7月10日 決勝
今日は、昼休みの時間に、下田について話していた。下田とは、下田那奈のことだ。寺崎と林が話をしていた時に、私にも何か知っているか聞いてきた。おそらく、下田の状況は、特定の人しかわからないようになっているのだろうと考えていた。
下田は、GW休み前からずっと学校を休んでいる。私は、そこまで仲が良いわけではないので、どういう状況なのか知らなかった。
下田と仲が良いのは、山川、新谷、蒼井あたりだろう。昼食を食べ終えて遊んでいた私たちの輪の中に入ってきた。すると、沢田と藤平が下田の席について話しはじめた。
藤平「もう、この机いらんくない?」
沢田「まぁな。でも、下田もどってくるかもしれへんし」
藤平「使わんのにあるだけ邪魔じゃない?」
沢田「そうやけどな」
藤平「戻ってきたら出したらよくない?」
沢田「それは、いい案かもな」
藤平「先生に言おう。掃除のたびに動かすのはめんどくさい」
沢田「どっか置いとける場所があったらいいけどな」
寺崎「もう、そこ置いといたら?」
寺崎が、めんどくさそうに、沢田と藤平の話に割って入った。
藤平「えぇ、邪魔やろ」
寺崎「でも、置く場所ないやろ?」
藤平「それは、ないな」
寺崎「今は、おらんけど、勝手に那奈の机動かしたりすると、楓とか新谷怒ると思うで」
藤平「ええやん、めんどくさいなぁ」
藤平は、不機嫌そうにシャーペンの芯を出し入れしていた。私は、お弁当を食べながら、会話に耳を傾けていた。すると、噂をしていた山川、新谷が話をしながら教室の中にはいってきた。
話をしていた藤平に、寺崎がジェスチャーをして、会話をやめるように指示した。山川、新谷にさっきの会話は、聞こえずに話題を変えることができた。
こうしたトラブルは、日常茶飯事によくある。特に、私たちのクラスでは、成績優秀な人が多いため、プライドがぶつかるのだ。4月には、土井と辰巳、5月には、山川と佐々木がそれぞれケンカをしていた。山川と佐々木のケンカは、クラスの女性が全員巻き込まれていた。
そなことを考えると、教室に七海が入ってきた。久しぶりに走っている七海を見ていると昨年のことを思い出した。
ー1年前ー
球技大会のバスケットボールもいよいよ、決勝戦を迎えていた。
決勝の相手は、三年二組だった。三年二組には、バスケ部の先輩である喜早遥がいた。バスケ部のエースでキャプテンである。さらに、バレー部の早川智春、ソフトボール部の館原優がいた。三年生チームは、私たちよりも運動能力が高く、弱点が見つからなかった。
これまでの相手であれば、負けるとは思わなかったが、三年生メンバーは、隙が見当たらない。開始の合図があるまで、どうすればよいか考えた。
三年生チームには、現バスケ部のキャプテンでエースの喜早先輩がいる。城星大学からスポーツ推薦の話ががきているぐらい上手である。たとえ、私がマークしたところで、バスケの技術は、喜早先輩の方が上。
数値化すれば、10点中、私は7点。一方の喜早先輩は、9点。バレー部の館原先輩は、運動神経が抜群の様子。バスケ経験者の七海をつけたとしても遜色ないだろう。
そして、ソフトボール部の早川先輩の実力もかなりのものだ。特別上手いわけではないが、バスケ初心者の颯希が敵う相手ではない。
三年生チームは、喜早先輩中心のチームである。しかし、喜早先輩がシュートを打つ場面は、少なく守りに入ることが多い印象だった。喜早先輩は、早川先輩にパスを出すことが多く、そこからの得点パターンが多い印象だった。
残り10分ほどで、いい作戦が思いつかなければ、その方法でいくしかない。私が、そんなことを考えているが、颯希と七海は、相変わらずなやりとりをしていた。
