第八話 選ばれし者
「うわ〜なんだこれ」
「これも武具店なんでしょうか?」
見るからに安そうな、いい物は売っていませんというような見た目をしていた。扉は今にも外れそうだ。
「とりあえず入ってみるか」
ギギギと音を立て開く扉はお化け屋敷のようだった。
火のついたロウソクが数本ある店内を、ギシギシと音を立てながら進むと、奥から声が聞こえてきた。
「いらっしゃい。お前は選ばれた勇者かい?」
「選ばれた勇者……?」
言っている意味がわからず、思わず復唱してしまった。
「ここに指輪がある。お前が選ばれた勇者なら、これを付けることができるであろう」
そういうとローブを被った謎の人物が奥からゆっくりと姿を現し、豪華な装飾が施された箱を持ってきた。その中にはエメラルド色の大きな宝石が着いた指輪が入っていた。
「これを着けるとどうなるんですか?」
「さぁ、着けられた奴がいないからわからないねぇ」
「危険かもしれません、私がまずは試します」
「あ、ま、待て!」
俺が静止する前にヨミヤは指輪に触れようとした。すると指輪はバチィ! と衝撃波のようなものを出し、ヨミヤの腕を弾いた。
「な、なんですか!?」
「お前は選ばれた勇者ではないようだねぇ」
ヒッヒッヒッと不気味に笑う店主が、ローブの中からこちらを見ているのがわかった。
「次はお前が試してみるかい?」
そう俺に問いかけた。俺はヨミヤと店主が見守る中、指輪に触れようと手を伸ばした。
すると先程とは違い、指輪の方から俺の指にすっぽりと収まり、サイズが自動で調節された。
「わ、なんだこれ!?」
「おおぉ……! ついに選ばれし勇者が現れおったか……! ありがたやありがたや……」
手をスリスリと擦り合わせ、拝むように俺の方を向いている。
「大丈夫なんですか?」
「あぁ、体調に問題は無いが…」
するとヨミヤの紫色の指輪と、俺が今つけた緑色の指輪が輝き始めた。
同時にポケットからも緑色の光が輝きだし、俺は月光環のスキルを獲得した時を思い出した。
魔法用紙のスキル欄をみると、予想通りまた一つスキルが増えていた。
「吸収……?」
「これは一体……」
「古のユニークスキルだね。お前たちの相性はすこぶる良いそうだ」
俺とヨミヤがぽかんとしていると、店主が満足そうにそう言った。
「ありがとね。さ、今日はもう店じまいだ。出てった出てった」
言うや否や、俺たちの背中を押し店の外へと押し出されてしまった。
「ちょっと、もう少し詳しく教え――」
情報をもっと知りたかった俺は、店の方へと振り返ったがそこにもうボロ屋は無かった。そこには腐ったベニヤ板の残骸と、折れ曲がった釘が散らばっていた。