表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

1話

 気が付けば、なんて始まりは三文小説にありがちな導入だが、実際体験してみれば本当にその通り、それ以外の言い方が思いつかないほどに、気が付けば私は見た事も無い光景に目を奪われていた。


 現実で人が人を打ち倒すなどとといえば身近な話ではなく、強いてあげればテレビ越しに格闘技の試合などが目に入る程度だった私にとって、盾や槍、斧に剣にと様々に武装して命を奪い合う集団を直接目視することになるとは想像したことも無く。


 周囲を見渡せば前方で打ち合う集団に比べても更に統制の取れない装備を纏った、しかし確実に武装した集団。後方には均一の装備を身にまとった、青を基調とする集団が控えている。よく見れば打ち合っている内のこちらから遠い側は黒と赤の装備が多い気がする。


 何が起きているのかわからずに思考が追い付かなくなるも、自身の手に感じる重さに見てみれば無骨な飾り気のない長剣、重装という程ではないものの金属製の鎧を身に纏っていた。普通であれば恐怖で震えそうなものだが、パニックの為か身動ぎ一つしない。


 ふと、前方の打ち合いに何かを感じ取る。無論戦場でのなんやかやといった知識は無く、強いて言えばゲームで培った知識程度しかない自分が何故そんなことを思ったのかはわからないが、気が付けば一人飛び出して突っ込んでいた。


「第二陣突撃ぃぃぃ!」


 果たして自分が飛び出したのがきっかけになったのか、あるいは後方で声を張り上げる偉そうな人も何かを感じ取ったのか。雄叫びの中でも良く響く声で突撃を命じられた集団の先陣を切って戦闘の中に侵入していく。


 無論剣など握るどころか本物を見た事すらないし、増して切った張ったなど出来るはずも無いと思っていたのだが、無意識、という言葉で片づけるには違和感の残る、そう、例えるなら格ゲーのオートパイロットのような動作で。


 最初の一振りで10人以上の人間が上半身と下半身を泣き別れさせることになった、なんのギャグかと思うほど簡単に吹き飛ぶ赤黒鎧。一拍の間をおいて風が吹き荒れる。ぎょっとしてこちらを見る視線を感じるが、むしろ自分自身が一番驚いている。


「怯むなァ! 突っ込めェ!」


 驚きの余り硬直していたのが良くなかったか、他の赤黒に比べても少しゴテゴテした大柄な重装に大斧を持った男が周囲を鼓舞しながら突っ込んでくる。唖然としていた雑兵も衝撃から立ち直り共に突っ込んできていた。


 突き出された槍、切り込む剣、振り下ろされる大斧。およそ一人の人間をハンバーグの材料にするに十分な攻撃は、しかし自分が何をどうするか考える事も無く勝手に逸らされ、払われ、そして首が刎ねられる。立ち昇る血飛沫。


 異常すぎる現状に感覚が麻痺しているのか、はたまた別の理由かは定かではないものの、殺人という行為に一切抵抗を覚えず、吐き気すら催さないのは実感が無いからか。スプラッタな光景ではあるものの目を瞑ることも無かった。


 そこでふと気が付く。もしかしてコレは夢なのではないだろうか。やれやれ、ゲームのやりすぎで現実と見紛うばかりの夢を見るとは。となればつまりストレスでも溜まっていたのだろうか。だとすれば発散することも大切だろう。


 それからはあっという間だった。スコアを稼ぐように転々と場所を変えながら、薙ぎ払い、吹き飛ばし、次々と数を減らしていく。こちらに向けて振るわれる攻撃は躱され、逸らされ、時には武器毎両断される。偉そうな少し豪華な甲冑を唐竹割にしたところで、周りの赤黒鎧が片端から逃走に移っていた。


 後追い殲滅というのも考えたが、這う這うの体で逃げだす背中を後ろから斬り付けるとかなんだか目覚めが悪いので、とりあえず敵将討ち取ったりといった風に剣を掲げて味方の方にアピールをしておく。しかし夢だからか一切疲れたり息切れしないなぁ。


 ストレス発散の割には中々目が覚めないなぁなどと思いながらも、そのまま佇むのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