7月3日 体験
今日は、数学の授業が二時間あった。午前中の数学の授業は、真剣に聞いていたが、午後からの数学は暇で仕方がなかった。
昨日から、席がえをして、外の景色を見ることができなくなったのは残念だった。私の隣の席にいる寺崎は、一生懸命、授業を聞いている。私は、塾でもやっているので、たいして難しくなはかった。
ただ、わかっている範囲を一から説明されるのはしんどい。私は、練習問題を解く以外の時間は、ほとんど聞いていなかった。「なぜ、数学を勉強しないといけないのか」、私にはわからなかった。私は、授業中にも関わらず、スマートフォンを机の下に出し、インターネットで「数学 意味」と打ちこんだ。
・数学を学ぶ理由
・論理的思考を身につける
・問題解決方法を知る
どのネット記事を見ても、大体、この三つが出てくる。そんなありきたりの解答は求めていない。大人になってからじゃなく、今すぐ実感できるものがいい。そんなことを考えていた。
数学の練習問題を解き終わった後、暇を持て余していたら、今日も、颯希や七海のことを考えていた。
ー1年前ー
矢田さんからバスケの練習がしたいと言われたため、昼休みの時間に、私と篠木さんは、体育館に集合した。
篠木さんが来たところで、再び矢田さんは、シュートを打ち始めた。
矢田「高田さん、シュートってどうやったらいいとかあるの?」
私 「えっー?そんなんあるかな?」
矢田「なんか、シュートのフォームとか」
私 「とりあえず、一回シュートしてみて」
矢田「はーい」
短い髪を揺らしながら、ボールを放った。ボールは、ボードにあたって、ゴールネットの中に入らずに床に落ちた。
私 「もうちょっと、脇しめてみて」
矢田「わかった」
私 「ゴールポストの白い壁を意識してみて」
颯希「うん」
可愛い笑顔が、真剣な顔へと変わる。ゴールネットを見て、ボールを床にバウンドさせた。そして、そのボールをネットめがけてボールを離した。
ボールは、空中で回転しながら、ネットの方向へと飛んでいく。矢田は、ボールの行く先を見つめていた。そして、ボールは、ゴールネットの中に直接吸い込まれていった。
矢田「おー、入った。やったぁ」
私 「ないすぅ」
矢田「さすが、高田さん」
私 「矢田さんが、上手なだけだよ」
矢田「そんなことないょ」
矢田の可愛いらしい笑顔がはじけた。私の指導通り、実践してしまうのだから、流石としかいいようがなかった。
矢田「篠木さんもやってみてよ」
篠木「えっ、私はいいよ。来ただけやし」
しかし、颯希はしつこく誘う。座っていた篠木さんの腕をつかみ、コートへと連れて行く。
颯希「はい、どうぞ」
篠木「もぅ」
しつこく誘う矢田さんを断ることができなかった様子。ゴール前にあるボールを矢田さんから受け取った。篠木さんは、少しムッとした表情をした。その表情とは対照的に、バスケット選手のようなフォームでボールを放した。ボールは、そのまま一直線でゴールに入った。
矢田「えっ、一発で入るとか凄いやん」
篠木「たまたまよ」
私 「でも、フォーム綺麗やったよ」
矢田「なんで、なんでー?」
篠木「たまたまやって」
再び、矢田さんがしつこく聞いた。篠木さんの発言に対しては、とにかく絡んでいく矢田さんであった。すると、篠木さんからボソッと話し始めた。
篠木「昔、彼氏が教えてくれたことがあって」
矢田「えっ、彼氏?バスケ部?」
篠木「うん」
矢田「バスケできるやん。知らんって言ってたのに」
意地悪そうに、篠木さんをあおる。
篠木「だって、知ってるっていったら、やらせるやろ?」
矢田「そりゃねぇー」
篠木「だから、やらんかったの」
私も、矢田さんに負けじと、篠木さんをいじった。
私 「誰なん?」
篠木「高田さんまで、いじらんといてよ」
私 「ふふ。教えてよー」
篠木「聖徳の人ちゃうから、いいでしょ」
矢田「えぇー。気になる、気になる」
矢田さんも会話に入ってきた。
篠木「ひみつー」
篠木さんは、そう言って拾ったボールを矢田さんにパスをした。
篠木「矢田さん、バスケしないの?しないんやったら、私は変えるけど」
矢田「わかったよー。バスケしーますだぁ」
そう言って、矢田さんは、再びシュート練習を始めた。私と篠木さんは、ゴール裏の壁にもたれかけた。
私 「篠木さんは、数学の勉強しなくていいの?」
意地悪そうに質問をしてみた。
篠木「勉強とかおもしろくないし」
私 「あんだけ、矢田さんに言ってたのに?」
篠木「だって、バスケもめんどくさいもん」
私 「しかも昼休みだしね。篠木さんは、休み時間何してるの?」
篠木「何してる?うーん。難しいな。そんななんもしてないけどね」
私 「他のクラス行ったりしてない?」
篠木「時々、行くかな」
私 「誰と会ってるの?」
篠木「生徒会やと思う」
私 「生徒会の人かぁ」
篠木「あんま、会いたいとかないけど。打ち合わせとか多くて」
私 「篠木さんも、大変だね」
篠木「七海でいいよ」
私 「ん?」
篠木「七海って呼んでくれたらいいよ」
私 「わかった」
少し動揺した私だった。
七海「矢田さんって、なんであんなに全力なんかな?」
私 「ホントやね。楽しいんかな?」
七海「私は、無理かな。部活にも成績にも影響しないことやる意味ないやろ」
私 「でも、楽しそうにしてるね」
七海「たしかにねぇ」
私 「おもしろいよね、矢田さんって」
七海「そろそろ、次の時間なるし、私帰るわ」
私 「うん」
七海「矢田さん、私、そろそろかえるねー」
矢田「そうなのー?」
そう言って、七海は、体育館を後にした。矢田さんは、まだ、納得していない様子だった。私は、体育館を後にした七海を見ながら、矢田さんに話し始めたのだった。