7月12日 決勝3
残り1分。三年生チームが攻めるもなかなかゴールが入らない。開始13分。私たちのチームのボールになった。七海がドリブルをして前に攻める。私には、喜早先輩のマークがついている。しかし、喜早先輩の裏をついたところに七海がパスを出してくれた。
ゴールまで、コート半分。私は、何もかもが止まって見えた。 私の右斜め前にいる颯希。必死な顔で私に声をかけている。左斜め後ろには、七海。凛とした表情をして前に進む。会場には、多くの女子生徒がいた。三年生の女子、二年生の女子、一年生の女子。そして、私たちを応援している二年一組の生徒。
ゴール前には、優衣がいた。何か叫んでいる様子だが、よくわからない。先ほどの試合終わりに言われた一言が、頭をよぎった。優衣だけでなく、明日花も傷つけたのかもしれない。それでも、私にはこの一瞬しかないと思えた。颯希や七海のような才能は私にはない。でも、この二人といると、中学生の頃みたいな感覚になっていた。
昔から、その日のその一瞬を大事にしてきた。小学校では、初めて副会長に。副会長になったことで、優衣や明日花と仲良くなれた。優衣や明日花がいたことで、私の人生は大きく変わった。中学校では、小学校の時に習っていたテニスではなく、バスケ部に入った。バスケ部に入ったことで、中学校三年生の時に、バスケ部の名門校からスカウトしてもらった。
高校では、バスケ部に入った。憧れの喜早先輩。そして、颯希と七海に出会えた。
あの日、病院に行っていたら優衣と喧嘩することはなかったかもしれない。しかし、昨日は、どうしても颯希と七海といたかった。どうしても二人とバスケをしていたかった。高校生になって、こんなにも夢中になれた瞬間はなかった。
もう、私をとめれる者は、いなかった。部活動のバスケであれば、パスを選択していたのかもしれない。しかし、この試合は自分で決める。いつしかそんな気持ちが芽生えていた。
開始から14分が経過。ゴールから2mほど離れたところで、喜早先輩にマークされた。いつもは、前髪がきちんと整えられている黒髪が、左右に散っている。目線は、私のボール。
立ち止まり、狙いを定めた。シュートを放った瞬間、私は力強く拳を握りしめた。ボールは、バスケットゴールに吸い込まれていった。ボールが床に落ちて、ワンバウンドした瞬間と同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。体育館は、大きな熱狂に包まれていた。まるで、ブザービート のような試合の幕切れだった。