第6話 アーク、答えに困る。
「あの!わたし、もっと魔法使ってみていいですか?」
チェルシーは自分が魔法を使い───しかも無詠唱で────敵を、ゴブリンを倒せた事が相当嬉しかったらしく頬を紅潮させて興奮したようにアークに尋ねる。
アークは勿論、と頷いた。
「ありがとうございますっ!ではいきますね!」
チェルシーはびしっと杖を構える。
その姿はさながら大魔道士。敵を倒せたという事実は彼女に自信を持たせたらしい。
雰囲気もガラリと変わっている。
素直なチェルシーだけに、成長と変化は凄まじい。
アークはチェルシーを見守る。
まだ前方にいるゴブリンは此方に気が付いておらずこれなら不意打ちが出来るだろう。
「えーいっ!」
チェルシーの掛け声が響く。
ゴブリンはやっと敵の存在を認知したらしく慌てて戦闘態勢に入る…………が。
その時にはもう遅し。
迫り来る紫電がその身を縛り付ける。
そして……突如として、暗くなり天から一筋の光がさす。
その正体は────雷。
天災といっても過言ではないそれに動けないゴブリンはなす術がない。
え、ちょっとやり過ぎじゃないの?と思いながら明らかにオーバーキルなダメージ量だろうその攻撃魔法をアークは見ていた。
(チェルシー……。なんか最強魔道士になっちゃったよ。S級魔法をばんばん撃ち続ける魔道士……確かに俺からみてもチェルシーの潜在能力は有り得ないほど高かった……けど、成長早すぎじゃない!?)
アークが呆然としている間に、ゴブリンたちは倒されたようだった。
無邪気な笑顔のチェルシーが「アークさぁぁんっ」と駆け寄ってくる。
「チェルシー、おつかれ」
言葉少なに労る。
チェルシーはあの天災レベルの攻撃魔法をぶっぱなした後だとは到底思えない優しげな表情で。
「ゴブリン、全員倒し終わりましたっ」
と言った。
どうやら、チェルシーの魔法は、チェルシーが決めたターゲット以外には影響を及ばさないものらしくて、それが分かったチェルシーは森全体に雷を落として、ここにいるゴブリンを殲滅したらしかった。
「お、おつかれ……」
アークはどちらかというと、高火力・広範囲なS級魔法に驚く事は無い。
(チェルシー……すっご。素直って凄い。皆、アドバイスしてもそこまで上手くいかないから、やっぱりここまで出来たのはチェルシーが素直だからなんだよな)
チェルシーは飲み込みが早い。
教えられた事を素直に自分の力にする。
だから、ここまでの急成長を遂げたのだろう。
そこは、すごいと感動しているし感心もしている。
それは本当だ。
けど!
(俺の求めている物じゃないいいいいい!!)
アークは心の中で絶叫した。
あくまで理想は持ちつ持たれつ、支え合いながらの戦闘だ。
(それが、どうして!?どうしてチェルシーが全部倒してんだ……。俺の出る幕ないじゃねぇか!というか、ゴブリン所か他の魔物も倒しちゃってるし!)
この森はゴブリンだけが生息している森じゃない。
他の魔物も住んでいる。
森だから、植物系の魔物を初めとして、A級モンスターのフォレストバードも棲んでいた筈だ。森の奥の奥の方だけれど。
アークは探知の魔法で、森にいる魔物の生命を探知してみるが、全く見当たらない。
0、0だ。
「はぁ……」
思わず、口から溜息が漏れる。
チェルシーはいずれ英雄になるくらいの魔道の使い手だと気が付いてはいたけれど、こんな早く覚醒すると思わなかった。
誤算、誤算だ。
アークとしては、「いつか、英雄クラスのチェルシーと一緒にドラゴン退治とか出来たらなぁ」とぼんやり考えていたのだ。
英雄クラス……或いは勇者クラスのドラゴン退治には憧れていた。
自分も参戦したかったけれど「王様の手を煩わせる為にはいきません!ここは私たちが!」と言われればすごすごと引き下がるほかなかった。
押しが弱いのもアークの弱点だ。
だから、少し────いや、めちゃくちゃ羨望していたのだ。
「俺も勇者や英雄クラスの人とドラゴン退治してみたい!」と。
出すぎた夢だと分かりつつも、叶えたかった。
チェルシーとは運命の出会いだと思っていたのだ。
(恋愛的な意味ではない)
「アークさん!ゴブリンの魔石、採取しましょ!」
魔石、それは魔物から出る力ある石のようなもの。価値の低いものはそのへんの石っころのように灰色や黒など暗い色だが、価値が高いものになると、宝石のように綺麗な物になる。
魔晶玉とは違い、魔道を込めたりその人の力を測ったり等の力はない。
ただ、元々魔物が持っていた魔力は篭っている為、護身道具になったりする。
ゴブリンの魔石など持っていても殆ど意味は無いが。
また、宝石のような綺麗な見た目なので装飾品にも使われたりする。
用途は沢山、需要もある。
「ありがとう、全部させてしまいすまない」
他にも色々話したいことはあるけれど、言葉になるのは必要最低限の会話だけ。
アークは自身を恨めしく思った。
「いえいえっそんな!大丈夫ですよ。アークさんのおかげで、わたし……魔道を使えるようになったんですし、全てアークさんのおかげです。本当に感謝してます!!」
チェルシーはぺこりと頭を下げる。
「……ってあれ?そういえば、なんでアークさん、わたしに無詠唱が使えるってわかったんですか……?」
アークは「ああ……じゃあ帰るか?」と声を掛けた。チェルシーもそれに頷き、さぁ帰ろうとした時。
チェルシーは足を止めて、考える素振りを見せる。そして────。
そんな質問を口にしたのだった。
(…………あ。不味くね?)
有耶無耶に出来たと思っていた問題をほじくり返されて、困ったのはアークだ。
アークは冷や汗を流しながら、必死で良い答えを練り出そうとする。
「……そ、それはな────」