7月1日 BIG3
「BIG3」。いつしか、私はそう呼ばれるようになっていた。「BIG3」とは、聖徳高校3年女子の人気者のことを指すらしい。
今日は、7月初めての登校日。いつものように、鏡前で前髪をセットする。今日は、いつになく前髪がきまらない。「めんどくさいから、このままで学校に行きたい」。でも、みんなが褒めてくれるから、このままではダメだ。
そんなことを考えていると、颯希からLINEがきた。颯希とは、矢田颯希のこと。BIG3と呼ばれる中の一人。三年三組の生徒だ。部活は、テニス部に所属。学校の成績は優秀で、可愛らしい顔をしており、他校に彼氏がいるそうだ。いつも明るく、みんなから慕われるリーダーだ。
BIGのもう一人は、篠木七海。三年四組の生徒であり、生徒会の書記係を務めている。成績優秀でスタイルもいい。一年生の頃か一つ上の先輩と付き合っていた。性格は、颯希と正反対で冷静に物事を考え、理論的に場をまとめるリーダーだ。
私とこの二人がBIG3と言われているのだ。二人とは、高校二年生の時に同じクラスになり、仲良くなった。当時、全学年クラス対抗のバスケットボール大会で、初めて喋ったのを覚えている。二人と初めて話したのは、二年生の7月頃に行われたメンバー決めのことだった。
ー1年前ー
先生「じゃあ、バスケットボール大会のメンバー決めるよ。男子三人、女子三人の混合チームです。男子は、長居。女子は室屋。今から、話し合ってそれぞれ決めて」
室屋「じゃあ、女子は窓側に集まってください」
やる気がなさそうに女子がだらだらと窓際の席に集まる。クラス委員長の室屋が声をかけた。
室屋「まずは、立候補したい人いますか?」
矢田「私やりまーす」
いきなり、矢田が手を挙げた。
室屋「矢田さん、やる?」
矢田「やるやる。楽しそうやし。バスケ未経験やけど大丈夫かな?笑」
室屋「大丈夫でしょ」
苦笑いしながら、室屋が答えていた。
室屋「他にやりたい人いる?」
誰も立候補をしない。周りを見渡す生徒ばかりだ。誰も立候補しない現状にしびれをきらし、高田が声を発した。
室屋「バスケ部の高田さん、やってくれない?」
急に当てられたて、ビックリした。
高田「えっ‥‥‥」
室屋「ダメかな?」
室屋の早く終わらないかなと思わせる表情に困惑した。
高田「うーん」
矢田「やってよ、真波。私に教えてー」
高田「うーん‥‥。わかったよ。」
部活動でもバスケしてるのに、なぜ球技大会までバスケをしないといけないのか。こうした私の感情とは対照的に矢田は嬉しそうな表情をしていた。
室屋「ありがとう、助かるわ。じゃあ、あと一人」
矢田「誰かやろうよー」
寺崎「私ら、バスケットボール大会の当日、総体の予選やからなー。なかったらやっててんけどな」
室屋「そっか。もう、総体の時期か。じゃあ、結夏と咲良は自動的に無理やな」
矢田「篠木さん、やってくれへん?」
篠木は、不機嫌そうに外を見つめていた。
篠木「はぁ?私?無理、無理。バスケとかやったことないし」
美しいルックスとは異なり、厳しい言葉が飛び交った。
矢田「篠木さん、運動神経いいしできるよ」
天真爛漫な矢田は、篠木に何度も声をかけていた。
篠木「嫌や。バスケとかルールも知らんし」
矢田「私も知らんよ。全然。」
篠木「私は、無理かな」
矢田「やろうよー。お願い、お願い」
篠木「嫌やって」
矢田「やろうよー」
話し合ってから15分が経ち、先生が全体に声をかけた。
先生「男子、女子決まったか?」
長居「男子は、決まりました。橋本、橘、藤平です。補欠に、僕と中村と大家が入ります」
先生「わかった。女子は?」
室屋「女子は、まだ決まってません」
先生「何人決まってないの?」
室屋「あと一人です」
矢田「篠木さんがやってくれないんですよー」
先生「篠木、やってくれないか?」
篠木「えっー。私、バスケ知らないですもん」
橘 「篠木さん、やろうぜ」
篠木「えぇ。嫌やって」
先生「篠木、頼むわ」
篠木「わかりましたよ」
先生「じゃあ、委員長は、メンバー表書いて、今日中に先生の所持ってきて。四時間目おしまいします」
ー現在ー
あの日をきっかけに、私たちは仲良くなった。しかし、仲良くなったことで、本当の私はどこかにいってしまった。
