#4
「──だってあたし、ヒナのこと好きだし」
「……ひかりんのことは好きじゃないの?」
「今あたしが振り絞った勇気を返せ」
「んー? 何。つまり、ライクじゃなくてラブとか?」
「そうだよ。夕凪今際は、末雛流礼のことが恋愛対象として好きだって言ってるの。恥ずかしいんだから一発で察してよ。ヒナのバカ」
「これは私が悪いのかな……」
「でも分かってるだろうけど、女の子同士だよ?」
「それはそうだけど、でもそんなの関係ないもん」
「えっと……ごめん。まだ状況がよく飲み込めてない」
「まああたしも突然言っちゃったわけだし、無理もないかもだけど……でもあんまり時間かけないで? この時間が一番恥ずかしいから」
「じゃあ善処はしてみるけど……そもそもナギって、女の子が好きだったの? 私、全然知らなかったんだけど」
「いや、そんなつもりは無かったから、最初は自分でもそこそこ驚いたんよ……でも、気付いたら好きになっちゃってたんだから仕方ないじゃん」
「恋ってそういうもん?」
「そんなもんだよ、恋なんて──気付いたら好きになってたし、できるならずっと近くにいたいって思うし……あと、ついエッチなことだって考えちゃう」
「エッチなことって、ナギ……」
「いや、仕方ないじゃん。考えちゃうんだから」
「だからってそんな堂々と……」
「だって、ヒナとエッチなことがしたいって気持ちも、あたしがヒナのことが好きな証拠だから。隠したくないし、自分の気持ちに嘘も吐きたくない」
「えっと……エッチなことって、例えば?」
「え……それをここで言うのは、流石にちょっと」
「そこは普通の反応なんだ」
「──あ、でもさっきも言ったみたいに、あたしがエッチなこと考えちゃう相手はヒナだけだから。そこだけは誤解してほしくない」
「……いや、どう考えてもその補足はいらない」
「ん、別に変な意味じゃないよ? 単にあたしが恋には一途だってことを言いたかったというか……」
「それならそれで、他に言いようはあったはずだよ……ナギが素直で不器用だってことは、これ以上なくひしひしと伝わってくるけど」
「……と、取り敢えずこのまま話すのもアレだし、部屋入りなよ。私も着替え終わったし、鍵も開けたから」
「そうだね。じゃあ……あ、いや、やっぱやめとく。このまま、扉越しのままで話したいかも」
「いや、でも……」
「声だけだとあんまり分かんないかもだけど、実はあたし、今すっごく顔赤いから。恥ずかしすぎてヒナの顔、まともに見れそうにない……」
「そ、そう。じゃあこのままで……」
(いやこれ、ナギの声、下の階にいる禎女に聞こえちゃってるんじゃ……)
「えっと……いつから私のこと、その……好きだったの?」
「んーとね──具体的にいつって感じじゃないかな。好きになった理由とかもよく分かんないし」
「そんなものなの?」
「そんなもんだよ? 大事なのは好きになった理由じゃなくって、好きになったって事実だもん」
「……そっか」
「納得できた?」
「まあ多少は。私自身誰かに恋したことがないから確かなことは言えないけど……でも実際そんなもんなのかなって感じ」
「なら良かった──で、どう? ヒナ、あたしの恋人になってくれる気はある?」
「……恋人?」
「そう、恋人」
「えっと、ちょっと待って……んー……」
「……やっぱり、相手が女の子なのは嫌?」
「あ、いや、嫌とかじゃないけど……何ていうか……」
「じゃあさ。ヒナは、女の子が女の子を好きになるの、変だと思う? あたしがヒナを好きなの、変だと思う?」
「別に変だとは思ってないよ。きっと人それぞれなんだと思うし、それこそナギが言ったみたいに、好きになっちゃったものは仕方ないんだろうし」
「そっか。その言葉が聞けただけでも嬉しいかも……でもじゃあ、相手があたしなのが嫌なの?」
「そ、そういうことでもないってば。というか、嫌だなんてどこも思ってないし……ただちょっと、まだ気持ちの整理がつかなくて」
「あ……ごめん。そりゃそうだよね。急に好きだ付き合ってくれって言われても、普通に困っちゃうよね」
「うん……」
「ごめんごめん。何かあたし、つい焦っちゃってたみたい──だったら、別に今すぐ答えを求めたりしないから。ゆっくり考えてみてよ」
「う、うん……私の方こそ、ごめん」
「ヒナが謝ることじゃないってば──さ、もう着替え終わってるんだよね? 禎女ちゃんに怒られる前に、早く降りてあげようよ」