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パラノイド・ワーム  作者: 風水ほのお
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 第十五部隊の新たな任務だ。避難所になっていた州立大学で、ワームによる暴動が起きていた。軍が警護をしていたが、その兵士も何人か遺体となって転がっている。

 棒きれや鉄材を持った感染者が暴れ回り、第十五部隊のジープに駆け寄って来る。急いでジープを降りたメンバーは、銃を構えて応戦した。

 かなりの人数で、ほかの隊とも乱戦になっている。銃が味方に当たりそうなときは、やむなく体術を使う。


 暴動がおさまりかけた頃、図書館前には死体が何体も転がっていた。この辺りは静かだ。もう誰もいないのだろうか。

 ジェフのトランシーバーに連絡が入る。


「美術館で暴動が起きている。至急、援護を頼む」


 近くの美術館には、ジェフ、ナイト、ダイアンが向かう。FBとファルコンはここに残り、ワーム感染者や未感染者、エイリアンや培養装置が残っていないか確認する。

 図書館は堅固な建物のはずだが、壁に穴が空き、窓ガラスも割れている。玄関に回るより早い、とファルコンが窓から中に入り、FBもそれに続く。


 書架は倒され、本が散乱している。今回の暴動でそうなったのか、あるいはもっと前なのか。本はほこりにまみれ、飛び散った血は褐色に変色しているところを見ると、ずいぶん前の暴動だろう。

 隅の方に、水槽のような容器があった。ワーム培養装置だ。FBは「CL-99(シーエルダブルナイン)」を静かに入れ、カプセルが溶け、卵が黒く沈殿するまで待つ。途中、孵化したワームもいない。全ての卵を死滅させてから小型爆弾を仕込み、爆破させた。


 そのとき。ガタッと、椅子が動く音がした。ファルコンとFBは銃を構え、慎重に近づく。だが、物陰から出てきたのは老夫婦で、ファルコンたちの顔を見ると安心した表情を浮かべた。ファルコンは銃を下ろし、二人に近づいた。


「陸軍の者だ。感染はしていないようだな。救護部隊に連絡をする」


 ファルコンがトランシーバーをポケットから出したと同時に、大きな書架が倒れた。重い音を響かせ、煙のようなほこりを舞い上げ、その後から一人の男が現れた。同じ軍服を着ている。またもや、ワームにやられた陸軍の兵士だった。

 ワームは知能が低いが、宿主の本能までは乗っ取らない。銃の扱いを知る者は銃を使えるし、体術に優れた者は言わずもがなだ。

 机や書架で身を隠しながらレーザー銃の攻撃を交わす。


「FB! 俺がやつを仕留める! お前は二人を外に連れ出して、救護部隊に連絡しろ!」


 FBは、老夫婦を図書館の外に出るよう促した。だが、夫人の方は脚が悪く、思うように歩けない。FBは夫人を背負って脱出した。

 トランシーバーを取り出し、連絡を取ろうとしたとき、赤い閃光が走った。閃光はトランシーバーを貫き、FBは手に火傷を追った。ワームに感染した別の兵士が銃を構え、こちらに向かってくる。

 FBは夫人をその場にそっと下ろし、ホルダーから銃を抜くと、兵士の眉間を撃った。なんとか命は助かったものの、トランシーバーを壊され、連絡が取れない。

 美術館は暴動が起きているが、ジェフたちも、ほかの部隊も救護部隊もいる。今ごろは鎮圧しているかもしれない。FBは再び夫人を背負うと、160ヤード先の美術館に向かった。

 だが、レーザーで火傷した手は意外にダメージが大きく、額からは脂汗が出る。


「軍人さん、手当てをしてやるから、そこの建物に逃げましょう」


 老人にそう言われ、重い体を励ましながら、もとがカフェだった建物にたどり着いた。


 カフェの中もかつて避難所になっていたらしい。缶詰や飲料水、救急箱や毛布もある。カフェの椅子に毛布を敷き、そこに座ったFBは老人から手当てを受けた。おかげで出血はおさまり、冷却剤で痛みがずいぶんマシになった。

 手当てが終わるころには、夫人が缶詰のチリビーンズとオニオンスープ、それにクラッカーを用意してくれた。緊張感が途切れると、空腹を覚える。そんなタイミングで温かい食事はありがたい。FBは礼を言うと、食事を胃に収めた。




 少し仮眠を取り、うとうとしかけたところに眩しいライトの光が差しこんできた。外はもう暗くなっている。


「FB? FBなのか?!」


 小型ライトを手にしたジェフが、カフェの中に入ってきた。後ろにファルコンもいる。


「よかった…。連絡が無いから、どうしたかと思ったぞ。ご夫婦もいっしょだな」


「あ…その…ワームに感染した兵士に、レーザーでトランシーバーをやられて」


 ジェフはFBの隣にしゃがむと、栗色の頭を乱暴に撫でた。


「そうか、心配したぞ。やられたのがトランシーバーでよかったな」


 老夫婦は救護部隊とともに新たな避難所へと向かうために、FBとジェフとファルコンはキャンプに戻るために立ち上がった。

 その時――


「オアァァーッ!」


 老人がいきなり叫び出し、辺りのテーブルや椅子をひっくり返す。仮眠している間に、ワームに侵入されてしまった。FBは防護マスクに破られにくいジャケットと迷彩服のため、夫人より体の大きい老人を、宿主に選んだようだ。

 ジェフとFBが銃を手にし、ファルコンが老人を取り押さえる。


「ジェフ! FB! 夫人を外に連れ出してくれ!」


 夫を殺すところを見せたくない。それを察知したジェフとFBは、泣き叫ぶ夫人を外に連れ出した。

 外に出ると、窓から赤い閃光が見え、中は静かになった。


「あなた、あなたー!」


 夫人はうずくまり、号泣した。軍の者を恨めない。放置すれば、ここにいる全員が助からないうえに、犠牲者が増えるだけだ。頭でわかっていても、受け入れがたい事実だ。

 せめてもの弔いと、ジェフとFBは右手を胸にあて、黙祷した。

 そのわずかな間。その、ほんの一瞬の隙に。


 赤い閃光が光った。


 FBの手から銃を奪った夫人は、自分のこめかみに当て、トリガーを引いた。なんのためらいもなく、顔には笑みすら浮かべていた。それは安堵の笑みではなく、狂気のものだった。

 こめかみから煙を出して倒れた夫人を抱きかかえ、急いで止血しようとしたFBの肩をジェフが押さえる。FBが見上げると、ジェフは首を振っていた。


 カフェから老人の遺体を抱えて出てきたファルコンは、目の前の惨状に膝から崩れ落ちた。ジープで帰る間“クソッ!”と何度も罵りの声をあげていた。

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