6話
誰が国王だとか、どこの国の土地だとか、正直な話農民でもなかった俺には関係のない話でしかないと思っていた。国が乱れるといって割を食うのは税の上がる農民だが、むしろ戦乱が起これば本業である傭兵の仕事にありつけるとげらげら笑う団長を見て俺も笑う。
山賊なんて言われて久しいが、傭兵団なんて戦争が無ければそんなもんだ。商人やら農民からの副業の実入りが減る代わりに国からたんまりせしめれる。連中からすれば下手に力を付けた厄介者扱いだろうが、数度騎士どもを返り討ちにしてやれば干渉もない。
沈み掛けの国なだけあって永らえるために財産は惜しまないという団長の予想は大当たりし、前金だけでも一月は遊んで暮らせるほどにふんだくることに成功する。無論命がけの戦場になるだろうが、敗色濃厚になればこそこそと逃げ出すつもりであった。
そんなこんなで雇われた戦場で適当に打ち合って混戦に持ち込んで、駄目そうなら上手い事逃げ延びる算段まで整えた。幸い前金だけでも十分に儲かったし、この国がどうなろうと変わらず傭兵稼業に精を出せばいいかなんて考えて。
そこで化け物を見た。死神と言ってもいいかも知れない。良くて防戦悪けりゃ潰走まで確実だったはずの戦場が、俺たちの配置された二陣がまともに参戦する事も無く端から蹴散らしていく。必死なのは向こう側だけで、こっちは手を止めて棒立ちしてても生きていられる。
祝勝なんて言いながら報奨金でどんちゃん騒ぎする仲間たちと、浴びるように酒を飲み、食らい、それでも恐怖を拭えずにぶらぶらと王都で遊び惚けていた俺であったが、今朝大々的に行われた女王サマの演説を聞いて頭が真っ白になった。
今回の戦勝の理由である功労者の騎士への取り立て。何も知らなければ話半分にも聞かないおとぎ話のような戦果をあげた傭兵を登用するという事が、実際に見たが故にそれがどういう事なのかはっきりとわかる。
これから先、この国を相手に戦争を仕掛けて勝てる国など存在しないだろう。アレが出てきた時点でもう全部おしまい、どれだけ殺せば停まるかもわからないし、同じ生き物だなんて冗談を信じる気にもなりはしなかった。
それよりも問題なのは、これから先この国で副業をしていれば、いつかアレが来るかもしれないという事だ。いや、きっとそれは確実な未来だろう。過去何度も煮え湯を飲まされた賊の征伐なんて手柄としてはぴったりなのだから。
直接見た事のない国民も、そうやって手柄を上げ続ければ奴がどんな地位に就こうが歓迎するに違いなく、このままいけばその礎として地面の染みの仲間入り。そんなことは誰が考えても分かることだった。
他の国に逃げたところで、いつか戦場で敵対するかもしれない、そう考えたらもう駄目だった。逃げたところで助からないなら、味方になれば助かる。その思考でいっぱいになる。
気がつけば、士官を求める声の先へと駆けつけていたのであった。