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7月2日 会話

 この日は、三年生になってから初めての席がえの日だった。馴れ親しんだこの窓側の席とお別れと思うと少し寂しかった。

 席順の結果、窓側とは反対の廊下側の席になった。隣は、寺崎だった。二年生から同じクラスで、女子の中では、一番よく知っている子だった。前は、林、沢田、後ろは、藤岡、中沢という布陣。まさに、うるさいメンバーが固まったという印象だろうか。

 それでも、みんなは、楽しそうだった。昼食時間に、沢田と中沢がどっか行こうかという話をしていた。その様子を、そっと見ていた。


 沢田「寺、中間終わったらどっか行かへん?」

 寺崎「いいよ。どこ行く?」

 沢田「まぁ、何人くらいでいくかにもよるけど、パァーっと楽しみたいよね」

 中沢「いやー、楽しみたいな」

 寺崎「何人で行く気なん?」

 中沢「10人くらいちゃう」

 寺崎「そんな誘うん?」

 沢田「まぁ、高校最後の年やしな」

 中沢「ホンマそれな。高校卒業したら、何もかも忘れんねんで」

 寺崎「そうやけどさ。人多いやろ」

 中沢「まぁ、パァッーと行こや」

 寺崎「何、そのパァッーと行くって」

 沢田「美桜も高田さんも来てくれるやんな?」


 急に話をふられてビックリした。


 林「うん、行くよ」


 私「あっ、うん。空いてたら、行くよ」


 林につられて、慌てて返答してしまった。内心は、言わなきゃよかったと思っていた。


 寺崎「二人ともか、かるいな。藤岡行くー?」

 藤岡「何が?」


 横で宿題をしていた藤岡が振り向いた。


 寺崎「中間テスト終わったらどっか行くっていう話」

 藤岡「いいやん、行こや」

 寺崎「みんな、余裕やん」

 沢田「寺もいこか」

 寺崎「みんな行くんやったらいこか」

 中沢「決定やな。男子も何人か誘っとくわ」

 沢田「そうやな。また決まったら連絡するわ」


 3年生になると、2年生までの普通科5クラスから、国公立志望クラス、私立志望クラス、理系クラス、普通クラス、就職クラス、に別れるのだった。昨年度まで一緒にだった矢田は、私立志望クラス。篠木は、理系クラスに入った。

 私たちがいる3年2組は、国公立志望クラスだ。どの子もみな頭がよく、勉強をするには最高の環境だった。しかし、私は、国公立の大学に行くか迷っていた。そのため、思うように勉強に身が入らなかった。矢田さんや篠木さんという私にとって最も刺激な人がいなくなったことも大きいのかもしれない。

 国公立以外の大学に行きたいということもなかったので、自分のこれからについてとても困っていた。周りは、勝手に国公立志望だと思っている様子で、大学受験をやめるなんて言ったら、大変なことになるのではないかと思っている。

 周りからの過度な期待に応えようとしすぎる自分があまり好きではなかった。昔から、みんなが褒めてくれるから、やらないといけないと思ってしまう。自分で自分の首をしめてしまう感覚に近いのだろう。

 余計、周りとの関係がうまくいかないのだ。高校生になってから、クラスの人と遊んだ記憶は、颯希や七海以外いなかった。

 

  ー1年前ー


 颯希「ねぇ、高田さん」

 私 「何?」

 颯希「今日のお昼休み、バスケ教えてよ」


 この前、決まった球技大会のバスケについて矢田さんが話してきた。てっきり、遊び程度でやるのかと思ったのでビックリしてしまった。


 私 「えっ?」

 颯希「もうすぐ本番やし、ちゃんとしといた方がよくない?」

 私 「あんまり、ルール知らないんやったけ?」

 颯希「そうやねん。シュートの打ち方とか教えてよ」

 私 「まぁ、私でいいんやったら、教えるけど」

 颯希「じゃあ、篠木さんも呼ぼっかー」


 そう言って、篠木のところへ行った。しかし‥‥

 

 颯希「篠木さん、今日のお昼、バスケの練習しようよ」


 篠木「えっー、嫌や。だって、汗かくやん」


 矢田の誘いを嫌そうに断る篠木だった。


 颯希「いいやん。一緒にシュートの打ち方教えてもらおう」

 篠木「嫌やって。5時間目、数学のテストやし、復習する方が大事やって」

 颯希「いやいや、篠木さんはそんなんしんでも大丈夫やって。じゃあ、4時間目終わったら、体育館来てよ」


 篠木も完全に矢田のペースにもちこまれていた。


 篠木「誰もオッケーしてないって」


 篠木の返事は、矢田には届いていない。矢田颯希は、基本、人の話を聞かない。それでも、周囲を明るくすることができる。クラスの誰もができないと思うことでも、圧倒的な行動力で達成してしまう。

 一方、篠木七海は、人の話をよく聞き、論理的に考える。みんなが正しいと答える問題に対しても、自分が好きな違うと考えた際は、周りの目も気にせず、別の意見を伝えることができる。

 この相反する二人と私は、球技大会でバスケをしなければならなかった。

 昼食を食べた後、私は、一人で体育館に向かった。体育館には、矢田さんがいた。先に着いていた矢田は、一人でシュートの練習をしていた。


 私 「篠木さんは?」

 矢田「まだ、来てないよ」

 私 「そうなんだ、くるかな?」

 矢田「来るよ!」


 篠木さんが本当にくるか疑問に思った私とは、対照的に矢田さんは、篠木さんに対してとても信頼をおいている様子だった。


 矢田「高田さん、ちょっとトイレいってくる」

 私 「あ、うん」


 矢田さんから受け取ったボールに触れ、ワンバウンド、ツーバウンドさせ、シュートの構えをしボールを放った。そして、ボールはゴールへと吸い込まれていった。

 すると、体育館先の入り口の所から拍手が聞こえた。拍手をしていたのは、篠木さんだった。

 

 七海「颯希は?」

 私 「トイレ行ってる」

 七海「ふーん」

 私 「篠木さんって、矢田さんと仲いいの?」

 七海「仲いいもなにもないよ。今年からクラス一緒になったし」

 私 「そうやったんや。てっきり、仲いいのかと思った」

 七海「高田さんは、颯希と仲良いの?」

 私 「私も、ほとんど話したことないよ」

 篠木「じゃあ、一緒やね」

 私 「うん」

 

 そんな話をしていると、矢田がやってきた。


 矢田「遅くなって、ごめん。篠木さん、ちゃんときてくれたんや」

 篠木「だって、来ないとずっと言うやろ?」


 少し照れくさそうに答える篠木さんだった。


 矢田「なんの話してたの?」

 篠木「別に、たいした話してないよ」

 矢田「あっ、そうなんだ。それより、さっそく始めようよ」


 そういって、矢田さんは、ゴール下のボールを拾いにいった。

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