プロローグ
『無能で全能な異世界人』共々、こちらの方もよろしくお願いします。
「ちゃんと荷物は持った?」
「うん、ちゃんと持ったよ」
ここはとある小さな村、その村に住んでいた、アレン・ディオウラという名の少年が、今日この村から旅立とうとしていた。
因みに、目的地は王都なのだが、そこまで行くにはお金がかかるというので、親切なおじさんが王都まで馬車で送ってくれるらしい。
「本当に? 向こうでの宿泊代とか、着替えの下着とかもちゃんと……」
「もう、母さん! 僕の事を子ども扱いするのはいい加減やめてくれよ、僕はもう十六歳なんだから」
この村では、十六歳を超えたものは立派な大人として見られる。
「でも…大切な一人息子が旅立つ日が来るなんて思ってもみなかったから……」
「前から言ってたでしょ? 僕も大人になったら、父さんみたいな立派な冒険家になるんだって」
アレンが父さんと口にした途端、アレンの母親、サラの顔が暗くなった。
「お父さんが行方不明になってから、もう十年がたつのね……」
アレンの父親であるグレン・ディオウラは、アレンが八歳の時に置手紙を残し、それ以来消息を絶ってしまった。
「……その為の旅立ちでもあるんでしょ?」
今回の旅立ちは、アレンの夢であった冒険家になるという目標以外にも、父親を捜すという目標があった。
アレンの夢を叶えるついでに、冒険家だった父親の情報集めも一緒に行うというわけだ。
すると、先ほどまで馬車の荷台に荷物を詰め込んでいた、親切なおじさんがこちらに声をかけてきた。
「おいアレン、出発の準備ができたぞ」
「あ、はーい」
どうやら、母親とはもうお別れの時間のようだ。
「…ねぇ、アレン」
馬車の出発の準備ができ、お別れの言葉を告げようとしていたアレンに、サラが先に声をかけた。
「ん、なぁに?」
するとサラはニッコリと笑ってこう言った。
「いってらっしゃい! アレン!」
たった一人の息子の旅立ち、寂しいとは感じても、やはり嬉しいものなのだ。
そして、それを聞いたアレンも満面の笑みで答えた。
「行ってきます、母さん」
こうしてアレンは、幼いころからの夢であった冒険家になるため、そして行方不明の父親を捜すための冒険へと旅立ったのであった。