前髪を揃えて、髪の毛のセットが終了した。私は、カバンを持って家を出た。学校まで、自転車で15分ほどの距離。いつものように、耳にイヤホンをしながら、自転車をこいだ。
いつものように、自転車置き場に自転車を置き、鍵をかけて、三年二組のクラスに向かった。
二組には、颯希や七海はいない。周りからは、BIG3ともてはやされているが、クラスでは一人でいることが多い。周りも私のことを近寄りがたい存在だと思われているようだった。
そんな私に話しかけてくるのは、定本君や藤平君といった男の子が多かった。そんなことを考えていた時に、定本君が教室に入ってきた。定本君は、いつものように、私の二個前の席に座り、中沢君や土井君と話しをしていた。
私がBIG3となってしまったことで、中学時代に手に入れた居場所が無くなってしまったのだった。中学時代は、塾の自習室が私の居場所だった。
当時、私が通っていた塾にいた優衣、明日花、実咲、陽菜乃と五人で談笑していたのが本当に楽しかった。明日花が病気になった時も、実咲や陽菜乃と高校が離れた時でも、ずっと交流は続いていた。
しかし、私が高校二年生になり、部活が忙しくなって、颯希や七海と仲良くなった頃から交流が減ってしまった。いつしか私たちのグループLINEも途絶えてしまった。中学生の頃は、ずっと、五人の関係性が続くと思っていたのに、こんな簡単に終わってしまうなんて。
それでも、私は、明日花が心配だった。実咲、陽菜乃とは会うことがなくなってしまったが、数ヶ月に一回程度、明日花と連絡をとりあっていた。
しかし、二週間前にLIENを送ったがそこから返信が返ってこなかった。BIG3という愛称をもった私を明日花は、どう思っているのだろうか?私は、今日も窓から外の景色を眺めながら、そんなことを考えていた。
定本「高田さん、おはよう」
私 「あっ‥‥。おはよう」
定本「瀬戸から、連絡きた?」
私 「いや、きてないよ」
定本「そっか。たぶん、またくると思うから、見といて」
私 「わかった」
定本「なんか、今日元気ない?」
私 「そんなことないよ。それより、最近、明日花に会ったの?」
定本「GW以来、会ってないかな」
私 「そっかぁ。私も会いたくなったな」
定本「また、連絡してあげたら」
私 「うん」
定本君と明日花の話をしていた。
今日は、放課後に部活をして塾に行く。部活では、キャプテンをしていた。中学時代は、バスケ部に入っていたが、高校では入るか迷っていた。
そんな私がバスケ部に入ったのは、喜早先輩がいたからだった。部活体験の時に、喜早先輩が声をかけてくれたことがきっかけだった。今でも、一緒にご飯を食べに行くぐらい仲良くしてもらっているのだ。喜早先輩は、優しくてバスケがとても上手だった。そんなこともあり、バスケ部に入り、今ではキャプテンをしている。
現在の私のポジションは、ポイントガードというポジションだ。コート全体を見渡し、指示を出すことが多い。前キャプテンの喜早先輩もこのポジションだった。
レギュラーの5人は、全員三年生だった。センターの宮下、パワーフォワードの高津、スモールフォワードの大野、シューティングガードの大山。三年生7人、二年生4人、一年生5人の16人。
去年までは、県内でベスト4までいくぐらい強さがあったが、新チームになってからは、大会で勝ったことがない。勝てない理由は、シュートが決められる人がいないことだ。
今日も、いつものようにランニングとドリブル、パスの練習、シュート練習をして部活動の時間が終わった。
部活動が終わると、自転車で塾に向かう。高校からは、個別の塾に通っていた。英語と数学を教えてもらっていた。英語は、授業より前のことを学習している。塾が終わると再び自転車に乗って自宅に帰った。帰るとすぐに、自分の部屋に行って着替えた。
私の家は、三人家族。母も父も働いており、帰宅するのは七時を過ぎる。父は、私が帰る十分ほど前に帰ってきた様で、ご飯を食べていた。
私も、父の横でご飯を食べ、お風呂に入った。お風呂に入った後は、歯磨きをして、自分の部屋に戻った。
今日は、部活の後に塾があったため、疲れていた。部屋に入るとそのままベットに寝転んだ。
友だちがいないわけではないが、何か人と関わるのが上手くいかない。高校二年生の頃のような刺激的な毎日が久しぶりに思って目を閉じたのだった。