レベルアップ特典
『レベルアップおめでとうございます』
『レベルアップ特典をお選びください』
俺は今自分にそう告げた無機質な声に強く反応していた。誰かは知らないが今なんて言った?レベルアップ?特典?馬鹿げてる、そんなの
「そんなのまるでゲームじゃねぇか」
俺はそう吐き捨て、辺りを見渡した。
桐生の周りには、何もない白い空間が広がっており、一言で例えると{無}そのものであった。
「大体、特典を選べって言ったってどこにあんだよ。本当に何も無いぞ、ここ」
先程の声に対し、そう悪態をつく桐生だったが、桐生の声に応えるように再び無機質な声が聞こえてきた。
『ステータスと念じて頂ければ、お選びいただけます。』
その声に少し驚いた様子の桐生だが、今はその声に従うしかなく、声の言うように念じてみることにした。
「(ステータス)」
すると、桐生の目前にゲームでよく見るような、四角いステータスバーが表示された。
「おお、凄ぇ、本当にゲームみたいだな」
普段は少し大人びているが、桐生もまだ男子高校生であり、何よりかなりのゲーム好きである。このステータスバーにかなりの興味をそそられていた。
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桐生 信
職業:なし
LV:2
体力20
魔力0
筋力15
素早さ18
耐性15
特技:無し
魔法:無し
レベルアップ特典:なし
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そこに表示された桐生のステータスは決して高いものとは言えなかった。
「まぁ最初だしこんなもんだろ」
当の本人である桐生は全く気にしていないのだが。
(それより俺、なんでこんな事になってんだ?確かにあの時、死んだ筈なのに。この状況になった心当たりと言えば、死ぬ前に殺したゾンビぐらいしか...⁉︎)
と、ここまで考え、桐生はようやく一つの考えにたどり着いた。
(恐らくあの世界は、ただゾンビの溢れる世界に変わったんじゃなく、そこにプラスαとしてRPGのような要素も加わったんじゃないか?...ってなんだよそれ、まるで漫画とかアニメの話じゃねぇか)
そう自分の考えを笑う桐生だったが、そう考えると辻褄が合うのも事実だった。
(まてよ、それならここは、精神とかの世界の筈だ。現実で死んだ俺はどうなるんだ?ゲームだと死んでも生き返れるけど)
と考えているとまた無機質な声が桐生な応える
『貴方は正確にはまだ死んでいません、レベルアップの際に瀕死になってしまった為、一種の仮死状態にさせて頂いております。また、これ以上身体を食べられないよう、現実の肉体には結界を張っております。特典を選ばれ次第、戻って頂けます』
それを聞き、桐生は自分がまだ死んでいないことに内心驚きつつ、ホッと胸をなでおろした。
(良かった、まだ生きてるみたいだな。よし、それなら)
死んでいないと分かれば桐生のとる行動は一つ。
「さて!どんな特典があるんだ」
特典選びである。
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1時間後
「ふぅ、思ったより多かったな」
レベルアップ特典は非常に多くの特典の中から自分に必要だと思うものを3つ選ぶといったものである。
そして桐生が選んだ特典とは
取得経験値2倍
レベルアップ時の能力アップ2倍
鑑定眼
の三種である
それは、まさにゲーマーである桐生だからこそ真っ先に選ぶ特典とも言えた。
「経験値2倍と能力アップ2倍は普通に重宝しそうだな。最後にとった鑑定眼は、これから生きていくのに必須だろう」
鑑定眼とは、その名称通り、使用対象のありとあらゆる情報を知ることが出来るという特典であり、何が起こるか分からなくなってしまった元の世界ではまさに必須とも言える特典であった。
(まぁ魔法とか他にも気になるのは多かったが、これがベストだな)
桐生はそう考え、一呼吸置いてから虚空に向かって一言だけ話した。
「特典、選び終わったぞ」
するとまたもや無機質な声が応える。
『了解しました。それでは現実世界への転送を開始します。現実世界でもステータスチェックは行えます。お疲れ様でした』
その声を最後に桐生は、白い空間から完全に姿を消した。
