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二度目の世界と紅月  作者: 華月紅陽
プロローグ1【8/24】
3/312

#3

〜流礼の部屋〜


「ヒナの部屋に入るの、久し振りだね」

「そうだっけ? ……あ、そうかも。確かに最近、私がナギの部屋に行くのばっかりだったから」

「でしょ? ま、少し来なかったくらいじゃ、部屋の様子も変わり映えしないけど」

「そりゃあね。強いて言えば、枕が変わったくらい」


「枕?」

「そ、枕。先週の誕生日に、禎女が買ってくれんだよね──ほらこれ」

「……ん、前のよりふかふかしてる? 実はちょっとお高めのやつだったりして」

「だったりしてじゃなくて、実際そうみたいだよ? もう既に私はこの枕なしじゃ眠れない身体に……」

「ふうん。じゃあ明日からの新学期は、授業中に寝たりしないんだ? ノート見せてってあたしに泣きついてくることもないんだ?」

「いや、持って行って寝るよ。ノートもよろしく」

「持って来るな。学校に枕を」



「──っていうか、手触りはこんなに違うのに、見た目は一緒なの? 違いが分かんないんだけど」

「ああ、カバーは変えてないからね。脱がせてみ?」


「こう?」

「なぜ私のパジャマを脱がせようとする」

「『脱がせてみ?』って言われたから」

「枕カバーをだってば」

「流礼カバー?」

「お医者さんに耳を診てもらいなさい。そして、私の服のことを流礼カバーって言うな」

「ぶー。ちょっとした冗談じゃんか」

「私と芸風が被ってるから、二度とやらないで」


「理不尽だ──よっと……あらら」

「カバー変えなかった理由、分かった?」

「分かっちゃったね。まあ、禎女ちゃんが選んだ枕って時点で察しても良かったかもだけど」

「こんなの、どこで買ってきたんだろうね? まあ気持ちは嬉しいから、ありがたく使うんだけど」


「……これが本当の『安眠まくら』?」

「さすがナギ。パッケージにもそう書いてたよ。ただまあ、直接でかでかと『安眠』って書いてある枕ですやぴできる人間なんて、そうそういないだろうけど」

「ジョークグッズの類だったりして」

「だと思う……けど、禎女の感性には刺さっちゃったみたいなんだよね。二つ買って、私とお揃にしてた」

「お姉ちゃんは無地の枕カバー使っちゃってるけど」

「そりゃ使うってば」


「ちなみに、禎女ちゃんの枕カバーは?」

「その枕の付属品に、同じように『安眠』って書かれたカバーがあったから、それ」

「……」

「今の枕に変わってから、毎日楽しい夢ばっかり見れるんだってさ。ちょっとしたホラーだよね」

「……それは、確かにそうかも」



「──ところでヒナ、いつまでパジャマ着てるつもり? 着替えないの?」

「え? 着替えるけど……禎女が朝ごはん作ってくれてるから、着替えて食べに行くけど」

「じゃあ早く脱ぎなよ」


「いや……部屋から出ていったりはしないの?」

「出る必要ある? 女同士で幼馴染だよ?」

「それはそうかもだけど……何かほら、さ? 親しき仲にも礼儀あり的な?」

「……つまり、あたしも脱げと?」

「そんなことは言ってない」

「じゃあ、あたしが脱いだらヒナも脱いで?」

「なんでそうなるの? 出てってよ」


「けち。減るもんじゃないんだから、ちょっとくらい見せてくれたって良いじゃん」

「勘だけど、見せるだけで済まない気がしたから」

「こんなときだけ勘がいい……分かった。出てく」


 バタン。

 ガチャ。


「……いやいや、鍵まで掛けなくてもよくない?」

「ナギ、鍵掛けなかったら覗いてたでしょ?」

「そりゃ覗いてたけど」

「じゃあ掛けて正解だった。扉を閉めててもお互いの声は聞こえるんだから、それで良いでしょ」


「…………」

「静かになった……これはこれで不安なんだけど」

「…………」

「ねえナギ。衣擦れの音とか聞こえてたりする?」

「……………………聞こえてないよ。だからそのままどうぞ」

「すごく間があったけど、本当?」

「…………」

「(嘘のときの反応だコレ……いやまあ、別に私もそこまで潔癖じゃないし、音くらいは良いけどさ)」

「…………」

「……さっきナギも言ってたけど、私達って女同士で幼馴染じゃん? そんな相手の着替えとか見たい?」

「見たい」

「うわ。久し振りに喋ったと思ったら、めちゃくちゃ強く断言されちゃった……」


「だって見たいんだもん」

「ナギのエッチ──じゃあ、ひかりんのも見たいの?」

「? 何でここでひかりん?」

「だって、ひかりんも女同士で幼馴染じゃん」

「ああ……いや、それはそうだけど。うーん、微妙」


「見たくないってこと?」

「見たくないとまでは言わないけど、是が非でも見たいって感じでもない。謂わば普通?」

「そうなんだ……そのわりに、私の着替えには随分とご執心みたいだけど?」


「そりゃそうだよ。ヒナは特別だもん」

「なんで?」

「──だってあたし、ヒナのこと好きだし」

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