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パラノイド・ワーム  作者: 風水ほのお
9/11

9

 朝から雨が降っていた。地球上を覆った粒子フィルターのせいで、水蒸気があまり上空に上がらず降水量が少なくなっていたが、今朝から珍しく雨天だった。

 土砂降りの強い雨の後、少し小降りになったが、道はぬかるんでいる。靴が泥だらけで空気も湿っぽい。


 そんな雨の中、悲劇は起こった。デトロイト駐屯の兵士の中に、ワーム感染者が出た。それも少人数ではない。感染した兵士だけで大隊が作れそうだ。キャンプは、阿鼻叫喚となった。

 脅威なのは人数だけではなく、兵士であるため銃が扱える、という点だ。ファルコンのように重機が得意なのもいれば、ヘリコプターを操縦する者もいる。地上は爆薬が発火し、レーザーの赤い光線が飛び交う。空からも機関銃の雨が、本物の雨に混じって降りそそぐ。


「FB! 負傷兵をパラライズさせて!」


 ダイアンの声に“了解!”と、FBはパラライザーで次々に麻痺させていく。早く手当てしないと命に関わるだろうと思われる者もいるが、今は医療施設に運ぶ余裕がない。

 今度はファルコンから小型爆弾をいくつか渡される。


「爆弾を燃料タンクに設置しろ。感染者をできるだけ多く引きつけて、レーザーで撃て」


 言われたとおりに爆弾をしかける。燃料タンクの陰からレーザー銃を地面に撃ち、こちらの存在を気づかせる。感染者を何人か、燃料タンクのそばまでおびき寄せる。その場から離れたFBは、銃で爆弾を撃った。感染した兵士たちは炎に包まれる。

 ほかの部隊との連携もあって、感染した兵士の数をかなり減らせた。


「FB!」


 ナイトが投げてよこした遠距離用ライフルを、FBが受け取る。安心している暇はない。今度は空に向けて迎撃だ。


「ヘリの数が増えた。こいつで落とすぞ」


 ジープからテントへ、テントから巨大コンテナへ。移動しつつ陰からヘリコプターを狙う。


「コクピットは対レーザー仕様の特殊アクリルだから、撃つだけ無駄だ。ローターを焼き切れ。狙いづらかったら、ドアの後ろの給油口でもいい。爆破できる」


 高速で回転するローターは、的が小さく難しい。低空飛行のため、風圧で粉塵や雨水がはね上がる。視界がぼやける中、ドアの後ろを狙った。三発目で命中し、四発目で煙が出た。火に包まれ、ヘリコプターは空中で爆破した。


 敵が次々と倒れていく中、未感染者の死傷も多い。後で救助するため、息のある者にはパラライザーを使うが、おびただしい数だ。ダイアンが後ろから援護しながら救助もしているが、パラライザーがエネルギー切れになった。


「ちょっと! そこのエネルギーボックス担いでる人!」


 ダイアンのそばで、フードつきのガスマスクをした兵士が小走りに過ぎて行こうとしていた。背中には銃やパラライザーのエネルギーを収納するためのボックスを背負っている。補給兵だった。


「パラライザーのエネルギーをちょうだい!」


 ダイアンの声が聞こえなかったのか、兵士は素通りして行く。ダイアンは駆け寄り、補給兵の前に立ちはだかる。


「聞こえなかったの? エネルギーを早く…!」


 ダイアンの体がいきなり、ぬかるんだ地面に沈んだ。補給兵がダイアンのみぞおちを殴ったのだ。FBは後ろに忍び寄り、フードつきのガスマスクを外した。ほとんど白に近い髪に瞳、青白い肌に紫色の唇、尖った耳――エイリアンだ!

 エイリアンは回し蹴りをするが、FBはそれを受け止め、ひっくり返す。地面に仰向けになったところを馬乗りになる。拳で顔を殴り、軽い脳しんとうを起こさせ、レーザー銃で眉間を至近距離から撃った。


 エイリアンが背負っていたボックスを開けると、中はエネルギーではなかった。ガラスのような透明の筒に液体が入っていて、いくつもの灰色の粒が浮いていた。ワームの卵だった。どこかで培養させた卵を、また別の所に運ぶ最中だったのだ。


 FBのトランシーバーに連絡が入る。


「誰か! 「CL-99(シーエルダブルナイン)」を持ってきてくれ! 培養装置を十個ほど見つけたが足りないんだ! 場所は、ダウンタウンの監視用ビルだ!」


 ダウンタウンにあるビルの一棟を、見通しがいいため監視用に軍が使っている。感染者の道筋をたどり、ジェフはワーム培養装置をそのビルで発見した。

 ヘルメットをかぶり、軍用バイクにまたがると、FBはダウンタウンへと飛ばした。




 ダウンタウンは、FBの初めての任務だった場所だ。あの日と変わらず、ビルは灰色の空と地面に同化するように佇んでいる。

 バイクを降り、FBはビル内に入る。


「こちらFB、監視用ビルに到着した」


 雑音まじりに、スピーカーからジェフの声がする。


「7階だ! ヤツらは真ん中の、人間の出入りがあまり無いフロアを使いやがった!」


 上層階は監視台として使われ、下層階は倉庫や司令室、医務室などに使われる。そのため軍人の出入りが激しく、いくら変装してもエイリアンは見つかるかもしれない。

 そう考え、エイリアンは見つかりにくい中層に、ワーム培養装置を置いた。


 明かりにはランプを使うこのビルは、もちろんエレベーターは動かない。FBは階段を駆け上がる。途中、いくつか死体が転がっていた。殺し合いをした感染者だろうか。皆、土色のジャケットに灰色の迷彩服を着ている。


「ジェフ! そこに感染者はいるか?!」


 ジェフからの応答は無く、雑音ばかりが入る。バッテリーが切れかかって音声が届かない、という程度ならいいが。何かあったのかと、7階に近づくにつれて不安は大きくなる。


 ビルの7階。通路の両脇に部屋かあるが、まともに閉まっているドアは無い。開けっ放しか、蝶番がグラグラでぶら下がっているか、蹴られてへこんでいるか。

 ガタッと音がした。FBは銃を構え、音がした方へと近づく。


「ジェフ、いるのか?!」


 鼓動がうるさい。一人が心細い。いや、一人ではない。このフロアにはジェフがいる。無事であることを願い、FBは一歩ずつ音の方へと進む。

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