#8
〜帰り道・夕方〜
「ふー……たまには外に出て遊ぶのもよかったね」
「もう。誘ったときはあんなに嫌がってたくせに」
「いやいや、別に最初から嫌がってはないよ? 単に外に出るのをめんどくさがってただけ」
「それ、同じじゃないの?」
「全然違うってば。私がナギたちと出かけるのを嫌がるわけないでしょ?」
「そ、そう。ま、それならよかった……ヒナって、そういうとこあるよね」
「何か言った?」
「ヒナのそういうとこが好きって言った」
「別にそこまでは言ってなかったよ……」
「だから、一回目で聞こえてたなら聞き直さないでよ」
「じゃあ言い直さなくて良かったんじゃない?」
「──まあそれに、ひかりんのことは残念だったけど、でも代わりに面白いものも見れたから結果オーライ?」
「面白いものって、言い方……確かに意外だったけど。陸笹さん、上映中ずっとテンション高かったもんね」
「本当にホラー大好きなんだなあって、もう隣の席で顔見えてないのに伝わってきてたもん」
「でもあれだけ喜んでくれたら、誘った身としても嬉しいかな。チケットも無駄にならずに済んだし」
「映画の本編以上に面白かったよね。陸笹さん」
「だから言い方……面白かったのは同感だけど」
「機会があれば、また別のホラー映画も見に行きたいかも──陸笹さんを連れて」
「またあのテンションの上がりっぷりを見たいと……まあそれだけ仲良くなれたんなら、そっちも良かったってことで納得して良いのかな」
「うん。なんか今日話してみた感じだと、陸笹さんとは結構仲良くなれる気がするんだよ」
「確かに、喫茶店で二人が感想言い合ってたときとかすっごい盛り上がってたしね……そういう直感は大事にしたほうがいいのかも」
「──じゃあ家の前だし、あたしはここで。ヒナ、また明日の朝に呼びに行くから、ちゃんと起きててよ? 新学期初日に二人揃って遅刻とか嫌だからね?」
「──あ、ナギ。ちょっと待って」
「? どうしたの?」
「えっと……わりと、というかかなり大切な話」
「ん、何? 改まって。明日とかじゃダメなの?」
「ダメ。二人きりのときじゃないと──ほら、朝の返事というか……今しておこうと思って」
「──そっか。確かにそれは二人のときがいいよね……」
「でしょ?」
「でも早かったね。まさか今日のうちに返事が聞けるとは思ってなかった。気持ちの整理は付いたの?」
「そこは大丈夫。適当に決めていいようなことじゃないと思うから……今日一日ナギと一緒に過ごして、私の気持ちとか諸々分かったと思うから」
「……分かった。聞くよ、ヒナの答え」
「えっと、先に結論から……ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、やっぱり私はナギとは付き合えない」
「────」
「本当にごめん。ナギが優しいことも、私のこといっぱい考えてくれてることも知ってるけど……どうしても私、ナギのことを『そういう目』では見れなくって」
「────」
「ずっと一緒に過ごしてきた大切な幼馴染で親友で、だからナギのことは大好きだけど……この『好き』は、ナギが私に思ってくれてる『好き』とは違うみたい」
「────」
「だから……ごめん」
「……ううん、気にしないで……そりゃそうだよね」
「ナギ……」
「いや、ヒナが謝る必要なんてないから。むしろ、ヒナがあたしのことでそんだけ考えてくれたことは嬉しいもん」
「……でも」
「だって普通に考えたら、『女の子同士で付き合えるわけないじゃん。何言ってんの?』って片付けられてもおかしくないんだもん。ヒナが真剣に受け止めて悩んでくれたって、それだけであたしは……」
「…………」
「──と、とにかく今日はもう帰るね! また明日!」
「……うん。バイバイ」
プロローグ1、これにて完結です。
次回からはプロローグ2が開幕します。
やっとタイトルを(半分だけ)回収しますよ。