最初の日
ある地方の市役所に就職をした。
当初は、公の役に立つ仕事がしたいと公務員を目指しそれなりに勉強もし、無事地方上級職にも通り採用にこぎつけ平凡ながらも端からみれば順風満帆。
しかしながら、当初の期待も、遣り甲斐もあっというまに失われていった。
出勤初日の朝、総務課から渡され辞令には「坂本卓哉、税務課収税係吏員を命ず」と印字されていた。
収税係とは知ってのとおり滞納整理にあたる部署である。
「学校を出たての税金の事などなにも知らぬこの俺が滞納整理!」卓哉の顔は、それを見た瞬間さっと青ざめた。
勤め人とは、辞令をもらうその時まで、自分が一体何処で何をするのかもわからない、その不条理さをいきなり味あわされたのであった。
「あ、君が坂本君、税務課収税係、係長の長谷川だよろしく。」
ふと気づくと40代半ばの七三分けのいかにも公務員然とした背の低い、疲れた感じの、うだつのあがらなそうな中年男性がそう自己紹介し
「じゃ案内するから」
と、ぶっきらぼうに自分についてこいと目で即した。
場所は、市役所庁舎一階突き当り人目につかない北側奥にあり、通り過ぎてきた、人の出入りがあり活気のある市民課、若い女性職員が多い福祉課などに比べ、収税係は、朝のその時間は窓口に市民の姿もみえず、滞納者と金銭の厳しいやり取りを行う仕事柄か、殺伐とした陰気な雰囲気が職場全体を覆い、ここでこれから過ごすのかと思うと、ますます拓哉の気は滅入っていくのであった。