8月3日 パサー
私たちは、前へと歩き始めた。しかし、なかなか前へと進まない。それもそうか、こんな大行列だったら。私は、諦めて別のトイレを探し始めた。コンビニの近くにあったトイレを借りることにしたのだった。
ー7月27日ー
試合は、聖徳高校の怒涛の追い上げで後半12分終了し、32対36と4点差まできたのだ。いける!!私たちの中で、そんな思いが募っていた。私たちにきた流れを断ち切るように、江陵高校エース柳川は、タイムをとった。
すると、選手後退が告げられた。ベンチからやってきたのは、ベリーショートの髪の毛をした女の子だった。どこかで、見たことがある。誰だ?私の近くにいた大野が話しかけてきた。
大野「真波!!」
私 「ん?」
ストレッチをしながら、大野の話を聞いていた。
大野「あの子、知ってる?」
私 「いや、わかんない」
みんなとハイタッチをしている女の子を見つめた。
大野「知らないの?あの子、全中MVPの子だよ」
全中のMVP?
私 「なんで、そんな子がいるの?」
身長は、約160cmくらいだろうか?
大野「知らないけど、おそらく野村って子だよ」
私 「野村さんねぇ」
監督が、私を呼んだ。私は、慌てて走りに行った。
監督「あいつは、パサーだ」
私 「そうなんですか?」
パサーとは、周りの選手にパスを出して活躍する役割だ。
監督「そうだ。だから、アイツにパスを回されるとやっかいだぞ」
たしかに、この点差まで縮んだのに、これ以上、離されるとキツい。
私 「わかりました。でも、なんで、レギュラーで出てないんですか?」
ふと疑問が浮かぶ。
監督「ケガじゃないのか?それか、いなくても勝てると思われていたか?」
私 「フフフ。わかりました」
何が面白いのか自分でもわからないが、どこかワクワクしている自分がいたのは事実だった。彼女の登場で、この後の試合展開が全くよめなくなった。柳川、山根に加えて、三人目の有名選手。まずは、パスを回されないようにチームメイトに声をかけた。
試合再開の合図が鳴り響いた。ボールは、さっそく、山根から野村へと回っていく。野村は、パスを出さない。ずっと、ドリブルをしてゴール前へと進んでいく。ドリブルで選手を抜いていくと、大きな歓声があがる。全然聞いていたパサーと違う。なんだこれは?




