第1話 孤高の王は、決意する。
初めての作品で,至らない所も多々あると思いますが、楽しんで貰えたら嬉しいです!
【孤高の王。
それはこの世界においての絶対的支配者を指す言葉である。
その者は、あらゆる者を打ち負かす力、跪かせるカリスマ性……そしてどんな者にも慈悲を与える優しき心を持っていた】
「……」
“孤高の王について”
と仰々しい文字で書かれた本を無言で読み続ける青年が1人。
青年の顔は本を読み進める度にコロコロと変化する。顰めっ面になったり、諦めたような何かを察したような顔になったり、笑いを堪えるような顔になったり……。
【孤高の王。彼の者はその名から分かるように常に孤高だった。仲間や友は勿論、僕や臣下も作らずただ1人で高みを目指す……】
そこまで読んだ時だった。
突然、青年が乱暴にその本を閉じてばさっと投げたのは。
「好きで孤高やってんじゃねぇよ!」
乱心したようにくわっと鬼気迫る表情で表情で叫び出す。
「皆孤高、孤高言うけどさ!俺の事尊敬してくれてるなら傷抉るなよ!孤高ってつまりぼっちだろ?知ってるよ!現にだだっ広い城内でたった一人叫んでるからな!」
青年の勢いは止まらない。
箍が外れて今までの愚痴が一気に吐き出される。
「コミュ力ないの位知ってるし!仲間になってや友達になろうよの一言も言えないチキン野郎とは俺のことだよ!!」
壁をドーンッと勢いよく殴りつけた。
かなりの強度を持っている筈の壁がボロボロと音を立てて崩れ始めた。
青年は叫びまくったお陰で少しは落ち着いたのか我に返ったように目を見開き壁に修復魔法をかけた。
「はぁ……」
何もなかったかのように元通りの壁を見詰めながら青年は大きな溜息をついた。
「俺も仲間欲しいよー……。冒険者パーティとか組んで“背中は任せた!”とかやりてぇよ〜……」
さっきまでの烈火の如き怒りは嘘のように意気消沈している。
青年は豪華絢爛な装飾が施してあるソファに身を投げ出した。
「……」
青年は目を瞑る。
ただ、自分のぼっちな境遇について真剣に考えているのだけなのだが、青年の信者達が見ればその姿さえも世界の命運に関わる重要事項を思案しているように見えるのだろう。
青年は考える。考え続ける。
傍目からだと眠っているかのように微動だにせずに考え続けた。
結果。
「そうだ、正体を隠して王都に行こう!」
正体を隠す……即ち孤高の王が姿をくらますという世界中を騒がすレベルの事案を思いつき、事の重大さをあまり考えずに軽いノリで決断した。
頭脳明晰でその知力は大賢者をも凌ぐと言われている孤高の王だが、実はあまり頭が宜しくないのだろうか?
「そうと決まったら早速準備するぞー!まずは髪色と目の色、そして顔の造形を幻術で誤魔化して〜」
その行動力の高さで、青年はあっという間にそこら辺にいそうな地味な少年に姿を変えて装備も脱ぎ捨てて普通ランクの物に着替えた。
「よっし。これでいいだろ!」
にかっと弾けるような笑顔を浮かべて、青年は“脱・ぼっち”を目標に掲げて拳を天に振り上げる。
その姿はいつもグダグダとやる気のない孤高の王からは想像出来ない位輝いており気合いに満ちていた────。
*****
「んー着いた着いた。いやぁ久しぶりだなぁ王都。ずっと引きこもってないで来てれば良かった。めちゃくちゃ綺麗になってるじゃないか」
ぼそぼそと独り言を呟きながら孤高の王もといただの平凡な冒険者・アーク(偽名)
元の名前・アークライトから取った安直な物だが偉大な孤高の王のように強く優しく育って欲しいという思いからアークと付ける親が多い為平々凡々な名前として通るだろう。
「さーて。王都を堪能した事だし冒険者ギルドに行って登録すっか。あああ〜今から楽しみだわー」
孤高で城に居た時の癖か、独り言が絶えない。思考がそのまま口に出るという事態が発生している。
周りの人間は不審げにアークを一瞥しながら関わるまいと足早に通り過ぎているのが視界に映っていないのか。アークは気にせず能力で頭に地図を出しながらギルドへ進んでいく。
……一緒に変人の道も進んでいるような感じは否めない。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
少しでも楽しんで下されば光栄です。