#45B
今回、地の文なしのオール会話です。
もともとはこういう作品でしたね。懐かしい……
〜流礼の部屋〜
「──急用ですか。それはまた……何というか、不遇ですね」
「そうだね。ゆなんぐは、すえひーの誕生日会を誰よりも楽しみにしているみたいなところがあったから……その場にいられないことを、本人もさぞ悔しがっていることだろうな」
「けれど、多少の用事なら今際さんは後回しにしていたでしょうし……よっぽどのっぴきならない事情があったんでしょうね」
「確かに、色々と重大ではあったよ……本当に重大なのは、これからの方なんだろうけど」
「? 流礼さん、どうかしましたか?」
「あ、いや、何でもない何でもない……まあ、ナギがいないのは残念だけど、それでこの場が盛り下がっちゃうのは、ナギも望んでないと思うからさ。切り替えていこ、切り替えて」
「……そうですね」
「──すえひー、ちょっといいかな?」
「え、どうしたの?」
「少しばかり、ささっちと禎女ちゃんとの三人で話しておきたいことがあってね。すえひーにはあまり聞かれたくないので、すまないが話が終わるまで、ここで待っていてくれないか?」
「う、うん。別にそれはいいけど……」
「ありがとう──じゃあささっち、行こうか」
「え。あ、はい──久さん、もしかしなくても、そういうことなんですね?」
「そうだね。きっと、ささっちの想像通りの話だよ」
〜末雛家・リビング〜
「──なが姉を部屋に残して、二人だけで私のところに来たってことは……つまり、そういうことなんですか?」
「『さて、どういうことだろうね?』という軽口は、今は止めておこうか……とは言っても、禎女ちゃんがそんな台詞を口にしている時点で、僕達の直感は当たっていたということなんだろうけれどね」
「こうして私達が来ることも予想していた、って感じですか」
「まあそうですね。最初からそうなる気はしてたんですけど……いや、それにしても、うーん……なが姉、誤魔化すの失敗したんですね」
「──ということは、やっぱりあれは嘘なんですね? 今際さんに急用ができて帰ってしまったというのは。しかもそれが、禎女さんの入れ知恵だったと」
「入れ知恵っていうか、言い出したのはなが姉ですけど。私は単純に、今のなが姉には余計なことを考えさせない方がいいだろうと思って肯定しただけです」
「だがその結果、僕達に嘘だと見抜かれているけれど? 普段ならともかく、精神的に余裕がないときのすえひーが誤魔化し下手なのは、禎女ちゃんも知っているだろうに」
「何かあるとすぐに気付きましたが、とはいえ本人を問い詰めるのも憚られて、禎女ちゃんのもとを訪れたのですが」
「どうせ、そう長く隠し切れるわけもありませんしね……それに二人と、あとひか姉様になら、『何かある』ということまで隠す必要もないと思いますし」
「『何があった』までは話せなくとも、『何かあった』ことは伝わってもいい……ということですか」
「まあ、その評価は信頼として受け取っておこうか。確かに実際のところ、僕達も別に余計な詮索をするつもりは毛頭ない。おそらくだけれど、本人達の問題なんだろう? だったらなるだけ、部外者が介入すべきではない」
「とは言っても、この一つだけは訊いておきたいんです──何か、あったんですか? ……流礼さんは嘘なんて付いていなくて、今際さんは本当に急用が入っただけで、全てが私達の思い過ごしだったのなら、それはそっちの方がいいに決まってるんですから」
「そうですね……お察しの通り、何かあったみたいです。もっとも、これ以上は何も話せませんけれど。これについては隠しているわけじゃなくって、私も詳しく知らないので」
「──いいや、それだけ分かれば充分だよ。さっきも言ったように、これは二人の問題だ」
「ですね。私達にできるのは、そしてするべきなのは、何も気付いていない振りをして今日を過ごすことくらいでしょうし」
「──ところで、私達が部屋を出ていったことについて、流礼さんはどう思っているんでしょう? 私達が何かに……何かがあることに勘付いたと思われているんでしょうか?」
「どうでしょうね……普段なら間違いなく気付かれますけど、今のなが姉だと微妙かもです」
「まあそこは『誕生日会のサプライズの最終確認をしていた』とでも言い訳しておけばいいだろう……」