5話
「それにしても、私てっきり山のような大男だと思っていたのだけれど」
「ははは、ご期待に沿えず申し訳ない」
どんな話を聞いていたのかはわからないが、こちらとて自分が女性だなんてさっき初めて知った所なのだ。大目に見てほしいと思う。まあ普通戦場で大活躍するなんて筋肉もりもりマッチョのお仕事だと思うよね。可能かどうかは置いておくとして。
「いえそんな! 期待外れどころか、この国は貴女に救われたようなものだわ! 改めて、女王として感謝を」
壮絶に心の胃が軋む。自分の立場が分からないので、というか自分が何者なのかも定かでない以上中身基準の思考で考えれば、国のトップに頭を下げられるとか許容範囲をはるかにオーバーしている案件である。血やらなんやら吐くどころか全身からあらゆるものを垂れ流しにして死にそうなレベルで。
「いえ、雇われとして仕事を果たしたに過ぎません。頭など下げられても困ります」
言語化した上で困る程度で済ませる現在のマイボディ。頭が空っぽじゃないかと疑うも入っているのは自分なんだろうななんてくだらないことを逃避気味に思考する。夢ならば本気で目が覚めてほしい。胃潰瘍とかになってそうだけど。
それにしても、普通そういう事はもっとこう下っ端貴族とかがありがたがれよおらぁみたいな感じでふんぞり返りながら褒賞投げ渡し的じゃないのかなと考えて、考えてみれば王城から歩いて半日程度の平原で戦争やってる末期だった事に気が付く。
……国が救われたとか国家元首がわざわざ頭を下げるほど追い詰められた状況で? 今ここに大臣やらなんやらの大した取り巻きがいないのはそうせざるを得ないほど人材が不足しているから? そもあの戦場の装備などを考えるに正規兵で数も揃えられない?
ぼくしってる、こういうのをつんでるっていうんでしょ? いや、まだ推定される敵対国家とかがわからないから一概には言えないし、主戦力は別にいたとしてもおかしくは……それはそれで別の問題だよなぁ。どっちにせよダメじゃん。
などと考えても冷や汗一つ流さずに頭をあげるように手で促すマイボディ。昨日のことを考えるに最悪単身逃走を図ればなんとかなりそうというか、そもそも傭兵とか言われてたしお給料を貰って即オタッシャデー! しても許されるのでは?
「そもそもこのような体躯に性別ですから、士官先も見つからずの根無し草。褒賞を増やしてくだされば十分ですよ」
お金だけ下さいよと言外に含ませて下種アピールを敢行しようとするも、口から流れた言葉の内容に危機感を覚える。おい、そんな言い方をしたらまるで士官先を探してるみたいじゃないか。訂正、訂正するんだいますぐにぃ!
「それなら是非、我が国の騎士になってくださいませんか!」
ほらもぉぉぉ! 墓穴掘ったぁぁぁ! 金髪美女女王様に上目遣いでされる頼み事とかさぁぁぁ! ほんともうさぁぁぁ!