつも楽しそうにしてるよね」

 颯希「普通に楽しいよ。あと、私のこと、颯希ってよんでくれていいよ。私は、真波って呼んでいい?」

 私 「あっ、いいよ」


 篠木さんに続いて、矢田さんも名前で呼んで欲しいらしい。シュートを終えた颯希は、壁にもたれかかっていた私のところに歩いてきた。


 颯希「真波って、将来なりたい職業ってある?」

 私 「将来かぁ。何もないよ。やりたいこともないから、大学どうしようかなぁって」


 つい、言うつもりなかったことを言ってしまった。


 颯希「そうなんだ」

 私 「うん。颯希は、何かあるの?」


 恐る恐る名前を呼んだみた。


 颯希「私は、医者になるよ」


 颯希の発言にビックリしてしまった。


 私 「医者になるの?」

 颯希「うん」

 私 「凄いね。じゃあ、医学部志望?」

 颯希「そう。偏差値高い大学の医学部は厳しいから、偏差値低い大学の医学部目指してるの」

 私 「そうなんや。初めて知った」

 颯希「だって、親にしか言ったことないから」

 私 「そうなの?なんで言ったのか?」

 颯希「真波だったら、言ってもいいかなって」

 私 「‥‥‥」


 少し間を空けて、話を、続けた。

 

 私 「てっきり、有名私大行くのかと思ってた」

 颯希「有名私大は、私の頭じゃ、行けないよ。まぁ、医学部もレベル高いんだけどね」

 私 「いやいや。颯希で行けなかったら誰も行けないやろ」

 

 颯希と七海は、学年でトップ10に入るほどの学力があった。そんな二人とは、対照的に、私は頑張って、トップ10にやっと、入ることができるくらいだ。

 

 私 「颯希らそろそろ帰ろう」

 颯希「はーい。バスケ楽しかったから明日もしよー。」

 私 「私は、今日も明日もバスケしてるよ」

 颯希「真波は、バスケ部だもんね」

 私 「颯希って、やっぱりスゴイよね」


 普段は、ほんわかしている颯希の表情が引き締まった。


 颯希「そんなことないよ。よくスゴイって言われるけど、私からしたら、真波とか七海の方がずっとスゴイよ」

 私 「えっ、どこが?私は、颯希に勝てるとこ何もないよ」

 颯希「そんなことないない。真波は、周りのこと常に見てるやん。私は、そんなんできないよ」

 私 「ただ単に、自分がないだけよ」

 颯希「それって、簡単にできることじゃないよ」

 私 「いやいや。颯希は、勉強も顔も性格も完璧じゃん」

 颯希「それは、真波の思い込みだよ。私なんて、大したことないよ。それだったら、私のお姉ちゃんの方がスゴイ」

 私 「颯希って、お姉ちゃんいるの?」

 颯希「うん、今はフリーターだけどね」

 

 お姉ちゃんの話をする颯希は、とても笑顔だった。


 颯希「もう、時間だし、戻ろう」

 私 「うん」


 決して、目に見えてるものだけが全てではないと感じた1日だった。颯希もいろいろ抱えながら、生きていることがわかって、少し距離を縮めることができたと思えたのだった。

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