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二度目の世界と紅月  作者: 華月紅陽
プロローグ2【7/20】
10/312

#2

〜末雛家・リビング→玄関〜


 その後家の中をあれこれ見てまわったけれど、残念ながら結果は芳しくなかった。

 率直に言うと、目にした全てのものが「今日は八月二十五日ではなく七月二十日」ということを示していた。


 他の部屋やスマホのカレンダーは当然ながら、新聞やニュース番組が告げる日付も全て七月のそれ。


 両親が揃って出張に出たのは体感的にはもう一月前のことだけど、『今』となっては昨日の出来事らしい。

 母さんが作り置きしていった惣菜の数々が、メモとともに冷蔵庫にしっかりと残っていた──七月が終わった時点で全て食べ切っていたはずなのに。


 当然ながらというべきなのか、誕生日にもらったはずのあれこれも全てなくなっていた。

 八月中旬は、『今』からみれば未来だから。

 禎女から貰った枕も、ひかりんから貰ったペンダントも消えていた──ナギから貰ったお菓子の詰め合わせだけは、確かめようがないけれど。

 あの枕を学校に持って行って寝ようという目論見は、だから完全に頓挫してしまったわけである──って、そんなこと言ってる場合じゃない。


「──そろそろ納得できた? もう時間ないんだから、早く学校行く支度したほうがいいと思うんだけど」

「納得っていうか……」

「おおかた夏休みが終わる夢でも見て、現実とごっちゃにしてるってだけなんじゃない?」

「うーん。そんなはずないと思うんだけどなあ……」

「でも、それ以外に考えようがないじゃん。まさか、寝て起きたら同じ時間を繰り返してたんだ、なんて言い出さないよね?」

「まあ、そんなこと現実的に考えてありえないしね……でも夢にしては、妙に現実感? があったというか」

「ふうん──まあ確かに、気にはなるかもだけど」


 ピンポーン


「ヒナー! 迎えに来たよー!」

「……え、もうそんな時間? やばっ」

「あーもう、だから言ったじゃん。なが姉がもたもたしてるからだよ──私玄関開けてくるから、なが姉はさっさと着替えてごはん食べる!」

「りょ、了解」


 ガチャ


「あ、おはよう禎女ちゃん。ヒナは起きてる?」

「いま姉、おはよう。一応は起きてるよ──起きたばっかなせいか、ちょっと寝ぼけてるみたいだけど」

「寝ぼけてる? ひょっとして今日から夏休みだとか、日付まる一日勘違いしてた?」


「いやそれがね? むしろ逆なの。今日から新学期だと思ってたみたい」

「……何それ? まる一日どころか、まる一月も勘違いしちゃってたってこと?」

「そうみたい。起きてからずっと『とうとう昨日で夏休みが終わっちゃった』とか『今日は八月二十五日のはずなのにおかしい』とか言ってた」


「はー……夏休みが終わる夢でも見てたのかなあ?」

「私もそう思う。夢と現実の区別がつかなくなるって、高校生にもなって恥ずかしいけど」

「まあヒナだからねえ」


「──禎女、ごちそうさま! ごめんナギ、遅くなっちゃった!」

「おはよ、ヒナ。まあまあ、まだ遅刻するほどじゃないからセーフだよ──ところで禎女ちゃんに聞いたけど、変なこと言い出したんだって?」


「……ナギも、今日が七月だって思うの?」

「思うっていうか、実際にそうだし──うーん。これは思ってたより深刻そうかも?」

「そうなんだよね……正直なが姉が変なこと言い出すなんていつものことだけど、今日のはなんか違うよね」

「冗談で言ってる感じがしないっていうか……いやこの場合、本気で言ってるほうがタチが悪いのかもだけど」

「やっぱり、いま姉もそう思う?」


「──まあ何だかよく分かんないけど、でも普通に考えて時間が繰り返すとかありえないでしょ。だからヒナが覚えてるらしい夏休みの記憶は、全部ただの夢だよ」

「…………」

「どんな夢を見たのか知らないけど、さっさと忘れて現実に帰ってきてよね。ヒナ」

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