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カノジョの父の過去に触れて。

和真、復帰(*‘ω‘ *)









 ――そうして、宗一郎さんはすべてを失った。


 いや、正確に言えば『手放した』という方が近いのかもしれない。

 自責の念に潰されかけていた彼を救ったのは、後輩社員の美浜さんだった。このはたちと過ごしていたら、もしかしたら最悪の事態に陥っていたかもしれない。そう思わされるほどに、彼は責任感に溢れていたのだ。


 そんな宗一郎さんのことを、責められるだろうか。

 少なくとも俺は、頭ごなしに非難することはできなかった。



「ははは。そんなに困った顔をしないでくれよ、和真くん」

「………………」



 黙ったままでうつむいていると、彼は俺にそう言う。

 そして、どこか思い出を懐かしむように続けた。



「懐かしいよ。このはが、友達ができた、って喜んでた日がね」

「そう、ですか……」

「あぁ、そうだよ。あの日のことは今でも憶えてるさ。引っ込み思案で周囲に馴染めなかったあの子が、息を切らしながら笑顔を浮かべたんだからね」



 宗一郎さんはそこで、ふと目を細める。

 しばしの間を置いてから彼は、やや沈んだ声でこう口にするのだった。



「だから、これはきっと――」



 諦めや、悲哀。

 そういったものを感じられるため息をついて。彼は、言った。





「僕に与えられた『罰』なんだろうね」――と。






 それを聞いて、俺はハッとした。

 思わず椅子をひっくり返しながら立ち上がり、宗一郎さんを睨む。

 分かった。分かったのだ。この人がどうして、彼女に会おうとしないのか、が。それは後悔や自責の念、そして娘であるこのはの気持ちを察してではない。


 彼が娘に会おうとしない理由。

 それは――。




「貴方は、いつまで『逃げる』んですか……!」

「え……?」




 ――『逃げている』からだ。


 端的に言ってしまえば、この人は恐れている。

 このはや、妻であったなごみさんから責められることを。

 今までの話ではまるで、自分の犯した罪に対する自罰的な行いであるかのような言い方をしていた。しかし、その本質はそうじゃない。

 このはは、宗一郎さんに会うことを望んでいた。

 それを知ってさえ、彼がそれを断るのは理屈が通らないのだ。



「は、ははは。和真くん、少し落ち着いて――」

「落ち着いてなんかいられるかよ! アンタは、誰のことも考えていない! 考えてるのはずっと、自分のことばかりじゃないか!!」

「なっ……!?」



 俺が声を荒らげると、宗一郎さんは驚いたように目を見開く。

 ここが病院だとか、そんなの今は関係ない。俺は、必死に訴え続けた。



「自己満足の『罰』で許された気になって、娘の気持ちなんて無視してる。アイツは――このはは、ただ純粋にアンタに会いたいだけなのに、どうして父親のアンタが逃げるんだ! どうして誰より怖くて悲しい思いをした彼女より、アンタが!!」



 口にすればするほど、感情が高ぶっていく。

 いっそのこと、胸倉を掴んでこの人が頷くまで訴えようとさえ思った。しかし、それより先に宗一郎さんは唇を噛みながら言う。



「キミに、僕のなにが……!」



 そして、彼もまた感情を爆発させようとした時だった。




「げほっ……! げほ、けほっ……!?」

「あ……」




 宗一郎さんはひどく苦しそうに、咳き込み始めたのである。



「宗一郎さん……!?」



 すると、一連の騒ぎを聞きつけたであろう女性が血相を変えて飛び込んできた。整った顔立ちをした女性だ。もしかしたら、この人が……?



「あ、あぁ……。大丈夫だ、佳奈多」

「深呼吸してください。ほら、ゆっくり……!」



 女性――佳奈多さんは、宗一郎さんを必死に介抱する。

 俺はそれを見て、さらにもどかしい気持ちになった。



「あの……」

「……え?」



 そんなこちらを察したのだろう。

 彼の背をさすりながら、佳奈多さんは俺にこう言った。





「あとで、少しだけお時間ありますか?」――と。





 彼女のその目は、なにか覚悟を決めたもの。

 俺には、そのように思われたのだった。




 


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