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底辺騎士と神奏歌姫の交響曲  作者: 蒼凍 柊一
第一章 共に輪唱曲を
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激闘の果て

 セツナはカノンを抱えたまま悠然と、堂々とリリアの目を見据え…歩く。


「…っ」


 リリアは感じる。

 強者の風格を。

 圧倒的な魔力、そして実力を。

 一歩ずつ近づいてくる目の前の男は紛れもなく、【強者】であることをリリアの五感全てが伝えてくる。


「…どうした?お前の名は知らんが…俺のカノンに手を出した罪…許されると思うな…!」


 気圧されてしまっていた。

 幾千幾万の死地を潜り抜けた、歴戦の勇士であるリリアが、だ。

 だが、瞬時に気を切り替える。

 気で負けていたらそもそも闘いにすらならないとリリアは判断したのだ。

 だから自分を強く見せるために虚勢を張った。


「貴様も女に入れ込んでいるのか……くっ、はははは!!いいだろう、セツナ!!私が貴様の根性、叩きなおしてくれるっ!!」

「俺が入れ込んでるのは…カノンだけだ」


 言いながら、リリアが先手を仕掛ける。

 片手に持った漆黒の剣を神速の速さで突きだした。

 リリアの渾身の一撃だ。


「ほう…中々良い筋をしているが…それでは俺は殺せないぞ…?」


 セツナの目の前まで迫った漆黒の剣はいきなり甲高い音を立ててはじかれた。

 リリアは驚愕に目を見開く。


(今、何が起こった!?何も剣には触れていなかったはず…!)


 思うが早く、剣が弾かれたせいで崩れた態勢をそのままに弾かれた方向に思いっきり自分でダイブした。


「ちっ……勘が良い女だ…」


 セツナは舌打ちをして、リリアの方に向き直る。

 そこでリリアは今まで自分の居た場所を見やるとその地面が…抉れていたのだ。


「魔法…!?いや、まさか…剣圧かっ!?」


 リリアは推測する。

 地面を抉らせたモノの正体を。

 魔法を発動した形跡は皆無。

 セツナらしき男が持っているのは一本の得体のしれぬ剣だけだ。


「貴様は…何なんだ…?」


 一歩、セツナらしき男から距離を取る。

 その様を見て、男は鼻で笑う。


「ハッ!俺が、なんなのか?…だと?俺はセツナだ…。【底辺騎士(できそこない)】と呼ばれているクズとは別のな…」

「やはりそうか…昨晩、騎士団を壊滅させたのは貴様だろう…・」


 リリアは静かに問いかける。


「あぁ?騎士団?……あぁ、あの気持ち悪いおっさんどもの事か?あいつらなら…()が殺した…。俺のカノンを攫おうとしてたんだ…当たり前の処罰だろう?」

「当たり前…か。お前にとっての世界はきっと……その女だけなのだろうな…」

「フン!俺の全てはカノンのモノなんだ…当たり前だろう…?お前も、カノンに剣を向けていたよなぁ?…無様に生き続けるか、楽に死ぬか…どっちがいい?」

「ははっ…!あいにく、女に現を抜かしているバカに、殺されるつもりはないっ!!」


 瞬間、リリアは剣を持ち、攻勢を仕掛ける。

 斬撃は、斜め下からだ。

 神速を誇るリリアの斬撃。

 それを見切ったかのようにセツナは紙一重で避ける。

 だが、リリアの攻撃は一撃だけでは収まらない。

 二撃目。三撃目、四撃目…一瞬の間に七つの剣閃を描き出す。


「はぁああああああああ!!」


 それを、五回…続ける。

 合計三十五もの斬撃が、瞬きをする間もなく放たれたのだ。

 リリアが剣を持ち、戦いだしてから磨き続けてきたこの技の名は…【絶技・瞬光】。

 戦場に立ち、幾度も敵の肉を切裂いてきたこの技。洗練されていて、無駄な動きは一切なかった。

 だがその上をセツナは行く。


「っ………!!」


 そのすべての斬撃を寸分たがわず同じ角度、同じ力、同じ技術を持って相殺したのだ。

 流石のリリアも全力のこの攻撃をセツナが相殺した事に驚愕せざるをえない。


「なっ!?」

「大した技術でもなさそうだな…教官殿…?あともう二十(・・)は繰り出せそうだぞ?」

(私の全力を、受け切った上、まだ二十は繰り出せるだと!?)


 リリアは意地でも退かなかった…いや、退けなかった。

 今ここで自分が退いたら取り返しがつかない事態になってしまう…と、直感が告げてくるからだ。

 続けた。

 剣戟を…全力を超えながら、力を振り絞りながら、リリアは剣を振るう。


 だが、無情にも決着はついてしまう。


 八回目の打ち合いの果て、疲労によりリリアの態勢が崩れたのだ。


「もらった…!!」

「ダメっ!セツナ!!」


 突如として聞こえてきた…抱えられたカノンの声に、セツナの動きが止まった。

 もう一瞬遅かったら、リリアの首は確実に吹き飛んで居ただろう…。

 そんな距離での、間一髪の静止だった。


「ちっ…運がいいな…お前は…」

「…生かされた…のか?」

「生かされた…?勘違いするなお前のカノンへの敵意が消えたから…俺も消える…それだけの話だ」


 その瞬間、セツナはカノンに支えられながらぐったりと脱力し、地面へと横たわる。

 剣は粒子となってカノンの中へと吸い込まれていき…カノンの姿も元の姿へと戻った。


「…っ…はぁ、はぁ」


 カノンは荒い息を吐きながら、セツナの胸へと倒れこむ。


 そして残ったのは…荒れ狂う魔力により失神したカイトとユキ、呆然と立ち尽くすリリアだけだった。

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