学園祭当日 11:00
組み立ては滞りなく終わって、強度テストもバッチリ終わらせ、学園祭当日。
我が2年C組の出し物「暗黒迷宮」はなかなかの賑わいを見せていた。
まぁ勿論、段ボール迷路という催しの特性上、どうしても回転率が悪くなってしまうのはあるが、それでも中で参加者が詰まってしまうこともあったほどだ。
「賑わってるねー、ちょっと難しくし過ぎたかな?」
「楽しんでもらえてるならいいんじゃない?」
私と茉莉は入り口で来場者の受付をしながら、顔を見合って微笑んだ。
最初はどうなることかと思ったが、こうして企画として成功しているのは嬉しいことだ。
「企画名の暗黒迷宮は、正直どうかと思わなくもないけど」
「う、うっさい!佐弓だって『いいじゃん、かっこいい』って言ってたじゃん!」
「えー言ったっけー?」
私の漏らした言葉に、茉莉ががーっと噛みついてきた。
そこから言ったの言わないのの水掛け論に発展していく。それを見てくすくすと笑いながら、シフト管理をしていた五百部さんが声をかけてきた。
「フフッ、根本さんも妹尾さんもそのくらいにして、時間なので交代していいですよ」
「あ、ありがとー五百部」
いつの間にか交代の時間になっていたようだ。私と茉莉は椅子を立って五百部さんたちに場所を譲る。
と、私はふと気になって五百部さんに声をかけた。
「ねぇ五百部さん、聞きたいんだけど……何であの時皆を呼んできたの?」
「えっ?一昨日の夜のことです?」
キョトンとする五百部さんに私は頷く。それを見た五百部さんは、大きく首を傾げた。
「んー、何でと言われても、鎧さんが動いてるのを目の当りにしたら、手伝ってもらおうとしませんか?」
「へ?何で?」
素っ頓狂な声が、私の口を突いて出た。
質問に質問で返す形になってしまったが、マナー違反とか何とか言ってられない。
五百部さんは指をピッと立てて、にこやかな笑顔で言葉を紡いでみせる。
「七不思議で伝わっている「となりの倉庫の鎧さん」の話、あれには続きがあるんですよ。
夜に校舎に残って悪いことをしている生徒、いわゆる不良学生さんは、その手に持った剣で一刀のもとにに斬り捨てられてしまう。
でも、悪いことをしていない、本当に困っている生徒には――」
――困りごとが解決するよう、手伝いをしてくれるんですよ。
そう言って、七不思議の真相を告げて、五百部さんはもう一度にっこり笑った。
学園祭が終わった後も、鎧さんは満月の夜になる度に動き出しているらしい。
コンクールを間近に控えた吹奏楽部から、大会を間近に控えた運動部から、手伝ってもらった話が満月の夜を過ぎる度に上がってきた。
しかし私には、あの日からずっと気になっていることがある。
話す人話す人、皆が皆「手伝ってもらった」という話ばかりで、「斬り捨てられた」なんて話がちっとも上がってこないのだ。
あの逸話は誰が広めたものなのだろう?
斬られながら生き残った被害者、被害者に同行していて逃げおおせた別の学生、それとも――?
その真実を確かめるために、満月の夜に居残ることを、鎧さんは果たして許してくれるのだろうか。
真実は……満月の夜の倉庫の中でしか、分からない。
~終~
となりの倉庫の鎧さん、これにて簡潔です。
読了くださり、ありがとうございました。
ホラーは未経験のジャンルだったので、ちゃんとホラーになっているか、怪談になっているか、我ながら確証が持てませんが、楽しんでもらえたなら幸いです。
他の連載中の作品もございますので、機会があればそちらもよろしくお願いします。
以上、越川陽登でした。