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第九話 ヨミヤの過去

 消えた店を後にした俺たちは高級武具店を抜け、ヨミヤの後ろを着いていく形で歩いていた。


「吸収とは一体どのようなスキルなのでしょうか……吸血鬼のように体力を吸い取るとか?」


「う~ん、それだと悪魔属性の魔法って気がするしなぁ。パッシブだからわざわざ発動するってものでもなさそうだし」


「そうですねぇ。……ひとまず今日は色々ありましたし、私の家で一泊してまた明日ダンジョンへ向かってみましょう」


「え、お前家もってたの!?」


 とりあえずヨミヤの後を着いて歩いていた俺は、彼女が自分の家へと向かっていることに気づいた。



「はい、そこまで大層なものではありませんが、お寛ぎいただけるかと思います」


「そ、そうか。ヨミヤがいいならお邪魔させてもらうよ」


 (いいなぁ、俺も家欲しいなぁ)


 勇者なのに家も持っていない事を実感させられた俺は、黙って気持ちよさそうに夜道を進むヨミヤの方へと足を運んだ。




 街から外れ、森の中を数十分歩いただろうか。ようやく見晴らしのいい所までやってきたなと思ったその時、目の前の巨大な洋館が現れた。


「……え? この家なに?」


「何って……私のお家ですけど……」


(嘘でしょ!? こんなデカい家に一人で住んでんの!?)


 思わず心の中で叫んだのも無理はない。一人で住むには大きすぎる、城と呼ぶ人もいそうなくらいの建物だった。


「さ、どうぞお上がりください」


「あ、失礼します……」


 ここまでデカいと入るのにもマナーがありそうだが、特にそういった作法もしらないので玄関で一礼だけしておいた。中はヨミヤの生活環境に合わせたのか、明かりはロウソクがあるくらいでそこまで明るくはないようだ。



「オカエリナサイマセ、ヨミヤサマ」


 入るといきなり立体的な影がヨミヤにそう言った。


「こ、これは……?」


「私の眷属です。一人では寂しいので、影を操って人のようにしています。意思はないですよ」


 そう言ってる間も、影はボーっとした様子で全く動かない。意思がないというのは本当の様だ。



「そ、そうか。こんなに広いと気が休まらないことないか?」


「私は慣れてしまっているので、そこまで気にはならないですね……」


 そんな質問をされたのは初めてなのか、きょとんとした顔でそう答えた。




  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



「それではこちらの部屋をお使いください」


 ヨミヤは二階にある階段すぐ右横の部屋を開け、そう言った。


「おぉめっちゃ綺麗だ~!」


 布団は見るからにふかふかで、姿見に小さな机と椅子。タンスなど必要な物は全て揃っていた。



「お風呂は部屋を出て左に行くとありますからね、ご自由にお使いください。私は隣の部屋にいますので御用の際はなんなりと」


「あ、あぁなんだか悪いな」


「私がしたくてしていることですから」


 そうニコやかに笑うと彼女は扉を閉め、コツコツと足音を立てながら隣の部屋へと入る音がした。



「さて。吸収のスキルの事もあるけど、まずは風呂だよな!」


 これだけ広いと風呂もさぞ豪華なんだろう、と期待に胸を躍らせながら俺は風呂場へと向かった。

 


 風呂場の扉を開けた俺は予想通りと言えば失礼だろうか、それはとてつもなく豪華な風呂に感動した。湯船の真ん中には蛇のような石像の口からお湯が湧き出ており、十人は余裕で入れそうなほどの浴槽だった。


「銭湯かここは!?」


 風呂場に反響する声を楽しみながら、俺は体と頭を洗い湯船に浸かった。


 しばらく風呂を楽しんでいると、脱衣所からゴソゴソと音がし始めた。



「ヨミヤか?」


「あ、はい。お湯加減いかがでしょうか」


「すっごく気持ちいいよ。こんなに広い風呂に入ったのは初めてだ」


「それはよかったです」


 なんて気遣いのできる子なんだ、と感心していると風呂場のドアが開いた。



「よ、ヨミヤ!? な、何で入ってきてるんだ!?」


「せ、せっかくなのでご一緒にどうかなと……」


 俺はヨミヤの方を見てはいけないと思い、目をそらした。しかし入ってきた瞬間、タオルで隠されてはいたが彼女の白い肌に小さな胸を見てしまったのは仕方がないだろう。


「ま、まぁいいけど。俺はもうすぐ上がるぞ」


 なぜ俺も照れているのだろうか、普通こういう時は女性側が照れるものではないのだろうか。そんな風に思いながらヨミヤは髪と体を洗い、湯船へと浸かった。



「実は、この洋館へと人を招いたのは初めてだったんです」


 そう彼女は切り出した。


「今まで誰からも相手にされず、パーティも組んでもらえず一人で居ました。でもアマギさんを初めて見た時、優しそうな人だと思い仲良くなりたいと思いました。初めはまた断られるのが怖くて遠くから眺めているだけでしたが、アマギさんから声をかけて頂けて本当に嬉しかったんです」


 そう続けて言う彼女は嬉しそうな声色だった。


「そうか、大変だったんだな」


(だから俺が道を照らしている時、あの角から見ていたのか)


 そう納得する俺なのであった。





 ヨミヤよりも先に風呂を上がった俺は、髪を乾かし自室へと戻ってきた。


「さて、明日のダンジョンの事もあるし、早めに寝ておくか」



 そう呟いた俺は部屋の電気を消し、ベッドへと潜り込むのであった。


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