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しばらくして、桐生は先程自分が意識を手放した教室で目を覚ました。
「おお、本当に帰ってこれたな」
まだ内心桐生は、あれは自分が死んでからの夢なのではないかとも考えていた。だが戻って来ることが出来たことで、あの白い空間での出来事は本当にあった出来事だったのだと改めて感じた。
「?それに、周りにいた筈のゾンビがいないな」
桐生の言うように、周りにいた筈のゾンビはもう居なくなっている。
「まあ、居ないなら好都合だ。まずはステータスの確認からしてみるか」
桐生はそう呟き、再び心の中で(ステータス)と念じた。
すると、白い空間と同様に桐生の目前にステータスバーが表示される。
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桐生 信
職業:なし
LV:2
体力20
魔力0
筋力15
素早さ18
耐性15
特技:無し
魔法:無し
レベルアップ特典:レベルアップ時能力2倍
取得経験値2倍 鑑定眼
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「おお!ちゃんとステータスも開けるし、反映もされてるな」
と、満足げに呟く桐生だったがふとステータスバーの左端に何かがあるのを発見した。
「ん?なんだこれ[ストア]?」
ストア、桐生がそう口にした瞬間、ステータスバーの画面がすぐに切り替わり、たちまちオンラインストアのような画面に移り変わった。
「な!?」
そこに表示されていたものに目を奪われる桐生。
そこには、多くの日常品や飲料が表示されており、中でも桐生の目を引いたもの
「武器?なんだこれ!刀とかあんじゃん」
それは、幾千幾多の武器の数々であった。
武器、それはゾンビが蔓延るようになったこの世界では、なくてはならない存在であり、武器の有無は自らの生死にも影響するものであると言える。
「でも、なんだこの数字」
桐生は、武器の下に表示されている数字を見て声をだす。
「この武器を買う為のポイント、もしくは金ってことか?」
普段RPGをやり込んでいる桐生は、すぐにその数字の意図に気がついた。
「だとすると、どこかに自分のポイントとかの表記が...ああ、あった、あった」
桐生が見つけたのは画面の左下に表示された
〈150ポイント〉
という数字だった。
「なるほど、俺が倒したゾンビは一体、つまりゾンビ一体で150ポイントが入る仕組みか」
数字を見つめながらそう漏らす桐生
「じゃあ150ポイントで手に入れられるのはどんなのがあるんだ?」
桐生はストアの商品を探し、150ポイントで手に入れることが出来る商品を見つけた。
「手に入るのは飲料水とか食料とかか。どっちも50ポイント使うみたいだな」
桐生はそう呟きながら画面に映る飲料、食料を眺めていた。オンラインストアは、飲料、食料ともに非常に多くの種類があり、実際のコンビニと比べても大差はない感じであった。
「とりあえず何か食おう。腹が減って仕方ない」
そう決めた桐生だが、場所にいささか問題があった。
「ただ、ここじゃ食えねぇな。血の匂いやらでむせ返って食えたもんじゃねぇよ。...屋上なら食えるかな」
そう考えた桐生は、来た道を引き返し、屋上へ続く階段へ向かうのだった。
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屋上に着いた桐生は、まず周りの安全を確認すると、ちょうど中心の位置に座り込み、ストア画面を開いた。
「よし、買ってみるか」
そう呟き、桐生はストア画面に表示されたお茶とコンビニに売ってあるようなツナマヨおにぎりに手で触れたみた。
すると、ポトッっという音と共に丁寧に袋に入れられたお茶とおにぎりが桐生の目の前に落ちて来た。
「おお、すげぇな。...なんか、どんどん現実離れしていくな」
この現象に内心少し引いている桐生だが、空腹には勝てず、すぐに食事を始めた。
既に日は落ちて来ている。桐生はあまり気づいていなかったが、実は長時間の間、気を失っていたのである。
食事を終えた桐生は、緊張の糸が切れたからなのか、突然強い睡魔に襲われた。
「やべぇ、めっちゃ眠いな。そういえば昨日ちゃんと寝てねぇや」
ちょっと寝るか、そう考え桐生は屋上のドアに鍵をかけ、少し休憩する事にした。
次に桐生が目覚めたのは次の日の朝だった。