颯希「七海、私に水ちょうーだい」
七海「嫌やって。私もないもん」
颯希「おねぇがいやって」
七海「嫌やって」
颯希「ちょうーだい」
七海「真波」
私 「ん?」
七海「飲み物余ってない?」
私 「余ってるよ」
七海「颯希にあげてくれへん?」
私 「いいよぉ」
颯希「やったぁー。水、水。」
颯希は、私からもらった水を嬉しそうに飲んでいた。すると、女子バスケ部の監督である、水谷先生が試合開始前の笛を鳴らした。
颯希、七海とともにコートにたった。前には、憧れの喜早先輩がいた。水谷先生がルールを説明し、試合が始まった。
開始早々、相手チームは速攻をしかけてきた。早川は、右サイドに走る喜早にパスを出し、パスを受け取った喜早先輩は、ドリブルをし、ゴール前の館原にパスを出した。そのまま、館原はレイアップシュートでゴールを決めた。開始40秒で、先制点を献上してしまった。
私のスローインから、始まった。七海も颯希もマークがついており、パスが出せる状態ではない。それでも、七海が走るであろう場所にめがけて、ボールを投げた。もう少しで届きそうなところで、喜早先輩にカットされた。喜早先輩は、ドリブルで攻めてくる。私は、喜早先輩の前に行き、ガードする。
すると、次の瞬間、いとも簡単に私の真上にボールを浮かした。喜早先輩が持っていたボールが突然なくなったように感じた瞬間だった。私をあざわらうかのようなドリブルだった。体育館にいた多くの生徒は、驚愕していた。
喜早先輩は、浮かしたボールを動いてとり、ゴールへと近づいていく。
私が抜かれたこともあり、七海が喜早先輩にマークをつけた。七海は、丁寧に喜早先輩のシュートコースを防ぐ。斜め左右に手を伸ばす。喜早先輩は、シュートを打てず止まっていた。その間、私は、早川先輩をガードしに行く。すると、すかさずシュートをはなつ‥‥
と見せかけ、斜め前にい館原にパスを出したのだった。ボールをもらった館原がそのままレイアップシュートを決めた。体育館は、さらに盛り上がっていた。開始3分で2本のシュートが決まる。
再び私たちのボールでスタートする。七海からパスを受けた私は、相手ゴールへと攻めていく。喜早先輩が、私の前へ来る。先ほどと同じ状況だ。七海も颯希もマークがついている。
ドリブルをしながら考える。颯希がいる場所よりも少し奥にパスを出せばとれる。そう考えた私は、ドリブルをしていたボールを持ち上げた。
しかし、その瞬間、喜早先輩がそのボールをカットした。
ボールは、喜早先輩から、早川先輩へとわたる。攻めていた私たちは、急に守りへと変わる。攻守の切り替えについていけない七海は、明らかに疲れていた。
早川先輩は、そのままレイアップシュートを決めた。
開始5分で6対0になった。喜早先輩の力をまざまざと見せつけられた。
喜早先輩とは、中学生の市の大会で初めて出会った。喜早先輩がいた八代西中学校には、大差で勝利することができた。しかし、個人のパフォーマンスで言えば、県内一だった。試合終わりに、喜早先輩に直接声をかけて、どこの高校に行くのか聞いたのだった。私は、海美高校に行く予定だったが、喜早先輩が聖徳高校に行くことを聞いて、志望校を変更したのだった。
そして、4月に行われた春の大会では、県大会優勝するのとがでした。喜早先輩と私は、それぞれベストファイブに選ばれた。
春の大会では、喜早先輩にパスを出すのが私の役割。攻撃の聖徳高校の攻撃方法としては、私がボールを持って前に攻める。その隙に、喜早先輩が指示を出す。その指示通りにボールをパスして、シューターの選択肢を出すというものだった。
喜早先輩のことを思い出していると、「勝ちたい」と心から思うのだった。