第2話 アーク、早速失敗する。
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冒険者ギルドに入るなりアークは初めて見るギルドに好奇心に満ちた眼差しで辺りを見渡し始める。
何の変哲もない冒険者たちも、やる気なさげな受付嬢も、彼の目には全て輝いて映った。
「うわ〜。ここが冒険者ギルドか!すっげー!なんかよくわからんけどすっごー!」
あほっぽく凄い凄いと連呼しているアーク。
それだけ見るとド田舎の地味少年が都会に来てはしゃいでいる様だ。
これが正体をバラさない為の演技だとしたら凄まじいと言えよう。
まあ、アークに限ってそれはないのだが。
「うっせぇよ、小僧」
きゃいきゃいと騒いでいたら案の定、冒険者に文句を言われた。
冒険者は短気な者も多いので別によくある光景なのだが文句を言われた事がないアークは戸惑い────。
「……す、すげぇ」
次の瞬間には、感極まったように目をキラキラと輝かせた。
アークに文句を付けた筋肉質で大柄な男冒険者はアークの反応にビビっている。
アークは、ただ初めて文句を付けられた事に対して謎の感動を覚えているだけだが、男冒険者はそうは思わなかった。
「……つ、次からは騒ぎすぎるなよ」
ストレス発散の為にもっと色々と言おうと考えていたその冒険者も変態じみた相手と関わりたくないとそれだけ告げるとそそくさとその場を去った。
「はい」
そんな事など露知らず。アークは冒険者が自分に注意をしてくれたのだと勘違い。
なんていい人なんだ……!と尊敬の念をあの冒険者に抱いた。
本当なら「ご忠告どうも有難うございます!」と笑顔でお礼を言いたいところだがコミュ障が邪魔をして固い表情で是と返事するのみになった。
(あああああ……。あんないい人にお礼のひとつや2つ、まともに言えないなんて……)
内心で打ちひしがれ軽い自己嫌悪に陥りながらも表面上は至って普通。
それは元々あまり無い表情筋のおかげだろう。
閑話休題。
ギルドに冒険者登録をしに来たと言うのにこんな所でグダグダしていてはいけないと我に返ったアークは登録カウンターに並ぶ。
運がいいことにあまり人は並んでおらず、直ぐにアークの番になった。
「はーい。ココに書いてある項目を記入してくださいねー」
見るからにやる気のなさそうな受付嬢が間延びのした声で指示を出す。
顔は美人だと言うのに、愛想の欠けらも無い。
まぁ、アークが言えた義理ではないが。
「分かりました」
受付嬢よりも遥かに悪い愛想で了承の返事を返してアークはペンを取る。
名前、年齢、職業、得意武器……。
サラサラと淀みなく嘘を書いていく。
「終わりました」
「あ、はーい。んじゃ、めんどくさいけど何個かテストしますんでー」
(何かこのやる気のなさ、いいなぁ。思ってみれば俺の周りの人間、やる気ありすぎだったんだよ)
普通ならば、「面倒くさいとは何事だ!」と怒り出すのも仕方ないような態度なのだが、アークには好ましく映ったようだった。
「まず、このよく分からん玉に手を翳してくださーい。能力値とか犯罪歴とか分かるっぽいんで」
実は、まず犯罪歴などをこの魔晶玉と呼ばれる玉で調べてから先程の項目を記入するのだが、受付嬢は間違ったらしい。
勿論、アークは手順が間違っているなんて知らないし、仮に知ったとしても「そうなんだ」で終わらすだろう。
(これって魔晶玉だよね。こんな使い方されてるのか。俺がいつも装備品作るのに使ってる玉より大分小さいけどこんなもんなのかなぁ)
なんてどうでも良いことをつらつらと考えながらアークは魔晶玉に手を翳した。
無論、力は抑えているため圧倒的と言われる能力がバレる事はない。
────筈だったのだが。
パリンッ
心地よい、何かが割れるような音がして。
魔晶玉が砕け散った。
「……え」
余りの出来事に常にじとーっと眠たそうな半目の受付嬢も目を見開き驚きで硬直してしまう。
(…………やっべ)
割った当の本人・アークはこの場をどう切り抜けるか考えていた。
正直ゴリ押しでどうにかなるっちゃなるのだが、無表情で焦っているアークは中々解決策を思い付けない。
(早速やらかしたよー!!マジやべぇ。どうすりゃいいんだ……)
「あ……えっと」
自分の失敗に再び自己嫌悪に陥りながらしどろもどろに口を開く。
「べ、弁償……するんで。すみません」
やっと出た言葉はソレ。
「そういう問題じゃないでしょー……」
あの受付嬢までもが思わずツッコミを入れてしまう位には頓珍漢な言葉だった。
「取り敢えずーこんな事は前代未聞だからさぁ……ギルドちょー、呼んでくるわー」
受付嬢はパタパタと足音を上げ、小走りで奥の部屋に入っていった。
その間に解決策を練りだそうとしていたアークだがあまり時間を置かずに受付嬢はギルド長を伴いアークの元に戻ってきた。
「お前か?魔晶玉、割ったのは」
「……えっと……はい」
ギルド長は如何にも武人!というような強面の男……ではなく。
キリリ、凛とした雰囲気が印象的な中性的な美貌を持つ女性だった。
それだけ、それだけなら良かったのだが……。
(あ、この人知ってるわぁ……。孤高の王時代の知り合いだわぁ……)
彼女、アークライト信教(笑)の信者の1人だった。