#3
〜通学路〜
禎女もナギも、「時間が巻き戻ってる」なんてことはつゆほども思っていないらしい。
というか二人に限らず世間の大多数にとって、今日は「一度目」らしかった。
まあみんながこの異変に気付いてたら、今頃すごいパニックになってるだろうし。
「なんと私達は同じ時間を繰り返しています」ってニュースが全チャンネルで報道されてもおかしくないレベルだ──その場合、報道されるまでもなくみんな知っちゃってるけど。
ならこれは、やっぱり私の勘違いなのだろうか?
禎女とナギに言われたように、私の中で夢と現実の境界線が揺らいでしまっているだけで。
もう少しすれば落ち着いて、「なんで私あんなこと言ってたんだろ?」ってなるような。
──常識的に考えたらそうなんだろう。
本当に時間が戻ったとか私が急に予知夢に目覚めたとかよりは、かなり現実味のある可能性だ。
けれど何だろう。言葉じゃうまく説明できないんだけど、妙に納得しにくいというか……。
なので私は考えた。
学校に行けば、何か分かるんじゃないかと。
大多数の人間にとっての今日が「一度目」なのは確実──だけど、これが「二度目」だって思ってる人が、私の他にもいたとしたら?
そんな人がドコにもいなかったら「言われた通り、やっぱりただの夢でした」でこの話はおしまい。
けれど、もしもそんな人がどこかにいて、そんな人と会うことができたら──それで何かが動くとは思えないにしても、取り敢えずこのモヤモヤは晴れる気がする。
つまり今は、とにかく多くの人と会うことが大事。
その点、学校って場所は丁度いいでしょ?
知らない人にいきなり「ねえねえ。あなたにとって今日って何度目?」なんて訊くのは、私のコミュ力のことを差っ引いても難しいだろうけど……。
知ってる人が相手でも難しそう。
「──あ、ひかりん発見。グッタイミング」
「え? あ、本当だ──おーい、ひかりーん!」
「……今際。それに流礼も。朝から元気だな」
「まあ、元気なのはナギの唯一のいいトコだからね」
「確かにそりゃそうだな。元気のない今際なんて、具とパンの無いハンバーガーくらい何も残らねえし」
「いや、本当に何も残ってないじゃん。せめて取り除くのは具かパンか片方にしてよ」
「何も残らないは言い過ぎ。ポテトが残る」
「セットにされがちなだけで、別にポテトはハンバーガーの一部とかじゃないから。別料金だから」
「けど実際、今際から元気が無くなったところで、全く何も残らねえわけじゃねえからなあ……」
「神妙な顔してるとこ悪いけど、それ当たり前だから」
「デカい胸だけは残るからな」
「おっぱいだけは残るよね」
「一つ残すとしても、絶対に他に何かあったでしょ……二人とも、なんでそんなとこで連携取れるの」
「はぁ……今際には分かんねえんだな。持たざる者の苦しみってやつが。なあ流礼?」
「だね、ひかりん──おっぱいの大きさなんてどうでもいい。自分のおっぱいを大きくしたいとも思わない。なのに大きなおっぱいを見たらムカつく。そんな複雑な乙女心が、ナギには分かんないんだよ」
「路上でおっぱい連呼しないで。どこが乙女なの──あとそれ、むしろ『彼女が欲しいとは思わないけど彼女持ちにはムカつく』って男子に近いから」
「あ、ごめん。流礼とも分かり合えねえみてえだ。私は自分の胸も大きくしてえから」
「な……ひかりん、本気?」
「対立の内容がどうでもよすぎる……」
「──ところでひかりん。一個訊いていい?」
「何だ? 少なくとも流礼よりは大きいぞ?」
「おっぱいの話はいい加減終わりなよ……」
「違う。器の大きさの話だ」
「見た目じゃ分かんないレベルの差で張り合ってる時点で、器が大きくはないと思う……」
「ねえ──ひかりんにとって、今日って何度目?」
「……は? えっと……すまん、どういう意味だ?」
「いや、いい……ひかりんもか」
「……ヒナ、まだそんなこと言ってたの? しかも、まさか今から会う人みんなに訊いてまわるつもり?」
「うん。私一人じゃムリだから、できればナギにも手伝ってほしいんだけど……ダメ?」
「いや、ダメとまでは言わないけどさ……でも、そんなことしても意味ないってば──全部ヒナの夢、ただの夢。それで納得しなよって言ったじゃん」
「……なあ。何度目とか夢とか、何の話なんだ?」
「それが、実はヒナが今朝から変なこと言い出して──ってことなんだけど」
「本当は既に夏休みが終わっている、か……まあ、確かに夢だとしか思えないな」
「そんなー……」
「二度目の世界と紅月 番外編」は諸事情あって削除しました。
内容的に問題が〜とかではなく、シンプルに作者都合です。