教室での騒動
未来が作った朝ごはんを食べ、支度をして玄関に行く。
靴を履き替えてドアを開けようとすると
「いってらしゃい。」
にこやかな顔でそう告げた未来に
「いってきます。」
そう返し自宅を後にした。
学校への登校中不意に友人の透が後ろから話しかけてきた。
「よぉ、天音」
「おはよう、透。」
そのまま世間話をしながら学校に着いた。
教室に行ってみるとなにやら騒がしい。それもそのはず教室内は何から何までびしょ濡れだった。
クラスメイトの会話を聞く限りスプリンクラーが起動したらしい。そうなると火災の原因が気になるが...。
そしてふと気づく、クラスメイトの視線がこちらに注がれていることに。
すると遅れて入ってきた透が素っ頓狂な声を上げた。
「おい!なんだよこれ!びしょ濡れじゃねーか!」
いや今は透にかまっている暇はない、何故皆僕を見ているんだ...。
「っておい透!お前の机焦げてんじゃん!」
「え...」
自席の方に目を向けてみるとそこには焦げてるとかいうレベルではないくらいの変わり果てた我が机の姿があった。
なるほど皆がこっちを向いていたのはこういう理由だったのか...とか思ってる場合ではない。
もちろん僕に心当たりはないとすると十中八九第三者の犯行だろう。
机にはかわいそうだが少しだけ気分が高揚するこういったハプニングは何だか心が躍ってしまうくちだ。
「おいおい!一体誰がこんな事やったんだよ!」
透の怒りを声が教室に響き渡る。友である僕の席が燃やされている事に怒ってくれているのだろう。
透...お前なんて良いや...
「私よ。」
思考を遮って飛び込んできた凛とした声。この状況にもかかわらず全く狼狽えた様子のない声に皆の視線が向く。
つまり僕の後ろ...。
毅然とした態度で立っていた倉火灯の姿があった。
「この度はお騒がせして誠に申し訳ないわ。」
壇上の前で綺麗すぎる所作で行われた謝罪に皆啞然とするしかないだろう。
おそらくクラスメイトの胸中は行動の訳を欲しているはずだ。
それを察知したかのように顔を上げた倉火灯は説明し始めた。
何やら放課後一人で残っていた時に能力が暴発してしまったらしい。
確かに能力の暴発は幼子にはよくあることだがランカーの彼女に今更そんなことが起きるだろうか?
「実は最近ネットストーカーに追われているの。」
彼女が言うにはそのストーカーから気持ち悪いメッセージや画像が“たまたま”放課後この教室にいた時に送られてきてそれを“たまたま”彼女がその時に開いた。
そのあまりの気持ち悪さに能力が暴発してしまったらしい。
確かに能力に対する見解として能力はある程度感情に結びついてるという学術的根拠はある。
しかしどうにもきな臭い...。
何だか付け焼刃で用意したかのような説明だ。
僕が訝しんでいると倉火灯がこちらに寄ってきていた。
「この度は本当に申し訳ないわ天音君。」
先程と同じような綺麗な所作で僕に頭を下げてきた。
しかもあまりに距離が近いものだから彼女サラサラとした金髪ツインテールの片方が僕の手に一瞬当たる。
これだけでドキッとしてしまう。やはり妹と他の女子は違うな...。
「良いよ良いよ。倉火さんも被害者みたいなもんだし気にしなくて。」
この場はとりあえず空気を読んで無難に返す。
「お心遣い痛み入るわ。」
この所作に言葉遣いいいところのお嬢様なんだろう。
「うん、全然気にしなくていいから本当に!」
身振り手振りで大げさにアピールする。
「そう。」
下げていた頭をすっと上げ踵を返して自身の席へと帰っていった。
いや切り替えはや...。
呆然としていると担任がパンパンと手をたたいて注目を集める。
三十間近で婚期がヤバいで評判の刷義江美絵先生だ。
彼女の担当は社会で授業中にも婚期で嘆いたりしている。
因みに能力者ではない。一般的な教科を教えている教師は非能力者であることが多い。理由は能力者で一般科目の教職につく人がいないからだ。
「はいはい~皆よく聞いてー、今回のことは倉火さんも被害者なので許してあげてね~。
あと時東君の机は直ぐに変えれるからそこも心配しないで。」
刷義江先生が僕を見て言ってきたので軽い返事をする。てか誰かに苗字で呼ばれんの久しぶりだな...。
「ということでもうすぐ一時限目始まるから用意忘れないでね~。」
そそくさと教室を出ていく先生、授業があるのだろう。
先生が出て行った方と反対の教室からガタイのいい先生が机と椅子を持って入ってくる。
「はい、これ君のね。」
「あっはい、ありがとうございます。」
それだけ言うとそのガタイ先生は焦げて真っ黒になった僕の元机と椅子を持って教室から出て行った。
(公欠になると思ったのに...。)
この学校の対応力を呪いながら一時限目の授業についた。
なんやかんやあって今日の学校は終了した。
今日の時の人である倉火さんは昼休みに質問攻めにあっていた。僕も誰かに聞かれるかなと内心ワクワクしていたのだが全員加害者である倉火さんの方へ行っていた。
まぁあまり友達がいない僕が悪いのだが。
(えーと、透は友達だよな...。後は..............。)
訂正しようあまりではなくかなりだった。
ていうか透今日は喋らないな。昼休み中も珍しく無言で食ってたしどうしたんだ?
「おい、透お前今日どうし...。」
「殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される」
「おい!どうした透!しっかりしろ!」
頭を抱え込み椅子に座って延々同じ言葉を繰り返している透をブンブンと揺らす。
「はっ!」
正常に戻ったのだろうか僕を呆けた顔で見た透は...。
「殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される」
「いやっ戻んな戻んな!」
そのやり取りを何回か繰り返していると...。
落ち着いてきたので会話を試みる。
「どうした....透。」
「俺はきっと倉火に殺されるんだっ。」
「どうして?」
慈愛に満ちたこえで聞く。
「だって俺....朝、誰がやったんだぁ!って怒鳴っただろ?」
「うんうん。」
「それがやったのは倉火だったんだぁ。俺はきっと消し炭にされて遺骨を海にばらまかれるんだぁ。」
「いや、まぁ...うん...。」
何故そういう答えになるのか見当つかないが...。しかしこれもまた透の一面なのだ。
透は被害妄想が激しいきらいがある。まだ友達になって日が浅いが何度かこういう場面を見てきた。
正直今回のはいつもより激しかったので僕の胸中はキモイで一杯だったが...。
突然透はすくっと立ち上がると
「俺母ちゃんに最後の電話してくる。」
そう言って鞄を持ってどこかに行ってしまった。
「ふぅー...行ったか...。」
正直こうなってくれてありがたい、今日は確認したいことが出来たからな。
妹である未来に遅くなる旨のメールを送る、すると直ぐに返事が来てスタンプで了承の意思を表す。
「さてと...行くかぁ。」
倉火灯が教室を出たのを見て席を立った。