#5
ようやく「今際ルート」感のある回になってるような?
今回はいつもの「これは小説じゃないな」形式ではなく、割と普通にモノローグです。
〜7/21夜・末雛流礼〜
ふと思うことがある──ナギは一体いつから私のことを好きだったんだろう、と。
「一度目」の世界での夏休み最終日、ナギは私に告白した。
恋愛的な意味で私のことが好きなのだと、その胸の内を正面から打ち明けられた。
当たり前だけど、そのときはメチャクチャ戸惑った──誰かから告白されるという経験自体が初めてなのに、その相手が幼馴染の女の子だなんて、戸惑わないわけがない。
けど、私なりにどうすべきか、どうやってナギの告白に向き合うべきかを色々と考えてみて……そして、断った。
ナギのことは好きだ。大好きだ。
だけどそれは「友達として」「幼馴染として」の想い──ナギのことを恋愛対象として見ることはできなかった。
ナギがその返事に対してどう思ったのかは、分からない。
真剣に受け止めて悩んでくれたってだけで──
あのとき、ナギは私に対してそう言いかけた。
それもきっとナギの本心だ──だけど言うまでもなく、そんなのはあくまでも真実の一側面でしかない。
ナギの告白は本気だった。
冗談なんかじゃなく、ナギは私のことが本気で好きなんだって──そのことは、ひしひしと伝わってきていた。
そんな本気の告白を断られて、傷付いてないわけがない。
真剣に受け止めて悩んでくれたってだけで、嬉しい。
そんな強がりを最後まで言い切れないくらいに、心では深く傷付いていたにちがいないのだ。
──だけど、それから世界の時間が戻った。
世界の時計は巻き戻り、「二度目」が訪れる。
ナギが私に告白するより前へと。
私がナギの告白を断るよりも前へと──巻き戻った。
「一度目」の世界でナギが私に告白したことを知っている人間は、私の知る限りでは私とナギと禎女だけ。
ナギも他の人に言ってまわったりしないだろうから、おそらくこの三人だけで全員だろう。
その中で、私だけがあの出来事を覚えている。
赤く染まったナギの顔も、涙を堪えたナギの顔も、そして耐えがたい胸の痛みも──全て覚えている。
禎女もナギも覚えていなくても、私だけは忘れていない。
──そう。ナギは覚えていないのだ。
だから私は「二度目」の世界では、できるだけ「ナギに告白されて振った」ことを意識しないように過ごしてきた。
或いは、ナギにそれを意識させないように過ごしてきた。
だってナギには、そんな記憶は存在しないのだから。
正直に言って、どうしたらいいのか私には分かんないよ?
自分が振った──なのにそれを覚えていない相手と、どんな顔をして接すれば良いのかなんて、分からない。
距離感が掴めない。最適解な行動が見付からない。
これで正解なのかどうかも、分かるわけない。
ひょっとすると、全部無駄でしかないのかもしれない。
例えば夏休みが始まった時点で既にナギが私に好意を抱いていたら、告白される未来はまた訪れるかもしれない。
そうなったとき、私が返す答えは変わるのだろうか?
……その問の答えは、私にもそのときが来るまで分からない。
──もしかしたら、と思う。
もう私の記憶の中にしかない「一度目」の夏休みでは、私はナギと二人で過ごすことが多かった。
ひかりんは受験生だし、朱雀ちゃんとは友達になってない。ネハに至っては知り合ってさえいない。禎女とはたまに遊んでたけど、私ができないぶんの家事もあるから忙しい。
それはきっと、何事も無ければ「二度目」の夏休みでも変わらなかったはずの光景だ。
──だから私は、みんなで遊びたいと言い出したのかも。
「せっかく友達が増えたんだから」というのも、勿論本心だ。
だけど──もしかしたら、と思ってしまう。
ナギと二人きりになってしまったときに、どう接して良いのかが分からなくなってしまいそうで。
電話越しならともかく──直接会って話すとき、どんな顔をしたら良いのか、分からなくなってしまいそうで。
そのために、朱雀ちゃんやネハのことを口実に使ったのかもしれない──だとしたら私、最低だ。